二番目の記憶ゆるゆる
つい先日何処かで見たような主人公を見かけたのでついつい同情してしまった。
でも七回はやりすぎだと思う。よっぽど溜まっていたのだろうなとも思うし、幼馴染が隣のテントで男とやっているなんて心が壊れちゃうよ。おいらだったら同じ空間にいたくない。それは不可能なん(の)だけど、ぼくだったら幼馴染と離れて他の場所へ行っちゃうかも。
体は女でも、でもぼく心は男だからさ。見たくねぇタイプの裸だし触るのも嫌だし、男に触られるのも嫌だろうから自分でしてもらったけど、さすがに七回はやりすぎだと思う。大丈夫かな。あの人。
貴族の時もそうだったけれど、良く処女とか地雷の話題がでた。三十路で処女でもちゃんとした人はいるしビッチにも地雷はいるよ。処女と地雷は関係ない。そんなの気にするだけ無駄だと思う。イイ人は良い人だし悪い人は悪いよ。
どちらも気にしていて、それが傷になるからお互い自分を守ろうとする。
良くコミュニケーションとか言うけれど、無理して頑張っても疲れるし、それで幻滅されて別れるのなら意味がない。そう言う相手と親しくするだけ無駄だと思う。
付き合うのってそもそも結婚相手を決めるためだと思うし、色々な人と付き合って、自分に合う人を探すのがいいと思う。付き合うまでに敷居が高い気がするけど、付き合うだけなら別に付き合っていいと思うけどね。気に入らないなら別れればいいし、付き合ってすぐにキスしたりスケベェしたりするわけでもないし、と女性にモテなかった現在元悪役令嬢のおいらが申しております。
「いい女っていうのは男にすがる女ではなく、男を成長させる女のことさ」
兄が良く言っていた言葉だ。
正直言って兄の女性関係は最低最悪でいわゆるヤリチンだったけれど。
そんな兄が、ぼくに何時もそう言っていた。
兄の女癖は本当に最悪で恋人がいようが別の女性と平気で寝るし愛も囁いていた。面倒になるとぼくに女装させて、コイツを愛しているからと言って別れていた。
それどうなるのかって話、重い人だとぼくが狙われる。刺されそうになった回数は三回じゃない。兄を狙えばいいのに、なぜ兄を狙わないのか。
「自分で選んだのでしょ? 接するうちにどういう人かわかっていたはず。執着するのは(を)やめたら?」
そう言うと女性は大体激高して髪を掴みに来るから逃げる。金髪ウィッグが取れちゃうよ。ウィッグも化粧もする。ぼくだってバレたら嫌だしね。
彼女達には同情する。兄はそういう男だ。でも自分だけは違うって考えは、自分だけは詐欺に会わないと思っているのと同じ考えだと思う。それはぼくにも言えることだ。
なんでぼくがそんな面倒な役をやっているのかって言ったら、ひと役こなすたびに五千円貰えたから。それに兄だしね。刺されたら困る。家族だし。
こんな兄でも家族には優しい。料理を作ってくれるし家事もしてくれる。誕生日には必ず一日休みを取ってくれるし、父や母に旅行をプレゼントしてくれる。それで旅行に行くのかと言われれば、両親は旅行になんていかないけれど。
ぼくが風邪をひいた日は、一日家にいて必要なものを買って来てくれた。
一つ言えることはそれでも兄が絶対的に悪いってこと。兄の女性扱いが上手で騙されている女の人がいないとは言えない。お姫様のように扱うと兄は言うけれど、ぼくは嫌だ。
それでも女性は兄を好きになるし、付き合っていなくとも行為をする女の人は沢山いる。そう言う人が家に来て、ぼくを誘うこともあったけれど母と妹が激怒してからは一度も無い。母が兄に対してそういう行為を家でするのを禁止した。
クリスマス。ぼくは恋人がいるわけでもなく家でゲームをしていた。
気がついたら朝になっていて対戦ゲームで一晩を終わらせてしまっていた。朝帰りしてきた兄が玄関を開ける音、妹が部屋にやってきて笑顔でコーヒーの入ったカップを差し出してくる。ノックしてよ。ノックして。とは思いつつノックしなければならないような事をするのかと言われたら困る。困らない。こまらなぬす。
「お兄ちゃん、今年も恋人いないんだね」
仕方ないでしょ。モテないん(の)だから。
「朝まで一人でゲームやってたんだ」
モテないからね。
「友達もいないんだ」
それは心に効くからやめて。危なかったー致命傷で済んだぞ。
良く悪い男がモテるって話を聞くけど多分逆だ。モテるから悪くなる。苦労しなければ手に入れられない人は、苦労した分だけ大切にする。苦労せずとも向こうから寄って来るのなら、一つを大切にする理由もない。代わりはいるし、人工ダイヤモンドより天然ダイヤモンド、シルバーよりはゴールド、より良い物を求めようとするだろう。
確かに人工ダイヤモンドには人工ダイヤモンドの良さが、シルバーにはゴールドには無い良さがあるよ。でも今は別の話。
「また変な理屈考えてる(考えている)」
心を読むのはやめてよと頬を膨らませて妹を見ると、妹は人差し指で頬の袋を潰してきた。
貴方も恋人いないでしょうと言いたいところだけれど、妹に恋人ができたらそれはそれで兄としては複雑な気分になってしまう。おセンチメンタルジャーニー1981年産。
