朝飯を食べたらギルドへ、少女からほっぺにキスまで頂いたのでなかなかご機嫌だ。

 スライムリーフ作りをしたいけれど、ギルドに提出した葉っぱはダメになっていた。やっぱりダメになるよね。時間が止まるわけじゃないし、スライムの核がまだ痛んでいないのが救い。キノコ採りはまた今度ね。

 依頼を完了していないので、今日もシタラと一緒だ。


 ルチルはお休み……と聞いた気がするのに受付にいた。

「お休みじゃないの?」

「休みよ。これは趣味なの。仕事しなくていいから楽だわ」

「そうなの? お休みぐらい制服は脱いだら?」

 お前の休みはそれでいーのか。

「じゃあ、これから一緒に服買いに行きましょう? イケてる男子の話でもしながら」

 服屋なんてないでしょこの村。雑貨屋ならあるけれど。古着も代わり映えが無い。なぜなら売る人も作る人もいないからだ。次の行商が来るのは一週間後。そこで仕入れがなければ雑貨屋の服の並びも同じ。

「いいわね。じゃあ、服を見ながらそこのイケメン修道女シタラさんの話で一緒に盛り上がりましょう?」

「な!?」

 シタラの渋い顔、睨みつけてくる。イケメンて言ったのがまずかったかな。

「……私がマジで言っていると思ってる?」

 ルチルの顔も渋い。ちょっと笑ってしまった。

「笑わないでよ‼」

「大丈夫? 疲れてる? 膝枕する? おっぱい触る?」

「おっぱい触る」

 おっぱい触るな。


 シタラとアルテミシアの葉の採集へでかける。

「昨日材料取ったのに?」

「ほら、見て? ループで、見てみて? 傷んでいます。これだと良質なリーフができないので、はい、鍋持って。ほんとに鍋借りていいの?」

「いいわよ。鍋ぐらい。火は気を付けてよ。はい。アルコールランプ。余裕ができたら買ってよね。水筒もいる? はい、マッチ。中身は汲んで行ってよ」

「至れり尽くせりね。ありがとう」

「ほんとに行くの!?」

 そんなに葉っぱを摘むのは嫌ですか。だが連れて行く。鍋と水筒に水を入れ、村の外へ。


 シタラは回復星術が使えるだろうから、体を痛めても大丈夫なはずだ。靴擦れとか直せて羨ましい。ブーツは蒸れる。ヴェーダラの恩恵のおかげで体は頑丈だから、靴擦れおこしたことはないけれど。

 術の発動回数はレベルによって制限される。レベルによって貸してくれる魔力の量が決まっている。でもほっとけば自然に回復するので、実質的には回復量さえ上回れば無限に術は発動できる。消費する量と回復する量は、扱いながら自然に慣れるしかない。


 神の力は有限とは言え、一個人が消費するには十分すぎる。

 世界の半分を吹っ飛ばしてもおつりがくる。


 神同士の戦いは凄まじく地味だ。

 お互いの力を消費し続けるだけだからだ。世界がぶっこれる事も無い。

 相手の力を1でも上回れば掌握できる。火山噴火を手の平で掴んで押さえているイメージ。でも神々の力はほぼ均等であるため、相対する神々と常に力をぶつけ合いお互いを掌握しあっている。


 「ほら、村の外に出たのだから、サーチライトしなきゃ」

「わかってる‼ 今やるとこ‼」

「昨日と同じ術を繰り返すのよ」

「わかってるってば‼ もううるさい‼」

「あらそう? なんでもわかっているのね。裏技教えてあげようと思ったのに」

「……貴方ってほんとに意地悪‼ 最低‼」

 その最低に教えを乞うているのが貴方よ。その言葉が脳裏をよぎり、さすがにやめた。

 膨れた顔が可愛い。前世では驚くほど妹以外の女性と接点がなかったけれど、今世では驚くほど女の子としか接点が無い。女の子なのだから同性と仲良くするのは普通だけれど、心は男だから不思議な感じ。勘違いしそうで困る。

