九番目から冒険。

 「あびゃびゃびゃびゃびゃ」

 転がる攻撃。サイコオーラを纏いながら遺跡を転がっている。え、何をしているのかって、だからサイコオーラを纏って遺跡の中を転がっている。

 なんでってなんで。質問を質問で返す。

 索敵しているし近くにはホロもホロウもアンデットもいないから大丈夫、すごく大丈夫。だいじょばない。

 ちょっとふざけ過ぎてしまった。立ち上がってから恥ずかしさでエルフリーデに埋まってしまった。

 あたまがおかしくなってしまったんだぁあああ。

 あたまがあああおかしくなってしまったんだあああ。

 エルフリーデから離れて背を伸ばす。そろそろ遺跡攻略するかな。

 サイコオーラで防御したから地面の泥で体が汚れることもなく、胸がつっかえて転がれない事も無い。

 本を閉じたエルフリーデを外装の中へ引っ込める。

 ちょっと抵抗しないでよ。早く入って。なんだっちょっ、手を掴まないで、早く。

 これおいらが離れたくないってことなのかな。嫌々ながら外装の中へ入っていくエルフリーデを見送る。

 外装の中からコインホルダーをエルフリーデに取ってもらい、コインホルダーをパウンドスーツの上からベルト状に腰に装着する。次いで銃を取ってもらい、銃の性能を確かめる。

 小型鑑定ルーペで覗き込み、壊れていない事を確認。念のため自動補修ガジェットを装着すると、少しばかりの金属音が響いた。何処か歪んでいたかもしれない。

 ガジェットを外し外装に入れ、エルフリーデに受け取ってもらい、次いで消音ガジェットを取ってもらい装着。上部のコイン挿入口を開け、何度か開閉後、標準を覗き込み、引き金を何度か引く。問題なさそう。

 コインホルダーからコインを摘まみ装填――マッピングで足元に標的マークの円を描く。屈み、構え、標準を覗き、最低出力で引き金を引く。

 何度か引き金を引く――コインは進み、戻って来て、地面で自転しながら公転する。

 一、二、三、四、五、六、七、八、九、標的をわずかにずらし一秒、覗き、息を止め、十発目。

 独楽のように回る右足横のコインを十発目が吹き飛ばす。


 最低出力だと威力も弱い。慣性を失いつつあるコインをハンドトゥハンドで手元へ引き寄せ五枚は再装填、残りをホルダーに戻す。

 この銃の良くないところは装填中の弾を交換するのが面倒なところ。どちらかのコインを選び打つという機能が無い。夕霧の霊銀、追尾性能を持つコインと残呪の霊銀、炸裂機能を持ったコインを途中で入れ替えるのにコインホルダーから出して再装填しなければならない。仕方がない。

 夕霧は単独でも追尾性能があるけれど、マッピングディスプレイと連動して追尾性能を上げるとほぼ命中してくれるので、銃の腕が落ちそう。

「ブラックドック」

 黒い犬を一匹召喚。

(わたくしは?)

 影から顔を出して来たのはヴェーダラの分体。ヌイって呼んでいる。

「そこにいてよ」

(使わないのですか?)

「訓練にならないからね」

 恨めしそうにゆっくりと沈んでいくヌイを見て少し笑ってしまう。

「なんなら足に巻き付いている?」

 そう告げると影からパッと出て来て首に巻き付いて来た。

(首に巻き付いているわ)

「うーう。高級マフラーだ」

(そうでしょう)

「温めて」

(わかったわ)

 ヴェーダラ様本体みたいに、触れても肌がドロドロにならないのが救いだ。

 ヌイの意識はヴェーダラ様の疑似餌の意識に似ているらしい。本体の意識ではないが、似た意識ではあり、エルフリーデより豊かではあるけれど魂のようなものはない。

 正直ヌイは強すぎる。質量が問題だ。本気になると一つの街を囲うほど大きな蛇になれる。しかも生物じゃないから死なない。でも別に街を滅ぼしたいわけじゃないし強すぎる威力なんてあんまり必要ないかもしれない。


