五番目の愚痴

 「よいしょと」

 装着したらゴーグルを動かしてベストポジションを探る。ゴーグルは長時間の装着には向かないのが難点。

「はふー」

 ため息がくせになっているかもしれない。

 おいらは契約した神ヴェーダラの恩恵で状態異常は軒並み効かないし、耐性も高いけれど、効かないからと言って体に入った毒物が無くなるわけじゃないし寄生虫の中には生命力の強いものもいる。

 寄生虫は種類が多いし気づかぬうちに寄生されていることもある。

 神の力で免疫能力を高めることはできるし、生物要因以外の病気はピンポイントで治せるけど寄生虫を神の力でピンポイントで排除できるかと言えば至難の技だ。腹の中にいる寄生虫をピンポイントで視認してそこへ直接火を召喚するとかそういうレベルの話。

 この世界には胃の中に住み着く蜘蛛とかいる。おいらの場合、栄養取るために体を傷つけて血を食べるタイプだと勝手に死ぬけど、おいらが食べた食物をちょろまかして食べるタイプだとなかなか死なない。一生住み着くまである。

 鼻糞を食べる芋虫がいて鼻の中にいるのを死ぬまで気づかなかった男性の話とかある。

 そう言った人に寄生する形の物って大体宿主がホロ(魔獣人)だから遺跡とかは特に気を付けないとだめ。

 薬の虫降しか強制撤去(手術)しかない。気にしすぎって思う。思うけれどおいらは嫌だ。やだ。やだぁ。

 ちなみに遺跡用完全防具を街で着るとマジで不審者扱いされて衛兵に職質さたり、ひどいと強制連行されたりする。奴ら顔を隠す奴は大体犯罪者だと思っている節がある。

 黒羽の外装を纏う。

 火を焚いたり料理をしたり、外装の中で行えばよいではないかと言われるかもしれない。けれど外装の中は完全な密閉空間だ。

 エルフリーデに定期的に空気の入れ替えをしてもらわなければ、あっという間に肺の中を一度通った空気で溢れてしまう。

 密閉空間で火を焚くのかという話を振られたら、おいらはNoと答える。

 天才ならYESと答えるかもしれない。方法はあるだろうしね。

 お風呂も無ければ下着の替えもない。まったくもって素敵な人生だ。

 保存機械も無いから食料の保存もできない。

 理想の女性はいるのかって聞かれたら目の前にいる。

 体系は自由、種族も自由、文句も言わない、家事は万能、決して裏切らない。

 まぁ素敵ねって話。

 唯一欠点があるとすればおいらに一物が無いところ。それと子供ができないところ。おおっと二つだった。皮肉も言いたくなるよ。方法がないわけじゃないけれど、その場合おいらは貧乳になる。もう一度言うけど貧乳になる。ガチで。

 ヴェーダラ様に言ったら転生させてくれるかもしれない。でもその場合、おそらく母体となる女性が犠牲になる。命の危険とかそう言う話ではなくて、本来生まれてくる子供を押しのけて産まれてきてしまうって話。おいらの我儘でその女性の一生を台無しにしてしまうかもしれない。

 親ガチャ失敗って言うけれど、子ガチャ失敗になるのかな……。

 故郷の母が作ったゲームにおいて主人公の母親の名前はマリアンヌで固定されている。どのゲームでも母親はマリアンヌだ。マリアンヌの由来は故郷の絵画に描かれた女性の名前で、海外における自由の象徴を意味している。

 主人公は母親であるマリアンヌを失う事で自由を失い物語に囚われるし、悪役令嬢であるドラッベンラも母親であるマリアンヌを失う事で自由を失う。

 母は二次元が自由であるべきだと考えていた。あらゆる自由が許されるべき場所だと。だから母親の名前はマリアンヌだと言っていた。主人公は自由の子というわけ。

 マッピングディスプレイを表示、ヴェーダラの目は壁も透過する。

 遺跡の中は無法地帯だ。

 遺跡って基本地下にある。エリシュの女神は大地の女神。地下に進めば進むほどミネラルの量も多くなり、多ければ多いほど、魔獣(ホロウ)の質も高くなる。

 水晶の洞窟って本当に素敵だと思うよ、その水晶が殴ってこなければの話だけれど。

 で、そんな魔獣の徘徊する地下よりやってくるのが魔獣人。魔獣と魔獣人ってとっても仲良し、出会ったら戦争をする。大体魔獣が負ける。そして魔獣の落とした玉や遺跡に存在するアイテムを使い、魔獣人(亜人)は強化を行う。