「ほらっ。ぶーたれないで行きましょう。今日中にスライムリーフ作りまで行くのよ」

「ぶー」


 マッピングディスプレイは展開してある。

 村の外に出て、アルコールランプを……風が少しあるので、石を積んで風避けを作り、鍋を置く。

「裏技って? 教えてよ」

「ルーペで見ればいいのよ」

「ルーペで見ても、わかんないよ」

「葉っぱとして見ないとダメよ。良質な葉っぱを探して、採って、ルーペで見る。わかった? 草全体を見てもダメだよ。採ってから見ないと。良質って出るからそれがあたり。手当たり次第とっちゃダメだよ。ちゃんと、良質そうなのを厳選して採ってね? 裏も見るのよ?」

「ふーん」

「ほら、採って来て、無駄に採ったら怒るから」

「はいはい」

 コイツ。

「教会に報告するから」

「ぐっ。うるさい‼ ちゃんと選べばいいんでしょ‼」

 可愛いものだ。


 シタラが採って来てくれた葉を鍋で煮る。煮ようと思ったけれど、シタラにリーフの作り方を教えなければいけないのを忘れていたので鍋に入れたままにした。

 さすがに裏技を教えると早く、あっという間に葉が集まった。

 沢山の良質な葉を持ってきたシタラは、ドヤ顔でおいらを見て来て笑ってしまった。

「すごーい。シタラちゃん。呑み込みが早い」

「ちゃん付けはやめてください‼ 子供じゃ無い」

 こう言うの簡単に受け流せないようならまだまだ子供だよ。

 ここでリーフを量産しようかと思ったけれど、無意味だったなぁ。


 「それじゃギルドに帰りましょう」

「鍋持ってきた意味無かったね」

「そうなの。無駄骨だったわ。こういうの良くあるのよ」

「骨折り損って奴ね」

「そうよ、シタラちゃん」

「ちゃんはやめて‼」

 ギルドに帰るとナンパされているルチルがいて、笑ってしまった。


 ルチルと目が合い、あら、って顔をされたけれど、他の受付嬢の所へ行くとムッとした表情をされた。

「すみません。製薬場を借りたいのですが」

「はい、では、カードを提示してください」

 カードを提示して、製薬場へ。

「それじゃ、リーフの作り方を教えるね」

 まずは口頭でリーフの作り方を教える。

「それじゃ、実際に作ってみるわね」

 実際作って見せる。

「はい。完成。ルーペで見てみて? どう?」

「良質」


 ブルースライムリーフ(高)。

 体内に取り入れることで細胞が高活性化、疲労を軽減、解消し、傷の再生力を高める。寝る前に飲むのが有効的。さらに体内の異物を取り去り、腸内を清潔に保つ。しかし取りすぎると排泄物がゼリー状になる。


 ルーペで見てみると、前に作ったのと同じ。

「じゃあ、次は、シタラが作ってみて」

「わかった」

 手順の不慣れをフォローしながら一本。


 ブルースライムリーフ(弱)。

「どうして同じのができないの?」

「初めて作ったにしては上出来よ?」

「そう?」

「えぇ。私達には水神の恩恵も無いのだから、上手に作るには時間がかかるわ。これは仕方のない事なのよ。ほら、どんどん作りましょう。コシカスも捨てないでね? 石鹸にするから」