 マッピングディスプレイを見て敵の様子を探る。

 ここは中層手前。ヴェーダラの目とサーチアイで辺りを一瞥する。

 マップから表層の様子を探る。人間達の行動を見る。敵はアンテ族のゴブリン級が多い。ゴブリン級ならある程度は問題ない。個体差はあるけれど。

 一匹オーガ級のでかい表示があるので、コイツだけは処理しておいた方がいいかもしれない。ヴェーダラの目、サーチアイで見るに、寝ている。銃からコインを取り出しマップを見て、ここからオーガまでのルートを指でなぞる。

 オーガ級にピンポイント。ヴェーダラの目で頭の位置を確認、スコープを覗き、ダイヤルを合わせる。マップからターゲッティングをオン。

 屈み――息を止め、スコープを覗き、ファイア。

 コインが可能な限りルートに沿って飛翔する――2,3。命中。頭を狙ったはずなのに、喉を貫通した。精度が甘い。オーガが起き上がり、喉を抑えてもがくのを眺める。

 体感三十秒ほど、一秒を長く感じたから、実際は三分ぐらいたっていたかもしれない。

 オーガは絶命した。

 壁越しの相手にしては命中するだけ良かったのか。

 今後はあまり壁越しの射撃はしないかもしれない。コインの回収が困難だ。一枚ぐらいいいじゃないと思いつつ、その一枚が大事で、ブラックドッグに乗り結局取りに行った。


 オーガ級の死体を眺める。指の長さと比べて目算対比より体長約二メートル。一メートル五十を越えた辺りからオーガ級。横に太くなるとオーク級となる。

 ゴブリン級に比べて毛深く同じ種族として見て良いのか迷う。

 ひどい臭い。体表が毛に覆われており体毛は湿っていて緑の液体が付着している。ぬめぬめしている。この緑の液体はオーガの体表で育つ藻の一種で形状としてはアオミドロに近い。人には有害だ。この藻が色々な原生動物の巣になっている。

 特に不衛生な爪などに付着する細菌類はSFTSに似た症状を引き起こす。SFTSは重症熱性血小板減少症候群の略で、ダニ等が媒介する感染症の事。ダニじゃないじゃんってだから似た症状だってば。

 通称ゴブリン病。

 この世界の自然において寄生や病原菌に犯されていない個体を見つける方が難しい。これガチ。自然は何時も厳しさだけしか与えてくれない。これもガチ。

 人とアンテ族、アンテ種との共存は不可能。コイツ等う〇こ手で触るしね。仮にう〇こが汚くないとしても腸内細菌は例え人の物であっても口から摂取したら病気になる。ならないかな。これは思い込みかも。

 感染しても薬を飲めば大丈夫。高いけどね。おいらの血液投与で大体の病気は治る可能性はある。ただ穢れを受け入れるかどうかは別の話。夜闇の加護が無いとダメ。ていうか間違えなく薬学ギルドとかが激怒しておいらを血祭に上げようとするだろう。

 血液型が合わないとダメだって言う。でもこの世界の血液型はおいらが知る限り二つしかない。そしてその血液は混ざっても凝固しなし拒否反応も無い。あとヴェーダラ様と契約したおいらの血液はもはや人のものじゃない。

 接近戦をするのならサイコオーラのような術で粘膜や肌に直接触れるのを防ぎながら戦うのが良い。接近戦はおすすめしない。でも皆接近戦が好き。接近戦では槍が一番おすすめ。でもこれおいらの考えで、もっと上手に戦える人とか頭の柔軟な人とは考え方が違う。

 ホロとホロウって虚ろって意味なんだってさ。

 おいらは人を人足らしめる要素って優しさだと思うんだ。優しさや愛情。

 ホロやホロウは軒並みそれらが無い。

 コインを探し、サイコオーラでコインの表面に着いた血液などを退けてからホルダーに回収する。

 オーガ級を見るといつも思うけれどゴリラだわ。構造は人に近いけれど、ビックフットはこんな感じなのかもしれない。食べられるけれど十分に火は通した方がいい。でも火で焼いても死なない細菌もいるからやっぱり食べない方がいい。

