六番目の不具合と憂鬱はここまで

 ……おいらがレ〇プを拒否したことにより起きた不具合はいくつかある。

 その中でもっとも恐ろしかったのは聖女の喪失だ。

 おいらは聖女の動向をマッピングディスプレイやヴェーダラの目、エルフリーデで監視していた。聖女が物語通りの人物であるのか知りたかったからだ。

 幼い彼女は過酷な運命にあった。その運命の始まりを止められなかったことを苦しく思う……この部分はぼくにとっても苦々しい。その苦々しさはその運命を変えるか変えないかに関わる。

 そこには普通の女の子がいた。そのままならばおいらが手を出すこともなかったけれど、おいらが運命を変えたせいなのかもしれない。冬だというのに雪山に赴く事件があった。その時はまだ王族の庇護も護衛もなかった。

 案の定ユエニファは遭難、こんな事件は設定上なかった。

 その他にも細かく変わってしまった事象はある。聖女が入学してくるのは十五歳だったはずだ。でも十四歳で入学してきた。

 おいらはその事象に、とても恐怖してしまった。

 誰かが過去を変えて誰かを助けハッピーエンドになったとしても、その過去を変える事により未来で誰かが死ぬかもしれない。その誰かを助けるために未来の誰かは過去改変をなかったことにしようとやってくるだろう。

 おいらの一挙手一投足が本来の道筋を変えてしまう。いい方に転がればいい。でも悪い方にも転がる。おいらが運命を変えたせいで死んだ人間はいるだろう。マルグリーダとか。

 追放されるのをずっと待っていた。追放されたドラッベンラの未来は無いのだから。


 壁を元に戻すついでに隙間に布切れを挟む。この布切れは、ここに休める空間がありますよという合図。スカウトなら気づく。気づかないスカウトはダソダソ。ダソダソなものはダソダソ。通常はスカウトが安置スキルを学んでいてソルジャーに伝える。ソルジャーが安置スキルを学んでいるとスカウトと協力できるけれど反発される可能性はある。人格によるよね。マップを見ながら下に下るルートを見る。下に下れば下るほど良い玉を持ったホロウがいる。

 ちなみにアンデットの中に吸血鬼はいないのかという話。

 結論から言うとアンデットでは無いけれど吸血鬼はいる。

 吸血鬼は獣人に含まれる。含まれない。多分含まれる。人から見れば獣人だけれど、獣人から見れば亜人となる。獣人としては一緒にするなって話で、実際獣人と吸血鬼は仲が悪い。

 吸血鬼の性質上人と仲良くするのは難しいけれど仲良く共存する人達はいる。

 吸血鬼と人の交尾はヤバい。吸血鬼に血を吸われながら陰部を交差すると、吸血鬼の唾液に含まれる成分が脳に達して起こる快楽と、交尾の快楽と、死を感じることで脳から分泌される快楽物質で感度三千倍になる。けど終わったあと廃人にもなる。死を体験する。そのまま吸血鬼になる人が多い。快楽の末、人としての生を終え、吸血鬼に生まれ変わる。

 人から吸血鬼になった夫婦は仲良しだけれど生きづらい。定期的に起こる渇望で血を摂取しなければならなくなるから。しかしお互いの血を吸いながら行われる交尾はえも言われぬほどの幸福感なのだとか。うらやまー。

 貴族の時捕らえられた吸血鬼の夫婦を助けたら色々教えてくれた。

 残念ながら吸血鬼はおいらの血を飲めない。つまりおいらは吸血鬼にはなれない。

 やっかいなのは吸血鬼になった人間が、この幸せを他人にも味合わせてあげたいと思う事。人から吸血鬼になった人間は死の快楽を至上の物だと思う傾向にあるらしく、結果的に村や街を壊滅させる。そうしてでき増えた吸血鬼がまた村や街を襲う。

 あの幸福を二度と味わえないのかと思うと、貴方達人間が羨ましいと吸血鬼が言ってのけたほどだから、それほどの快楽なのだろうと思う。

 ただこの連鎖が非常に悪く、そのせいで吸血鬼は迫害される。

 実際人から吸血鬼になった雌を捕らえて雄をあてがってみた。雄はやべぇ色々なやべぇ体液をやべぇまき散らしながら絶死し、なり損ない(ダムピール)になった。

 牙を入れてから行為に及んだか、行為をしている最中に牙を穿ったかの違いらしい。

 なり損ないは頭がパッパラパーなのでゾンビと一緒だ。快楽物質で脳が破壊されてしまって、そのまま不死になってしまった。


 それ以外にもこの世界の吸血鬼と呼ばれる存在は調べた限り何種類かいる。

 一つはドラキュリアと呼ばれる存在。コイツらは自分にドラゴンの血が混ざっていると信じている。古代遺跡から出土した王家の文献を解読するに、古代種族によって遊びとして作られた種族のようだ。古代種族は文明が高度に発達しており、残虐行為などが一切禁止だった。じゃあ人間じゃなければいいじゃないとそういう用途で作られた種族の一つがドラキュリアだ。