 それでどうなるかって人類との闘いになる。争いに次ぐ争い、まぁ素敵ねって話。

 一応言っとくけど皮肉だ。

 魔獣が落とす玉、魔玉(まがたま)の中でおいらが優先して欲しいのはこの四つ。

 一つは冷気系のトップスター。冷蔵庫。

 一つは魅了系のトップスター。誘惑の腕輪、できたら誘惑の指輪を作りたい。

 一つは制御系のトップスター。制御の腕輪、できたら制御の指輪。あと制約か誓約の首輪を作りたい。

 一つは空間拡張系のトップスター。外装の中を拡張するため。

 遺跡の中で食料はどうするのかって話だけれど、その辺にあるものを食べるしかない。魔獣は肉を持たないので食べられない。ホロは食べてもいい。嫌悪感がなければ。これには明確な理由もある。

 ホロは……おそらく元人間だ。神々を必要ないと言った人達にも色々な問題があって、結局一部の人間は再び神にすがってしまった。でも人間にとって最良の神が、それに答えたかと言えば否でテスカ神やアテナイ神等の蛮族神がそれに答えてしまった。

 テスカ神は蛮族神だ。蛮勇を好み野蛮な行為を好む。そのために人は肉体は変化させられゴブリン等を基本とした蛮族に変えられてしまった。そして動物と合成させられ知能は退化し人間と似て全く異なった種族へと変貌してしまった。

 だからホロの肉を食べても人体にはなんら影響はない。モラルの問題はある。けれどテスカ神は野蛮を好み自らの種族が食べられる事もその中に含まれている。

 隣の芝生は青い(ガチ)。

 神がサイクルを作り無限に再生する豊かな大地か、自らがサイクルを行わなければならず一つ間違えただけで破綻してしまう世界か。彼らの妬みや嫉妬は深い。人は記憶を受け継がないからね。自らが望んだ世界であっても世代が変われば話は歪む。都合の良いように作り変えてしまう。

 ……他にも遺跡内で採れ食べられるものはある。虫とかキノコとか苔とか。

 遺跡の中には湖や川があり魚もいるので魚は優先的に食べたい。

 保存食はある。豆クッキー。豆に似た種子を煮だして絞りとった所謂豆乳と、芋とフォーグナーバイソンの骨の粉を混ぜて焼いて固めたクッキー。ほのかに甘くてサクサクしている。保存食と言うには美味しい。おいらの自作だ。商品にして販売しようかとも思ったけれど、販売ノウハウが無いし作る手間も面倒だし、このクッキー作れる人他におらんやろと言うわけでお蔵入りしている。芋の甘さと骨からとれるカルシウム、豆の栄養がギュッと詰まっていてカロリーはおそらく高め。これだけだとダメだけどね。必須アミノ酸とかビタミンとかあるしね。

 料理をするに従い熱系のトップスターはあっても良いかもしれない。料理はスカートの中ですることになりそうだけど。いっそうのこと煙吸収機能もスカートに付けてしまえば良い。湯気を吸収する機能も。

 部屋の拡張ができても家具等は人里で買わなければいけない。結局人里には降りないといけない。自作するのは面倒すぎる。

 エスプレッソマシーンは必須。あと会話する友人も。友人の方は無理やり友人になって貰わないといけないかもしれない。エルフリーデと会話してもいいけれど、エルフリーデはおいらだから。

「この後どうしましょうか?」

 エルフリーデがにっこりしながらおいらに言う。

「どうもこうもない。三ヶ月は迷宮に缶詰め」

「まぁまぁいいじゃないですか。二人っきり」

 他人の自分に頭を撫でられる不思議。自分と会話すると皮肉すら出てこない。

 ここ三日、マップとヴェーダラの目を使い遺跡に入ってきたチームを見ていた。

 大まかに三チーム。

 一つはおいらを確認しに来た一応のチームが一つ。このチームには困ったもので聖女様がご同行してきた。なんでこんな辺鄙なところまで聖女様が直々に来たのかわからないけれど、今朝やっと遺跡を後にしてくれた。聖女様って主人公ね。ユエニファ。相変わらずいいを体していた。柔らかいんだよね。ユエニファ。顔も地味で好み。

