⑥
目を覚ますと、少女は仕事に行くのを渋った。ベッドの中で、嫌がっておいらがかまうのを待っている。おいらが構えば構うほど、少女は笑顔になった。脇に手を入れてくすぐったり、頭を撫でたり、頬に唇を寄せたり。
身支度をしたら今日も一日が始まる。チップ(お金)を渡そうとすると、少女は顔を赤くしていいと言った。でもおいらは貯めておきなさいと少女にお金を渡した。
身支度を整えたら朝食。
女将さんと目が合う。女将さんの顔色は良かった。スライム薬を飲んでくれたのかな。
「おはようございます」
「ございます」
「あのお薬、効いたようです。今日は朝から随分調子が良くて」
「よかったわ」
あの薬には疲労軽減の効果がありますので、と言おうとしてやめた。女将さんはたぶん、そういう答えを求めていない。昨日の貴方に貰った薬が効いたのよと言っただけで、効能の事は聞いていないからだ。
親父さんと目が合う。親父さんは眼鏡をかけた大人しそうな人だ。腕の筋肉が発達しているのが見てとれる。大人しいと見せかけたゴリラだぞ。
女将さんが浮気するようには思えない。前夫の子供なのかもしれない。
少女と親父さんの仲が悪いようには見えない。今もハイタッチしている。
ただ少女は、血の繋がりがないのを気にしている。こればかりは。知らぬ存ぜぬを通して素知らぬ顔をするしかない。
「さぁさぁ今日からまた食堂も再開しますから、食べて行ってください」
「どうも」
「こちらへどうぞ」
席に案内されて座ると、ごとりと目の前に汁物の入った器が置かれた。
「さぁさぁ一杯どうぞ」
うぇー。朝からヘヴィな匂いだぞ。
「これは?」
「宿特製スタミナドリンクです。朝からがっつり働けますよ」
丼(どんぶり)のような器の中、なみなみと揺れるクリーム色の液体。表面には脂。匂いが随分と強い。骨とか髄とか、そう言うのを煮込んだスープのようだ。朝からきつそうだと思ったけれど、せっかく用意してくれたのに、飲まないわけにはいかない。
うっぷえずくけれど、何も入っていない胃袋から出てきたのは空気だけだ。
「本当は従業員用なのですが、特別なんですよ」
器を持って、端に口を付ける。唇に触れた瞬間、あっ、これ旨い奴だと強く感じた。舌先に触れてそれは確信に変わる。脂っぽいのに飲めてしまう類のスープ。白湯スープに近い。あまりに濃い匂いが鼻孔の機能を鈍らせ、嫌いを麻痺させる。
一気の飲み干してしまった。器をテーブルへ置くと感嘆の息。
貴族の飲むスープとは全然違う。お上品とはかけ離れた味だ。
「どうでした?」
「とっても美味しいです。商品にはしないのですか?」
「うちの旦那渾身の作品なんですよ。そうしたいのですが、材料が限られるので、配れないのです」
「材料の問題ですか」
「目は覚めましたか?」
「えぇ、とっても」
「よれはよかった」
朝食はパームハートを蒸したものと卵、それに果物。ペルシカ。形は若干異なるけれど、やっぱり桃だ。
「娘の面倒を見て頂いていますし、朝食代はいりませんので」
「いいのー?」
「えぇ」
「ありがとー」
お言葉に甘えさせてもらう。
「こちらこそ。皆さんドロシーさんのようなお客様ならいいのですが」
騒がしくなってきた食堂で、綺麗に物を食べる人は驚くほど少なかった。
少し遅めのギルド。ギルドへ行くといつもの受付嬢さんがいた。目が合ったのに、そちらに行かないわけにも、しかし、あんまり同じ受付に行くと誤解されたり、迷惑になったりするかもしれない。
たまには他の受付にと思っていたら手招きされたので、自分を指さしたら頷かれた。そして他の受付に行ったら、手を掴まれて強制的に連行された。
「どうしたのですか?」
「私、手招きしましたよね?」
「私じゃないと思いましたので」
「貴方しかいないのに? ドロシーさんしかいないのに!? 自分を指指して確認までしたのに!?」
「たまには他の受付に行かないと、またコイツかって思われそうでしたので」
「そんな事思いませんよ。それだと他の人はどうなるのですか!?」
朝からそんなに声を荒げなくてもいいのに。
「もういいです。私の事を嫌っているわけではないのですよね?」
「ストレートに聞きますね。嫌いですって言ったら、どうするのですか?」
「好きになるまで私が受付をします」
いいね、そういうの。
「それはいいですね」
「傷つかないわけじゃないので、冗談でもやめてください」
「はい。それで、何か御用ですか?」
