二章目 前半戦
一番目にどうか貴方の心が癒されますようにと。
彼には小さい頃から一緒にいる幼馴染がいた。
女神の祝福を受け、一緒に村を出たのが、もう遠い昔のようにも感じる。
彼はいつもどおりテントの外で見張りだ。
中から漏れてくる艶めいた声には今でも心を痛めつけられるし、嫌な気分にもなる。それでもなぜ彼はここにいるのか、その意味も、ただの意固地なだけのような気もする。
サーチライト、スキャンライトを展開――テントの中に示された点に目を背けたくもなる。
強くならなきゃ。関係ない。どんなにそう思っても焼けつくように心臓を傷める。彼女が好きだったのだろうか、そう思うほどに心臓が痛い。
「あらあらあら」
声。暗闇の中から現れたのは、豊満な肉体を持つ女性だった。
「敵!?」
サーチライトにもスキャンライトにも反応がないことに困惑する。敵ではない。人……なのかと。しかしこんな所、夜に人など来るだろうか。
「セイントフィールド‼ ……透過した!?」
「敵じゃないわよ」
「すっすみません。てっきり……」
「いいわよ。それより貴方は見張りなの? 浮かない顔ね」
テントを見たあと女性は改めて彼を見た。
その瞳はあまりにも妖艶で彼は息の飲み目が離せなくなった。知らぬ間にごくりと唾を呑み、すべてを委ねてしまいたくなるような、受け入れてしまいたくなるような支配の波動に抗えなくなる。
呪文を透過したという安心感。しかし賊の可能性は捨てきれないという初歩的な思考が彼からは抜け落ちていた。
まるで蛇に睨まれた蛙のよう。飲み込まれて何もできない。例え殺されていたとしてもそれにすら気づかなかったかもしれない。
少し寄っただけだという女性は隣に座り、少年は何時の間にか色々な自身の事を自分から進んで話し込んでいた。自分の生い立ちやどうしてここにいるのか、何が好きで何が嫌いなのか、とめどなく零れる言葉に自分でも驚いてしまう。
女性は時折相槌を打ち、時にクスリと笑ってくれた。
自分の話をこんなに聞いてくれた人はいないと嬉しくもなる。
女性が傍に来ると鼓動が跳ねあがり、もっと傍に来てほしいと心の中で懇願する。その匂い、その香りには一等吸い寄せられるような感覚すら覚える。
その顔が嬉しそうに笑みを浮かべると、もっと笑ってほしいと思ってしまう。
まるで夜に蕩けるよう。
どうして外で見張りをしているのか、どうして幼馴染の少女が自分ではない男と行為に励んでいるのか、どうしてこんなにも苦しいのか少年は吐露していた。それは少年にとって甘えるという行為だったのかもしれない。
女性は笑み、立ち上がると後ろから包み込むように少年を抱きしめた。手触りの良い布の感触、両足に触れるモモの感触、背中を撫でられる感触に、行為と苦しみで突起と消沈を繰り返していたそれは今ははちきれないばかりに隆起した。
「若いうちに行為を覚えると大変だわ。特に女性はね。簡単な快楽じゃ抗えなくなる。いいわよ、しても」
耳元に囁かれる声に、抗いがたい衝動、それでも自分は女神に祝福を貰った身だと。
「大丈夫よ、接触(異性との粘膜)さえしなければ」
下ろしたズボンと、握った一物。
背中へと押し付けられた胸に理性のネジが吹き飛んだ。
同時に女の外装より銃を持った腕が現れる。
女性に包まれ、女性を感じるように目を閉じ更ける少年をしり目に、やってきた魔獣に向けて腕は銃口を向けた。銃には消音ガジェットが取り付けられている。
「どう? 気持ち良い?」
耳に寄せられた声と息に身もだえし、動かす手にいっそうの力が籠められる。両耳を塞ぐ手。溜まった垢をこそぐように撫でられ拭われ、引き金は引かれ射出され弾丸は魔獣を撃ち抜く。
ひどい光景だ。それでも女は魔獣を一匹残らず逃す気はないし、魔獣もまた人間を逃す気はない。