 あとカンニバリズムを気にするなら食べない方がいい。


 人が来る前に中層に引っ込む。元来た道を戻る。なんか、急速に接近してくる人達がいる。さっさと中層に戻ろう。接敵しないように元来た道を戻る。

 ブラックドッグの背中に乗って、おいらがブラックドックになればいいじゃまいか。おいらが犬なるわ。モーションで犬になって中層へ向かう。

 遺跡の床は硬い。

 遺跡の形とは別に遺跡の成り立ちはいくつかある。

 一つは古代人の生活空間や古墳などが出土した場合。通称ルインズ。

 こういう遺跡は通常ガーディアンがいて守っているので一目瞭然。

 一つは地獄に通じた遺跡。迷路型で五十層以上続いているので調べればわかる。通称ヘル。

 最後の一つはトラップルインズ。

 トラップルインズは冒険者がメインとし好む遺跡だ。

 通常のルインズにはいいお宝が眠っているものの、一度攻略されるとただの遺跡になり果てる。それでもホロウなどは沸くけれど最大の旨味が少ない。

 攻略されていないルインズにはスカイシップが眠っている可能性がある。一攫千金だけれどガーディアンがそこそこ強い。ガーディアンの強さと宝の質はあまり関係ない。守りたいものが個人によって違う。宝より子供や人が大事って遺跡はガーディアンがクソ強いのに宝がショボい。おいらは好きだけどね。

 ルインズにも種類がありホロの住処かそれ以外かに分かれる。

 ホロの住処だとわらわら出て来て戦争になる。

 もう古代人はいないからね。

 地獄(ヘル)はやばい。人類存亡をかけた戦いがある。ホロが少数いる。地獄のホロウはトップスターを落とす確率が高い。地獄って実はめちゃくちゃ鉱山資源がある。人間界には存在しない鉱石とかある。アダマンタイトとかオリハルコンを鍛えるなら地獄に行かないといけない。

 アダマンタイトの融解温度は約十万℃ぐらい。鉄が1538℃ぐらいなので約65倍だ。アダマンタイトはクソ硬いし一度固まると回路も引けない。普通の人間にアダマンタイトを鍛えるのは無理。現存するのは古代人が作ったもの。鋳造する時に溝を作っておいて、後で回路をひくのもありだけれどコーティングしないと剥げてすぐダメになる。

 研ぐのも一苦労。一万℃ぐらいの温度にしてオリハルコンのヤスリやアダマンタイトのヤスリで荒砥した後、オリハルコンのヤスリやアダマンタイトのヤスリで仕上げる。

 固まったらもうどうにもならない。鈍器を作ったほうが遥かに簡単だ。

 欠けない折れない曲がらないけど成形もできないよ。地上に帰ったらもうどうにもならない。三万℃だったら雷を使ってワンチャン成形の可能性があった。あったかな……かなぁ。


 オリハルコンは八万℃ぐらい。溶かすために炊いた熱の傍にいるだけで死ぬ。

 とは言ったものの、おいらこれらは資料でしか見たことないにわかなんだ。にわかなーんだ。現物があるからね。作る必要ないし。

 ヒロインがマルズルートでレベル7になり地獄に行き聖剣を作るイベントは激ムズいと兄が言っていた。おいらはマルズが嫌いだからやってない。

 価値に見合う効果かと言われると、地獄を封印するのにマルズが使うので一度も振るわれずに終わる、らしい。地獄の入り口って局所的ででかい扉があるんだけど、その閂に剣を使うのだそうだ。


 自分でも調べてみたけれど。地獄には地獄の神様がいて、そして地獄は人が最後にたどり着く場所の一つだ。だから人の手によって人の道具を使い、閉じられなければならない。それが地獄の決まりらしい。

 それでも亡者が増えすぎると剣は圧迫に耐えられなくなり、壊れてドアが開くらしいけれど、これは人と地獄の神様との約束で、人が人として生きている以上、決して避けることのできないものの一つなのだそうだ。その時の閂の剣は騎士の武器になる。やべーじゃんってかなりヤバい。

 そして地獄の神様が人間に直接手を出さない条件でもある。

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