「実は、納品依頼を受けて欲しいのです」
「探索の?」
「いいえ、ブルースライムリーフと石鹸を納品して欲しいのです」
「あーなるほどね。他に作る人がいないの?」
「いるにはいるのですが、数が足りません。製薬免許のないあなたにこんな事を頼むのも気が引けますが。引き受けていただけませんか?」
製薬は工房が牛耳っている。要は値段が高い。
本来の工房の目的とルールは現在の工房の在り方やルールと異なる。
製薬免許は違法な薬や詐欺から市民を守るために作られたものだ。
しかし長い慣習のうち、ルールを勘違いするものが現れたり、権威を求める者が現れたり、本来の目的から反れてしまった。
水神の加護が有用なのもある。国が明星の女神を国神にしているので、水神の加護を最初から得る者は少ない。途中からだとやはり、貢献度がね。いくら水神の加護を得ていてもLvが上がらなければ加護の恩恵はあんまりない。
値段が高いと市勢が薬に手を出せないし、ブラックマーケットがはびこるので、その救済案としてギルドが薬剤を納品する依頼と称して免許の無いものから薬などを仕入れる場を設けた。正直言って、正規の金額からは遠く、買いたたかれる。そうでなければ工房は黙っていない。買いたたかれるなら売らないのではないかと、そう思うかもしれないが、ギルドはギルドのやり方で評価はしてくれる。要はギルドに恩を売れるから、色々融通して貰えたり、情報を教えてくれたりする。
なんでこんな事を知っているかって、全部、エルフリーデで経験済み。
神は現状を憂いてはいる。憂いてはいるが、基本的に手出しはしない。教会は神に準ずる。
怪我などは星術で治せてしまう。薬剤の在り方が難しく、彼らはその権威を守ろるためなら何でもする。
「そうですね。えぇ、いいですよ。かまいませんとも」
「不満なのもわかりますが、お願いしますね。衛生面はこの村において重要事項です。残念ながらまだまだ色々不足しているのが現状です。製薬を知っている人もあまりおりません」
「不満ではありませんよ。今日は一緒に夕ご飯でも食べましょう」
「ふふふっ。かまいませんよ。シタラ? シタラ!?」
シタラって名前なのか。奥から出て来たのは教会の修道女だった。
身長は低め、銀髪、くせ毛強め、羊みたい。肌が白い、眼の色は緑。登録時においらに看破を使用した修道女だ。
「こちら、村に滞在しているシタラさんです。製薬に興味があるようですので、御同行をお願いしてもよろしいでしょうか? できれば製薬について教えてあげてください」
「製薬の技術を提供するということは、それなりの報酬を期待しても?」
「はい。この依頼の料金は銀貨二十枚です」
「えー」
「三十枚でもかまいませんよ」
「では二十五枚で」
「わかりました。でも銀貨五十枚は要求されると思っていましたよ?」
「妥協は四十五? それとも三十五?」
「四十五枚です。これからでも強気に交渉します?」
「いいえ、晩御飯は奢ってくださるのでしょう?」
「さすが、美人だけではない女」
「いい女でしょ」
中身は雄だが役に立つ。
「ふふふっ」
ギルドに恩を売ることは、神様に恩を売ることと同義。金では買えないものを買えるチャンスなんてそうそうない。
それに薬学の知識なんて一人で持っていたら、目を付けられた時大変になるし、なにより目立つ。困ったらどうするって話。薬が必要な時どうするって薬を作れる人の所へ人は来る。
工房がないのならなおさらだ。
ギルドに恩を売ることは、ギルドに守って貰えると同義。
そしてギルドは教会と同じ。その恩が仇で返される確率は、一般人に恩を売るよりもはるかに低い。銀貨二十枚分の恩はいかほどか。
シタラ、さんがカウンターより出て来て、こちらへ頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「よろしくね」
神官、修道着、真っ黒なローブと、顔を覆うフード。女性は基本的に体のラインを出さない野暮ったい服を着る。普通に見るとデブに見える。例えスカートを履いても下にズボンも履く。
明星の女神に仕えるのは容易だ。契約して、教会の門を叩けばいい。誰でもなれる。男性なら修道士、女性なら修道女。教会の管理の元、神に仕える者として生活する。
教会には八つの宗派があり、それぞれが独立している。
八つの宗派より一人の代表がおり、この代表は各宗派が決める。そして、八人の代表より一人の教会代表、所謂教主が定められる。