 二つ目は遺跡調査のチーム。

 遺跡は迷宮型。魔獣人との戦争の可能性を考えて魔獣人の種類と数を統計的に模索している様子。現在表層に滞在している。

 三つは単純に稼ぎに来たチーム。

 おいらの捜索もしてくれているのかローザとシタラが来ていた。不安そうに遺跡を徘徊しないでよって話。ありがたいけれどちょっと複雑。気にしてはいる。現在は表層に在住。

 ローザとシタラは普通に友達。

 問題はこの迷宮が恐ろしく深いってこと。

 戦争……戦争なんて言葉は口に出したくもない。

 ルート、悪役令嬢が追放されるルート以下、どのルートにも関係なく悪役令嬢がどのような目に会おうと悪役令嬢と対立したあとは死骸騎士が現れる。

 魔獣人、魔獣、死骸騎士、三つ巴の戦いが始まる。人類を入れれば四つ巴だ。

 聖女において国教が変わってさえいなければ死骸騎士に負けることはまずない。

 死骸騎士にとって女神の加護は天敵だからだ。

 聖女ユエニファが傍にいる限りジーク王子やアルトリーテ・アルストリーナ聖王国が死骸騎士に負けることは無い。

 問題があるとすれば、トゥーラトゥーラ公爵家の提案で国教を女神から火の神に移された時だけだ。これバッドエンドの一つ。

 火と秘密の神マルズは名前の通り火に関する宿業を背負う男神で、秘密ともある通り、それは鍛冶の秘密とも火遊びともとれる。

 女神が主教であれば女性全般が貞淑であるため、星術が栄え国全体が不死に対して強力な要塞と化す。

 しかしマルズが主教となれば星術が衰え火術が栄えるので死骸騎士に対して絶対的な有効性が失われる。

 マルズ自体女遊びが激しい神だし基本的に女性を侍らせている。

 マルズ攻略ルートは心にクルものがある。大勢の女性がいる中で本当に愛されているのは自分だけだという優越感を得たい女性のためにある。

 ヒロインと結ばれようがマルズは平気で他の女性と寝屋を共にする暗喩やによわせがある。

 ただその他大勢の中でヒロインだけがあらゆる面でマルズに優遇されるため、一番は自分だという優越感だけは得ることができる。らしい。そういう感情がおいらには無い。

 おいらこのルートはあんまり好きじゃない。吐きそうになった。

 マルズはマルズルートでもハーレムルートでも独占はできない。ただ一番に優遇はされはする。マルズの囲いと接する機会が増えて、嫉妬されたり優位性を強く感じたりするらしい。

 現在のヒロイン、ユエニファももちろんマルズから一番に優遇されているが、マルズと関係はもってはいないはず。ユエニファのマルズに対する好感度は抑えつつ、マルズに好かれるようユエニファを振る舞わせた。

 とは言っても奴は寝屋に誘われても断るだけで好感度が勝手に上がるしね。

 基本的にマルズの誘いを断れば勝手に燃え上がって勝手に優先してくれる。

 エルフリーデを使いマルズの情報をそれとなく教え、どう振る舞うべきかを観察しながら伝え行動させた。ヒロインは貞操観念がとってもたっかーいのでマルズの誘いに乗ることは無いだろう。奴(ユエニファ)が本当は誰が一番好きなのかはおいらの察するところではない。幸せになってクレメンテ。いや心からそう思ってはいる。ただユエニファはおいらの好みのタイプなので妬ましいだけだ。いいなー。