「これから石鹸も作れるの?」

「えぇ、そうよ。頑張ってバロッタさん「バロック‼」バロックさんにいいところを見せてよね」

「バロックさんは関係ないでしょ‼」

「あらそーお? 関係ないのー?」

「意地悪‼」

 石鹸の材料、足りない分はギルドで買った。ブルースライムリーフが二十五本、グリーンスライムリーフが二十本、石鹸が五個。


 「はいどうぞ」

「まぁ素敵、ありがとうドロシー……こっちに分けているのは?」

「高か弱か。分けといてあげたの、嬉しい?」

「まぁ、その心遣いに、涙がでそうだわ。弱もあるのね」

「二人して嫌味?」

 顔をしかめるシタラ。その顔を見たルチルはなるほどと納得したあと、苦笑いした。

「ごめん。初めて作ったにしてはすごいわよ」

「ルチルは作ったことないくせに‼」

「違うのよ? 興味が無いだけ。製薬の加護が無いんだから仕方ないのよ?」

「免許も無いしねっ」

 悪い顔でそう言ってやる。

「資格もねっ」

 ルチルはノリが良くて笑ってしまった。その代わりシタラの機嫌は始終良くなかった。


 報酬に銀貨二十五枚と、別途リーフと石鹸代を貰った。銀貨三十枚の稼ぎだ。冒険者が一日に稼がなければならない金額は最低銀貨五枚だと言われている。

 仲介料に銀貨一枚と、税などの保険に一枚取られる。

 銀貨一枚あれば宿に一晩泊まれるし、酒だって飲めるかもしれない。

 夕食を奢ってあげるとルチル、シタラを伴い、宿へ向かい歩く。

「本当に感謝しているわ。これで少しは衛生面に余裕が持てる。あの毎度来る行商の顔見たことある? もうほんと最低なのよ!? 足元見て‼ ギルドの経営がどれほど大変かわかってないのよ‼」

 ルチル、貴方も行商の苦労なんてわからないでしょうと言いたいところだけれど、こう言うと、ルチルの気分を損なうかもしれない。

「ルチルは頑張ってるのね」

「そうなのよー……苦労してるのよー……」

「耳掃除ぐらいならしてあげるわよ?」

「やだっ‼ ドロシー大好き‼」

「おっぱい触る?」

「おっぱい触る‼」

 おっぱい触るな。


 「ルチルは行商の苦労なんて知らないでしょ」

 シタラがぼそりと言うと、ルチルは目を細めた。

「シタラ可愛くない。シタラ嫌い」

「どうせ可愛くないですよ‼ ふんっ‼」

「レディがフンだなんて汚い言葉を使っちゃダメよ」

「なっ‼ ふっふふふんってそういう意味じゃない‼」

「ほらっ。おっぱいでも触って落ち着きなさい」

 シタラの手をとって、胸に当てると、シタラは胸をもみもみしてきた。

 揉むんかい。

「ドロシー嫌い」

 揉みながらそのセリフはどうなのか。

 相思相愛はおいらとルチルだけか。そう言おうかと思ったけれど、さすがに言わなかった。


 街中を移動中、女将さんを見た。今度は、団体さんと一緒か。小さな村だから目立つな。隠れるように移動しているのはわかる。なぜだか、そこまで目立っていない。

 これ、盗賊スキルだ。気配断ち……。

 普通に習得できるスキルじゃない。

 混沌の神々の恩恵。授かっただけで国では極刑扱いなのに、まじか、心臓がバクバクしてきた。なぜ女将さんが一緒なのだろう。

 デッドオアアライブだ。生死問わず。殺しても犯罪にならない集団、ローグだ。意味はならず者。ひいふうみい……十八人、多い。多いと思うのは、いざとなったら奪わなければならない命の数だからだ。