教主は教会の在り方を自分で決め、教会に来た人々を導く立場にある。
教会の在り方ややり方に神は口出ししない。導いてくださいと教えを乞うても神は何も答えてはくれない。教会の管理がずさんであるのなら、神は離れ、教会より神の加護を得られなくなる。教会が腐るとギルドは教会を弾劾し正す。
今回選ばれた教祖は十二歳の少年で、神に愛されし神の子と言われている。
それは加護のおかげではなく、所謂ギフト保持者だから。
アメリカ式で言うのなら、IQが高い。ヒロインの攻略対象。
口調が丁寧で可愛く、少し生意気。人気はほどほどだったけれど、成長したイラストが公開されると爆発的に人気が出た。
教会は無料で民に治癒などを施す。
この行為は女神より推奨されている行為であり、教会で普通に生活するだけで、戦わずとも一定レベルまでは容易に到達する。その限界がレベル3。
教会の中で一生を過ごす者もいる。
聖女の大半は教会の中にいる。レベルと階級は別。
「では行きましょうか」
「はい」
歩きはじめると、シタラも後をついて来た。さすがに無言だと気まずい。受付嬢さんは会話をしやすい雰囲気を作ってくれたけれど、シタラは独特の気まずい空気を纏っていた。
ぼくみたいだ。
「シタラ、さんはレベルはいくつですか?」
「レベルは3です」
「その年で、結構高いのですね」
「いえ……」
「ソルジャーですか?」
「はい」
必要最低限の情報しかくれない。レベルが3.治癒経験者。
「外での戦闘経験はありますか?」
「あまり、無いです」
「ご出身は?」
「……」
「答えたくないことは答えなくてかまいませんよ」
街の外へ出る。教会関係者がいるからか、シタラの顔は門番に知られており、顔パスだった。教会が民に売っている恩は大きい。無料で怪我を治してくれるからだ。
その恩は尊敬や優しさ、庇護と言う名の元、教会へ戻って来る。
教会を責めれば民は教会を守る。
サーチアイとマッピングディスプレイを展開。ヴェーダラの目で眺める。多数の紫、点がここより一キロ先に展開してきた。この多さで村人たちの反応が無いのは蟲やネズミなどの小型タイプ。でも放置しておくのは良くない。
シタラがサーチライトを展開しないので、じっと見ているとシタラは顔を背けた。
「明星の女神様の加護をお持ちですよね」
「はい」
「サーチライトは展開しないのですか?」
「え?」
「採取に付き合うという事は、これから自分で村の外へ出て採集するということですよね? それならば村の外での歩き方は学んでおいた方が良いですよ」
「わかりました。サーチライトですね」
「はい」
「展開しました」
「常にスキャンライトを意識してください。サーチライトの情報が更新されませんので」
サーチライトはマッピングディスプレイと似たような星術だけれど、ソナー状、スキャンライトで敵の位置を把握できる。これによりソルジャーでありながら、スカウトと同等の事ができる。
さすがにマッピングディスプレイのような精密さは無いけれど、自分を中心とした円状の範囲にスキャンライトを展開すれば、視認していない敵も発見できるし、未知の通路、隠された物まで発見できる。
正直言って星術は強いし便利だ。清浄という星術もある。体を綺麗にする術だ。
「はい。展開しています」
この世界において、神々は病気までは治してくれない。怪我は治してくれるし、なんなら特定の毒も排除してくれる。しかし病原菌までは排除してくれない。
よって製薬が必要になる。外傷は教会、病気などは製薬。製薬で治せない病気はどうにもならない。神にいくら頼んでも無駄だ。
「では最後に、セイントフィールドを展開してください」
微生物も生きているからだ。特定の生物を殺す術は授けてくれない。他の生物も生きているのだ。例えそれが、人を害する物であったとしても、精々、抵抗力を高めてくれるだけだ。
「三つ同時は無理です」
自然と人は共存関係になどない。競争関係にあることを忘れてはいけない。
「できます」
「でも……」
「無理にとは言いませんが、なるべくこの三つは常に展開してください。それができないのならば、採集することをお勧めできません」
「わかりました。努力します」
清浄は体の汚れを取ってくれる。しかし、常在菌やその他の菌類を殺しはしない。
優しいよなぁ、神様って奴は。
「常に発動する必要はありません。スキャンライトに乗せるようセイントフィールドを展開してください。」