 アンデットに火も効くんじゃないのかって話だけれど地獄って基本的に最初から燃えている。燃えた場所から来る奴らが火に強いのは当たり前じゃまいか。

 どちらかと言えば水の方が効く。効かない。どっちってどっちだろ。

 ……現在おいらがいるこの遺跡の地下は地獄に繋がっているように思われる。

 つまりこの遺跡は古代人によって死骸騎士が地獄から這い上がってこないように作られた遺跡か、古代人が地獄に行くための遺跡ということになる。

 死骸騎士は基本的に不死身なので死骸騎士との戦闘になったら撃退のちヒロインと攻略対象達がこの遺跡を攻略し門を閉ざす手筈になっているはず。はずはず。

 もう門が開いているのか中層辺りにアンデットが表示されていた。

 アンデットは星術などで滅しない限り死なないという厄介な特性を持つ。マジやばくね。アンデットとか初めての体験だわ。まじやばいわぁ。

 アンデットのタイプは大まかに三種類。

 一つは骸骨などの骸骨系。

 一つは干からびた体を持つグール系。

 一つは脈動する筋肉が露出したフラン系。

 骸骨系は命を持つ者を殺そうとする習性をもつ。

 グール系は体液を持つ者を襲い体液を奪う習性をもつ。

 フラン系は生物を破壊しようとする習性を持っている。

 この三つのアンデットは前世で悪行を重ねた者が地獄で囚われた結果だ。地獄にももちろん神はいる。

 骸骨系はあらゆる感覚がないゆえ命にすがらずにはいられない。

 グール系は常に喉が乾いており、体液でのみその渇きを癒すことができる。しかしそれも刹那だけ。

 フラン系は露出した筋肉が空気に触れると激痛が走り常にバーサーカー状態。救いはない。

 星術で完全に滅せられると復活しないので死に物狂いで襲ってくる。特に星術保持者は優先的に襲われる。一応星術以外でも倒せるものは倒せる。しかし星術でなければ滅せられず地獄に戻ってまた兵士となり上がって来る。救いはない。

 それなら楽になりたいと思う者もでるのではないかとおいらも思うけれど、大半はそれよりも死ぬことの方が恐ろしいらしい。

 一応聖剣はあるし有効。色々やり方はある。娘との思い出という特殊なアイテムがあれば、死骸騎士の一体を傍使いにすることも可能だ。

 二周目からは夜術ネクロマンシアにより、二体までぬいぐるみに出来る。残り二体を倒せばよい。

 死骸騎士は前世で非業の死を遂げた者の集合体。激しい恨みと憎しみで世界を滅ぼしてしまう。

 聖王国の国教がなぜ女神ヴィーナスなのかが伺える事件だ。

 星術はホロウにもアンデットにも絶大な優位性を持っている。

 この死骸騎士が定期的に現れ抗わなければならないために女神ヴィーナスがメインに崇められている。これを疎かにすれば死骸騎士に国を滅ぼされてしまう。

 国教じゃなかったとしても一部の星術保持者は生き残るだろう。でも国は亡びる。

 これらの地獄の亡者は人がいなくならない限り決して滅びることはない。歴史の中、非業の死を遂げる者は現れて死骸騎士となってしまう。

 でもこれおいらには関係あ……実はないかも知らん。あるか。おいら一応人だもん。

 それに女神に一応手助けしてあげてと言われているし、傍に来たら助けてあげないと女神に睨まれる。

 死骸騎士は女の子じゃないのでぬいぐるみにしたくない。やだ。やだぁ。沢山の人が不幸になるというのに何を言っているのだお前はって言われそうだ。その通りですはい。でも待って下さいよ。男の子か女の子、重要だと思いませんか。男の子のぬいぐるみを抱えて眠りたいですか。眠りたいですか。そうですか。おいらは嫌。いや、死骸騎士の中にも女性はいるんですよ。いるんですけどね。ありとは言えばありだけれど、ユエニファを思えばそんな事はできない。

 沢山の人の命が失われるのに女の子じゃないから嫌って頭おかしいって言われそう。頭おかしいもん。嘘デス。苦戦するようならそれも視野にいれないといけない。

 目の前で人が死ぬのは嫌だし、でもかと言っておいらが出しゃばるわけにもいかない。

 出しゃばる事で沢山の人の命が救われるならいいじゃないかっておいらも思うよ。でもおいらは聖女、星女じゃない。悪役令嬢だ。武運相応……ではなく分不相応を越えると何が起こるか想像できない。

 最善が正解とは限らない。

 女神はおいらをラプラスの子と言ったけれど、何が起こるのか知っているだけで運命事態を操作できるわけじゃない。死者はおいらには生き返させられない。

 運命を変えることでその場では救われたとしても結果として全体が不幸になるかもしれない。おいらの知らない不測の事態となったら、おいらにはもう何もできない。

 うだうだうだうだしている。

 やるならやれやって話。

 でもこう考えて、うまくいったことが一つも無い。

 世界は大きな決断と細かな作業で出来ているっておいらは思うよ。

 おいらは一人だ。一人だと考え方も閉鎖的なものになる。沢山の人が話し合って一つのことを決めた方がいい。おいらが勝手に一人で決めないほうが良いとおいらは思っている。

 おいら一人ですべてを決めていいのなら他人などいらないことになってしまう。

 それは生物としておかしいと、おいらは思うのだ。

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