 マッピングディスプレイを表示、隠蔽スキルがあってもヴェーダラの目は欺けないよ。

「どうかした?」

「ううん」

 なぜ女将さんが一緒に。デッドオアアライブ……だよ。


 ディスプレイを表示しながら宿の食堂へ。かわい子ちゃんが給仕に部屋の掃除にと励んでいた。

「あっ。おかえり‼ 今日の稼ぎはどうだった?」

「銀貨三十枚も稼いだわよ」

「すごーい‼ はい‼」

 少女が両手を出して来たので、銀貨一枚と銅貨二枚を乗せる。

「二枚多いよ?」

「頑張る貴方にご褒美よ。サービスしてよね」

「んんんんんん‼ ドロシー大好き‼」

 やっぱ世の中お金かもしれない。お金を払って大好きと言ってもらう簡単なお仕事。

 ディスプレイで監視しつつ、席へ着く。声が聞こえないのが難点かな。


 親父さんは知っているのだろうか。カウンターの向こうの親父さんからは特に何も感じない。

「女将さんはどうしたの?」

「お母さんなら買い出しだよ」

「あの雑貨屋に?」

「まさか、ギルドに肉の配給を取りにいったの」

「そうなのね」

 どうしたもんかな。全員ぶっ殺せば話は早いけれど、果たしてそれをしていいものかどうか。ローグ達が村の井戸周辺にたむろしている。何をするのやら。


 「今日は奢りだから、遠慮なく食べてね」

「シタラもいっぱい食べていい女になりなさいな」

「ルチルに言われたくない」

「貴方今私の何処見て言った!? 何処見て言った!?」

「おちち」

「おちち‼ おちちは関係ないでしょ‼」

 少女が運んでくる料理に舌鼓を打ちつつ、女将が気になりすぎて料理と会話が頭に入ってこない。やがて女将がローグ達から離れ、方向が宿へと向いて一安心。


 食堂に女将さんが入って来て、顔を見る。女将さんは笑顔でおかえりなさいと声をかけてきた。いつもの女将さん。いつもとはいうものの、そこまで知っているわけじゃない。

 気にしても仕方ないか。いざとなったら、少女に恨まれようとも全員始末するぐらいはしないといけないかもしれない。

 マップにローザ達の姿は無い。

「ほらっ。ドロシー。フォークが止まってますよー。もっと食べないと」

「あーんして」

「あーん? もごっ」

「おいしい?」

「ほにそれー‼ っもご」

「口に物入れて喋らない方がいいわよ。シタラ。見てたでしょ? バロックさんにしてあげたら」

「……そっそんな破廉恥な事、そんな破廉恥な事できるわけないでしょ‼」

 別に破廉恥ではないでしょ。

 気にしても仕方ないか。おいらに出来る事なんてあんまりないし。死んだことになっているとはいえ、この姿と匂いは消しようがない。わかる人にはわかってしまうかもしれない。


 「もごもご。これが貴方のテクニックなのね」

「私のっていうか、みんな普通にするでしょ」

「しないわ‼ 普通にしないわ!? シタラするの!?」

「しません‼ 破廉恥です‼」

「貴方達元カレとかいないわけ?」

「もとかれ!?」

「そんなのいません‼」

「貴方はいるわけ!?」

「いるわよねーダーリン」

「ダーリン!?」

「ダーリンです‼ はいおかわり」

「なんだミーナじゃない」

「子供はノーカウント‼」


 丁度少女(ミーナというらしい)が来たので、話しをふっておく。

「ありがとうダーリン、チューしてあげる」

 冗談だけれど、少女が頬を差し出してきたので、机から屈んで頬に唇をつけた。

「はははははは破廉恥です‼ 子供になんてことするんですか‼」

「ほっぺにチューぐらい普通でしょ」

「なっ‼ なっ‼」

 少女(ミーナ)にそう言われてシタラの顔は真っ赤になっていた。


 このまま、この村に居つくのもいいかもしれない。

 声と騒ぎと笑い声で、楽しくてしょうがない。おいらだけじゃない。食堂に来たみんなが馬鹿騒ぎして笑っている。

 お酒も入って陽気だ。

「ドロシーさん、ですね?」

 声がしたので振り返ると、昨日か、一昨日、道端で会った少女が立っていた。身なりがいいね。傍には二人の男が少女を守るように立っていた。

「えぇ、この間はどうも」

「覚えて頂けたのですね……ドラッベンラ様」

 一瞬、ほんの一瞬だけれど、心臓が止まるような感覚を覚えてしまった。

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