「それはどういう……」
「スキャンライトを展開する時に、セイントフィールドも展開してください」
「セイントフィールドは持続星術なのに……」
「やってみてください」
「……」
嫌な事には返事をしないタイプなのかな。
憤りって顔している。おいらが全面的に正しいわけじゃないしね。最低限の初歩のつもりだったけれど、おいらが絶対に正しいってわけじゃない。
「したくないのであれば、自分のやり方でかまいませんよ」
「わかりました」
サーチライト、スキャンライト、セイントフィールドは、三つまとめて、ヴェールオブヴィーナスとして発動できる。しかし、レベルだけではなくて、明星の女神への献身が足りなければ授けて貰えない。術はそれぞれの神に授けられなければ使えない。
「偉そうに言ってますけど、貴方は教会関係者なのですか?」
シタラが嫌味を含めておいらにそう言ってきた。
「いいえ。私は教会関係者ではありません」
「なんだにわかか」
「にわかですが、貴方より優秀な教徒が私の友達にいます。このやり方はその方より教えていただいたものです」
半分嘘だ。このやり方はおいらの知っている効率のいいやり方で、エルフリーデとしてヒロインに教えたものだ。
そういうとシタラは口を閉ざした。
「ではまず、ブルースライムリーフの材料から集めましょう。材料はわかりますか?」
「アルテミシアの葉とスライムの核です」
「では早速採集しましょう。アルテミシアの葉はわかりますか?」
「教えていただければ」
「わかりました。ではこちらへ」
アルテミシアの葉はその辺に沢山生えている。しかし似たような種類の葉も沢山生えているので間違える人はいる。おいらも最初は苦労した。葉の裏だったり、葉の形だったり、舐めてみたり、色々試してみなければアルテミシアの葉とは断言できない。まぁ、小型鑑定ルーペで見ればいいのだけれど。
おいらが何か言う前にすでにシタラは鑑定ルーペを取り出していた。
だったらおいらはいらないじゃないかって話。実質、今日はシタラのお守りをしてくれということなのだろう。
「はい。これが、アルテミシアの葉、ですね」
「そうですね。鑑定ルーペで見れば確実です。虫の付いていない綺麗なものを選んでください。それは葉の裏に卵が付いているのでダメです」
「……」
「虫が付いていると、煮る時に不純物となり、葉の成分が核とうまく結びついてくれなくなります」
「わかりました」
「葉の裏が紫のものがあるでしょう? それも使えません。劣化していてあまり成分が抽出できません。あまり若い物もダメです。一番ダメなのは、根を取る事です。あくまで葉だけとってくださいね。量を作りたければ、それなりに歩き回らなければいけません」
「……」
なんか喋れ。
「採集は屈伸の連続で足が疲れます。疲れると索敵が疎かになりがちです。疲れたら癒しの力で自身を回復してください。くれぐれも戦闘などは考えぬようお願いします。索敵に敵が映ったら逃げますよ」
「……わかりました」
それなりに数を取るとなると時間がかかる。選びに選んで二時間ほどが経過していた。葉はおよそ七十枚程度。劣化は早いから今日中には作りたい。外装の中に入れても時間は経過してしまう。この世界において時間と物質は別物だからだ。
外装の性能を知られるとあまり良くないと思い、葉は持ってきた籠へと入れた。背中に背負う籠だ。
マッピングディスプレイにシタラの位置が補足されている。段々と紫の点に近づいているようだが、気づいていないのだろうか。索敵が疎かになっているのかな。二時間も経過するとさすがに疲れてしまうから仕方もない。それは命にかかわる事であり、仕方が無いで済ませられる問題ではないけれど。
シタラの選んだ葉は、三割ぐらいが良質ではない。根ごと取ったほうが鮮度は保つけれど、自然に対して材料を分けて貰っているという認識はあったほうがいい。
植物だって嫌な隣人より良い隣人がいい。
というのは建前、根が残っていればまた採取できる。
使えない葉は廃棄になるしね。
「きゃっ」
シタラの小さな悲鳴が聞こえ、セイントフィールドの発動が見えた。星術、セイントフィールドは人体を傷つけないが、魔獣に対して効果は絶大だ。
シタラの傍の草が揺れている。セイントフィールドは範囲持続攻撃性星術。本体より円を描いて展開される。現在シタラを中心におよそ三メートル前後、セイントフィールドの範囲を避けて小さな魔獣が展開している。