飛び散る液体と発散される喜び。動かなくなった獣。震える体は自らの意思では押さえつけられないほど痙攣し息は荒い。次いで女性の手が前面へと回って来る。新たな触覚と快楽が押し寄せ、体を這う女性の腕に体は悶える。指が胸に触れると跳ねあがり込められた弾と射出されるコイン――。
ぐったりとする少年を背後で支え、少年が見上げると、女性は優しげな笑みを浮かべて少年を見下げていた。その表情と吐息、まるで愛されているかのような錯覚さえ覚える。柔らかく立ち上がり、ゆっくりと三匹目。これまでで一番かと言うほどに液体は飛び散った。
下腹や喉、モモの表面を滑る手。
惰性の四匹目。これまでこんなに気持ちの良かったことを、快楽を味わったことがなかった。ただの快楽じゃない。落ち着いてゆっくりと楽しむような五匹目。体だけがただ震える。
罪悪感の残るものではなく、幸福感を感じる。
「パーティー(パーティ)は抜けなさい。幼馴染が悪いわけではないけれど、もう連絡を取るのもやめなさい。一人でも頑張れるでしょう? 頼るのではなく、頼られる人間になりなさいね」
「はっはい……。女神様」
「脱退したら教会に所属しなさい。同じ者同士なら、今みたいなことは起きないわ」
「でも、幼馴染も同じで……」
それは一緒にヴィーナスの加護を受けたけれど片方だけ加護を外れかけているという事を示唆している。女は目を細めて思案した。彼が見張りに立たされている理由もわかる。幼馴染の加護はすでに弱まっている。弱った力で見張りなどできようはずもない。そうして力を奪われ深みにはまる。
女神様は残酷だと女も思う。避妊法を術として施す癖に、それでも力を回収するのだから。
「……そうなることもあるかもしれないけれど、教会に所属している者同士なら、そういうのはわきまえているわ。仕事の斡旋も、パーティへの斡旋もある」
普通は女神の加護を得たら教会へ招待される。それがなされなかったと言う事はおそらく――騙された方が悪いと言うのは詭弁だ。どう考えても騙した方が悪い。騙す自分が言えた事ではないけれどと女は少しばかりの笑みを浮かべた。
教会は同性との恋愛を暗黙の了解としている。同性と行為を重ねても力を剥奪されることは無いからだ。
女は少年の頭をゆっくり撫でると指の平に緩急を込め、刺激を与えたり愛でたりと髪に指を通す。
次いで外装より取り出した剣を少年のモモの上に置いた。剣の冷たさ、飛び出してきた魔獣の口の中へ突っ込まれた銃、飛び出た液体に女性は目を見張り、外装より鎮静剤を取り出して少年へ咥えさせる。
「剣に身をゆだねなさい」
鎮静剤の匂いで落ち着いた精神は多幸感に溢れていた。オキシトシンとセロトニンが十分に分泌され、得も言われぬ多幸感に満たされる。それは少年が一度も味わったことの無い満たされるという感情だった。冷静になったというのにこの幸せの中で果てたいと願い止められない。
頭を撫で続け落ち着いたところで女は離れた。背後において行われている営みはすでに少年には何の影響も与えてはいない。
「生きるのは戦いで辛い事ばかりだわ。でも頑張りなさいね。あんまり偉そうな事を言えた立場ではないけれど」
「はい……」
「それではごきげんよう」
女性と離れるのにひどい抵抗感を覚えるが女性を引き留めることはできず、また快楽で体が鈍って動けなかった。
「また‼ また会えますか!?」
「機会があれば? あぁ……それと私は女神様ではないわ」
振り返る女性の面影。残り香に思いを馳せる。付属する女の面影に下半身は痛みを伴い硬くなっていた。心にはもう幼馴染など残ってはいない。世の中には沢山の女の人がいて、幼馴染などあっという間に超えてゆく。
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