恋愛は恋愛として見ている間は楽しいし微笑ましい。でも兄とその女性関係を見ているなんとも言えない気持ちになってしまう。
「それで結論は?」
なんでぼくの脳内論争の結論を妹に問われるのか。
相手を選ぶ際は慎重に良く見極めた方がいい。それで売れ残ったら意味がないとは言うけれど、変な相手と付き合いを重ねて問題になる方がダメだと思う。
もっといいものがあるのなら引き留める理由もない。それは女性にとっても同じ事。
年収百万より一千万を選ぶでしょうって話。いや、この例えは良くないんだけどね。うん。この例えは良くない。三百万、五百万、七百万でも比較してええやろがいってなっちゃうからね。うん。
ぼくは男性だから考えもきっと男性よりだ。一緒にするなって言われたら嫌だからやっぱり個人の考えだ。恋人ができたことのない奴の話なんて説得力皆無だ。意地になることもある。
「トイレトイレ……」
母が寝ぼけて部屋に入って来てため息が漏れる。
「お母さん、入ってこないでよー」
「なんだとこのクソガキ‼ なんでトイレにいるんだ‼ 抱きしめさせろ‼」
あーダメだ。昨日見ていたヤンキーアニメに影響されて口調までヤンキーになっている。子供が真似をするからヤンキー漫画やアニメは近々十八禁になるらしい。法治国家において少年が暴力で物事を解決するのは容認できなかったらしい。規制は厳しくなるばかり。
一番の問題は三次元と二次元を同一視することだと思うけど。
「やめてよっ」
「やめるわけねーだろ‼ 愛をうけとれい‼ クリスマスプレゼントだぜ‼」
「トイレはいいの?」
「トイレは良くねーぜい‼」
早く行ってよもー。
親離れしつつある兄に母は寂しさを覚えているのかもしれない。
「お母さん、お兄ちゃん一人だと夜中にゲームやってるから(やっている)、また私と一緒の部屋にしたほうがいいと思うの」
なんでだ。
「それはダメよ。いい加減兄離れしなさい」
良かった……。
「兄についてなんかいない」
兄についてなんかいないってどういう事。
「恋人でも作ったら?」
「あのあ……勉強が忙しいから無理」
勉強が忙しくなければできるのか。危ない致命傷だぜ。
「その年の頃はねー。お母さんもっと遊んどったよ。とっかえひっかえだったよ」
「アルバム見たけど?」
「……うっ。お母さんの古傷がうめく。早く逃げて‼ この傷からメンヘラが溢れちゃう」
卒業アルバムや集合写真に写る母は、お世辞にもモテモテギャルとは言えなかった。
「いいですよね? お母さん?」
「この妹ちゃんマジやばくね」
貴方の娘です。
妹は小さい頃、ぼくを姉だと思っていた。だから同じ部屋だったし、何時も一緒だった。兄は面倒見がいいけれど、友達と遊ぶことが多かったし、兄と兄の友達に混ざって遊べるわけはない。父と母は共働きだし、母は家にいると言っても創作活動で忙しかった。
母にとって創作活動が魂の仕事だというのは良くわかる。
父は妹を溺愛しているけれど、ぼくしか妹の面倒を見てあげられなかったと言うのが本当の所。ぼくと兄がいる分、両親が妹の面倒を見る時間は分割されてしまった。
お隣のお姉さんも良く面倒見てくれたな。兄の初恋の人。
妹は寂しがり屋だ。ぼくも寂しがり屋だから良くわかる。もっと両親に甘えたかった。これは多分、女狂いの兄も、そしてぼくも妹も同じだ。贅沢な悩みと言ってしまえばそれまでで、それを口に出すのは恥ずかしくて両親には言えなかった。
兄が女性を求めるのはぼくと妹が生まれた事によって裂かれた愛情を求めた結果なのかもしれない。そうじゃないのかもしれない。
明らかに不機嫌になった妹の様子。ぼくを見た妹と目が合い、妹はニコニコしながら傍に来て、ゲーム機のスタートボタンに手を伸ばした。
これレトロゲーだからオートセーブ無いん(の)だけど、知っていてやっている節がある。
「一緒の部屋の方がいいですよね? 兄(長兄)が女を連れ込むかもしれませんし」
妹は兄を毛嫌いしている。兄の女性関係を見ていたらそれは仕方ない。
あの兄を見て男性を信じられるのかと。
その事についての心の複雑さは多分ぼくも妹も同じだ。
兄はそんな妹を猫扱いしているけれど。
「同意してくれますよね? それとも隣のお姉さんが良かったですか?」
なぜそこで隣のお姉さんが出て来る。ここ一年ぐらい姿を見ていない。
お風呂場で着替えていた時ばったり出くわしてそれっきりだ。普通逆じゃないの。ぼくの裸に需要はない。逆なら逆で困るけれど。
「ぐふふっ、うぇへっ。あの子とは趣味が合うのよね」
えっ、母の趣味ってBLの薄い本だけれど、その趣味に合うんだ。
「兄さん。いいですよね?」
それ脅迫って言うん(の)だけど知ってたかな(知っていたかな)。箪笥の中に妹の下着が入っているのを見るとぼくは気まずい。だから嫌だ。
「嫌だ」
笑顔でそう告げるとスタートボタンが押され、ぼくの六時間は無駄になった。
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