 これには獣人も当てはまり、ドラキュリアと獣人のルーツは同じだ。胸糞案件だけど胸糞案件だ。ドラキュリアは竜のような姿に変身できる。コイツ等が闘技場用に作られたせいだ。

 竜って言ったら大半はコイツ等。吸血鬼じゃないじゃんっておいらも思うけれど、分類上は吸血鬼だ。

 古代人ではないので古代人の考えは文献からしか読み解けない。

 母の設定でもこの辺はだいぶぼかされている。ストーリー上あんまり関係ないせいだ。本来は乙女ゲームだしね。

 管理を離れて自然交配が進み、異種交配も進んで色々な種族がいる。

 一つの種類より分岐し、種族というよりは一種を頂点とした眷属と呼ばれる。

 ドラキュリアは純血主義で派生した種はドラキュリアの眷属扱い。

 眷属の中で有名なのがウルム族。

 ウルム族はおれつぇーっでたびたび問題を起こすイカれた種族。人里にも降りて来ておれつぇーするので友好的な奴は好かれる。英雄って言ったらコイツ等。

 ドラキュリア自体は文献でしか見たことないけれど、現在世界には数十体しかいないらしい。

 糖鎖は人間と同じ。つまり子作りができるけれど人間とドラキュリアのハーフは奇形が多く不幸な場合が多い。古代人の性を満たす目的で付随された可能性はある。


 次に可能性があるのは感染症。感染症と言ってもいいのかわからないけれど、共存生物と言っていいのか寄生生物と言っていいのか、川に住むウナギのようなヒルのような生物がいて、コイツが尾骶骨に取りつくと、背骨と同化して吸血鬼となる。ホラーじゃないかって話だけれどホラーだ。

 発症から十日でンピールと呼ばれる吸血鬼へと変化してしまう。

 個体数が少ないので滅多に寄生されるものではないけれど、コイツが背骨と入れ替わると同種の血を渇望するようになる。相手に噛みついた際に卵を抱卵し、卵が相手の体内に侵入すると脊髄へ移動し孵化。幼体は時間をかけて背骨脊髄と同化する。やべぇー奴じゃねーかと思うじゃん。やべぇー奴だ。

 親と子が存在し親は子を引き連れて群れを作る。要注意案件。

 寄生されると人格はあるものの好みや性格は変わる。下等な生物との癒着は下等な生物を生み出すだけだという迷言がこの国にはある。大体コイツのせい。


 ウィルスによる吸血病もある。人から人に感染する。残念ながらこの世界の現代医学において治療法は皆無。神はウィルスを消滅させてはくれないので奇跡にすがっても無意味。仮にヒトキュウケツウイルスと名付けた。

 対策が無いわけじゃないけれど、それをするとおいらが批判される。改宗も要求しないといけない。

 夜と闇の女神に改宗してもらったらホワイトスライムの中で分離させたおいらの血液中に含まれている穢れを感染している対象の血管に注射する。全身からウィルスが血液と共に分泌してそれはそれはひどい状況になる。いくら女神の恩恵があってもおいらと普通の人との差は大きい。見誤ると相手は死ぬ。完治はするけれど、体力と血液の消耗が著しいので何回かに一回は多分死んでしまう。神官の星術で補佐して貰えばワンチャンある。


 先ほども紹介したけれど堕ちた神とその眷属が、この世界において故郷の吸血鬼にもっとも近い種である。

 堕ちた神と呼ばれるだけで名前は不明の神がいる。この神より恩恵を受けた人々が吸血鬼になる。仮に神を祖と呼ぶ。

 祖は女神ら八柱と力を打ち消し合う関係にあり、双方が双方の力に圧力をかけているので祖は全力を発揮できない。

 この堕ちた神を祖とするのがこの世界の一般的な吸血鬼。

 その牙には祝福と憎悪が宿り人々を快楽という幸せに導くが、憎悪の宿る眷属へとされてしまう。血を飲む以外は普通に暮らしている人が多い。血を飲むのは憎悪の代償なのだとか。祖が人を憎むがゆえ、その憎むべき人の血により癒されるなんて話もある。文献によっては人が貴方のようになりたいと願ったがゆえ、祖が力を与えるために血を飲んだ。ともされている。