より洗練されれば、範囲内の味方を癒し、力を増幅する。
星術は強い思いに答える。強い願いに答える。
採集において優先すべきは採集物であり、魔獣ではない。索敵に魔獣などの敵が引っかかったら相対しないよう避けるのがベスト。体力にも限界がある。集中力にだって限界がある。
逃げられるなら逃げるべき。
「あの!? ドロシー‼ さん‼ 助けて‼ 何か‼ います‼」
「そのままスターライトはできますか?」
「はっはい‼」
「ではセイントフィールドを展開しつつ、スターライトで局所を照らしてください」
スターライトはセイントフィールドの局所版。扇状で縦に範囲が広く、威力も高い。
サーチアイ、敵の姿が見えている。ハウンドラット。一匹一匹はそんなに強くないけれど、厄介な魔獣ではある。数があまりに多いとベテランでもやられる。だけれど範囲星術にかかれば、良い経験値だ。数もそこまで多くないしね。
「あの!?」
「倒してしまってかまいませんよ。焦らず、いざという時は援護しますから」
こちらに気づいたラットの数匹が向かってきた。すばしっこくて早い。救いはハウンドラットが生物ではないこと。噛まれても伝染病などにはかからない。
ヴェーダラの分身(ヌイ)を使って、草むらの中で見えないように葬る。近づいてきたハウンドラットを見られないように排除して、とヌイにお願いした。
「わっわかりました」
「いざという時は助けますので、安心してください」
「大丈夫なの!?」
「大丈夫ですよ。ハウンドラットです。一匹一匹はそこまで強くありませんし、星術ならば問題ありません」
「わっわかった」
マッピングディスプレイで敵の位置を確認しながら処理していく。この世界における神の加護はとても強い。ロウをソルジャーにすれば例え後衛でも当たりに強くなる。
魔獣に帰巣本能や生存本能はない。最後の一匹まで向かってくる。
「なんとかなりましたね」
「はい……」
「お疲れ様です。そろそろお昼ですが、一度戻りますか?」
「えぇ、あの、材料は……。まだそろっていません」
「そうですが、大丈夫ですか?」
「大丈夫。次は、貴方が戦ってください。貴方は冒険者ですよね。私だけに戦わせないでください」
「そうですか? 対処法を知っていた方がいいと思ったのですが」
「余計なお世話です」
「そうですか」
一人で収集などはしないようだ。それはそれでいいけれど、村の外に出るのならなるべく一人じゃない方が生存確率は高くなる。つか当たり強くね。
「では、スライムの核を取りに行きましょう。移動しますよ。足が疲れたら休憩しますので言ってください」
「何処まで行くのですか?」
「ここより北の森です」
「マクファッジの森ですか」
ちゃんと名前がついている。もっともこの世界の地名って、大体が、最初に発見した人の名前だ。
これ、案内込みで銀貨二十五枚は安すぎたかもしれない。帰ったら、ちょっといい料理を奢って貰おう。
「移動しながらお話しますが、貴方の摘んだ葉がこれです。あまり品質が良くありませんね。こちらには虫の卵がついています。これはエウクレプディス(チャドクガの一種)の卵です。街に持ち込めば大変なことになりますので、見つけ次第火をつけて燃やしてください」
「意地悪ですね」
振り返り見ると、シタラがおいらを睨んでいた。
「なぜそう思うのです?」
「私がバロックの幼馴染だからですか?」
急に知らない名前が出て来た。バロックって誰ですか。
「バロックとは?」
「とぼけないでください‼ 私知っているんですから‼」
前のめりに腕を抑えられる。
「バロックとは誰でしょうか」
「とぼけるのですね。一昨日、食堂で話しているのを見ました」
一昨日と言うとローザが真っ先に思い浮かぶ。
「ローザの関係者の方ですか?」
「ローザのお兄さんです‼」
「長髪の方? それとも短髪の方?」
「からかって‼ 短髪の方です‼」
「あー。実兄の方ですか」
「狙ってるんでしょ‼」
「何をですか?」
「バロックを‼ です‼」
「狙ってません」
「嘘です‼」
シタラの顔が近い。地味だけれど、整った顔だ。
化粧品は贅沢なものだ。食べ物や屋根のある空間より優先されるものじゃない。眉毛も綺麗に整えられていない。それでも十分に綺麗だ。
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