 吸血鬼は祖より恩恵を受け祖の力の片鱗を得る。

 吸血行為は吸血鬼にも吸血者にも多大な快楽を与えるため、たびたび村や街の人々が吸血鬼に入れ変わる乗っ取り行為が起こる。

 ただ神々の采配は祖にもある。それゆえ祖はヴァンパイアハンターを作り、たびたびいらない眷属を処す。吸血鬼を作るがゆえ吸血鬼の滅ぼし方も知っている。

 脳が破壊されてから吸血鬼になったか、脳がまだ正常なうちに吸血鬼になったのかで性能が異なる。過剰な眷属化はハンターを引き寄せるので頭のいい吸血鬼ほどダムピール(なり損ない)を作るようだ。ダムピールは血を求めてさまよい人を襲うけれど、人を人と判断できないので、ホロでもホロウでも襲う。大抵の場合ホロやホロウに食われて死ぬ。

 吸血鬼はもともと人間なので妊娠はする。眷属化と子供は別。ダムピールと人間の子供もできる。ただ雄は使い物にならないので身ごもるのは雌だけだ。牙を抜いたダムピールが奴隷として売られていることもある。

 子供は吸血鬼ではなく人間として生まれる。なので子供ができると慎ましい生活を送る者もいる。半分嘘。吸血鬼同士の子供の中から百年に一回あるかないかで吸血鬼が生まれることがある。


 結論から言うと吸血セッ〇スは最高で羨ましい。おいらはできない。

 吸血病を治した事はある。けれどおいらは迫害されて石を投げられた。切ない。神官には気味悪がられて異端扱い。辛い。

 ドラキュリアからは逃げろー。眷属は殺せー。だって眷属ろくなのいねーもん。これガチ。ドラキュリアの眷属の大半が人の形をしていない。

 人間にとって吸血鬼はやべー奴らで相違ない。仲良くするのは難しい。ハードル高すぎる問題。私が仲良くしても、俺は仲良くしてくれない。

 隣の芝生は青いというけれど、まさしく青い。

 遺跡をゾンビみたいに徘徊するしかない。

 むしゃくしゃしてるんだ。獲物はどいつだへっへっへ。

 これから先、女の子が敵対してくれるといいなと思う。

 命を狙ってきた女の子なら、こちらも何をしてもいいって寸法なのさ。どやー。天才だな。

 水の上を走るのに右の足が沈む前に左の足を踏み出せば水の上を走れるって言うじゃん。実はある程度の高さから落下すると水の硬さもコンクリート並みになるんだよね。だから水の上を走るのは可能なのだ。水がコンクリートの硬さになるほどの衝撃を水に与えればいいってだけなのだ。マジ天才だぞ。

 マルグリーダを思い出して気分が沈んだ。いつでもかかってきていいよと放置しても良かった。殺さなくてもよかった。でもぼくは殺してしまった。一生引きずるのだろうな。

 他にも殺した人間は沢山いる。それでもマルグリーダを殺したことを後悔しているし、そして例え今マルグリーダと対自したとしても、ぼくはマルグリーダを殺しただろう。

 それは彼女がぼくの目の前でぼくを殺すために子供を殺したからだ。

 彼女はぼくを殺すためなら何だってする。それが彼女の運命であるかのように。

 結局ぼくも我が身は可愛い。こうして自分を正当化しているのだから。

 ……なんかおいらってナメクジみたいだな。

 おお、我が同胞ナメクジたちよ、一緒にウネウネしたり、塩かけられたりしようず。

 まぁここにいるはナメクジじゃなくて、ナメクジ状の別の何かなわけで、この生物がこの世界で何をしているのか調べるにはおいらには時間が足りなすぎる。

 一人でいるとこんな事になるからみんなは友達作ろうず。おいらにはいない。

「ぬとぬとぬとぬとぬーとりあー。なーめなめなめなめなめぬぁめつむりー。ぬぁめつむりー。二つ合わせてぬぇーとりあー。舐めたらやばいぞぬうぇめつむりー」

 なんでおいらにこんな知識があるのかって……それはドラッベンラとして友達を作る事もなく一人で読書していたからだぞ。本は友達に入れてもいいと思う。

 仮に図書館に本が一万冊あったとしよう。それはつまり友達一万いると言っても過言だ。

 まぁ、その、なんだ、にわかなのだ。許して。

 何をしても必ず結果がついて回る。どんなにうまく出来たと言っても誰かは我慢しなければいけなくなる。それはおいらも同じだ。それでもおいらは生きたい。

 それが生物の生きる理由であるがゆえ。足掻けるだけ足掻いてみせる。とは言ってもおいらは怠け者だ。ゆるゆるするのだ。適当に生きるよ。

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