マップが湖の反対側を表示しはじめた。

 なんか変だな。殺意を持った敵が表示されたので、マップの地形を操作して拡大する。木の上に敵が留まっている。三体――と、死体。人間が死んでる。マジやばくね。

 死体の上空、木の上に三体が、待ち構えている。ヴェーダラの目とサーチアイを併用し、ぐるりと辺りを見回して、人がいないのを確認。


 夜術ブラックドッグを発動、木に登る。木の上に登ったら、右手、人差し指と親指で丸を作り、右目で覗く。

 ブラックドッグは簡単に言えば黒い犬になる夜術。ひと前で使うのはおすすめしない。ホロウと勘違いされるからだ。

 木の下に死体、荷物が散乱している。信号弾が燻っている。


 そんな死体を見下ろすように三体。ホロがいる。

 アンテ族。アンテ族がいる。頭いーじゃん。救助者狩りなんて。人間と同じようなことをする。感動した。外装より鎮静剤を一本握った手が現れて、鎮静剤を口に咥える。歯で根元を噛み、漏れだした成分が舌の上に苦く、吸い込む空気が舌に触れると冷たく感じる。

 何日待つ気なの、救助が来るまでずっと気の上にいる気なの。涎垂れているし、この辺りはアンテ族がいる。山の方かもしれない。マップを見ても三体しかいないことから、斥候かなんかかな。


 大きさからみて、アンテ種のゴブリン級。小鬼の部類。アンテ種は大きさによって分類される。

 黒羽の外装よりコインガンとスコープを取り出す。このコインガンはお手製の魔導具だ。この世界では遺跡から現在の人類では製造することのできない特殊なアイテムが出土することがある。

 コインガンのオリジナル然り、スカイシップ然り。

 オリジナルのコインガンはコインが、ソニックブームを纏いながらスクリュー状に威力を増しながら飛翔する。残念だけどおいらのコインガンにはそれほどの異様な威力は無い。


 コインガンを構える。おいらのコインガンは魔力で動作する。銃に魔力をこめ貯める。コインホルダーって地味に邪魔なんよね。

 このコインガンには、魔力を貯める回路、貯めた魔力を圧縮する回路、圧縮した魔力を爆発させる回路、銃口には廃熱回路、銃身には物質強化回路が組み込まれている。


 なんでコインガンなんてめんどくさそうな銃を使っているのかと言うと、普通の弾丸では回路を組むには小さすぎるから。直径26,5mm、厚さ1.88mm、重さ9.3gのコインは貨幣じゃない。大きければコインにも回路を組み込める。大きさはほぼ五百円玉、やや重め。

 コインホルダーには重さを軽減する回路と撃ったコインを回収する回路、それからコインを修復する回路が組まれている。付与と言ってしまえば簡単に思えるけれど、回路を描くのは神経を使う。これらを使用するには常に魔力を込めていなければいけない。

 コインを回収する機能は、いきなりコインが鞄の中にすっ飛んでくるわけじゃなく、転がって鞄の中へ納まる機能。


 コインを修復すると言っても、材料が何処からか出てくるわけじゃない。どんなに強化をしようとコインはやがて劣化し欠ける。欠けたコインは他のコインを使ってちょっとずつ修復される。やがて一枚無くなるので一枚を作り補充する。


 コインガンとコインホルダーの機能を一緒にしてしまえばいんじゃねって話だけれど、それだと銃自体が大きくなりすぎてしまう。ガトリングガンを担いで攻撃するのかって話。


 夕霧のコインは追尾性能を持ったコイン。でもこれだけでは何を追尾するのかを設定できない。銃にスコープを取りつけて覗く。このスコープにコインと対になった対象認定回路を組み込んでいる。

 ここまでの手間を考えたら、このコインガン一つとっても作るのはとても面倒くさい。


 魔力を銃に込めつつ。

 コインを込めずにスコープを覗き、対象をスコープ内に納めてダイヤルを回しピントを合わせる。

 サーチアイ、マッピングディスプレイで展開している地形マップの敵をトラッキング(ターゲット又はロック)、他の二体も同様にする。終わったら、九十度方向を転換して、一呼吸、銃の上部を開き、コインホルダーからコインを掴み取り、枚数を視認、装填、外装よりマガジン型サイレンスガジェットを取り出して装着する。

 この銃は上部よりコイン(弾)を装填するので、マガジン(弾倉)を使い、弾を装填しない。サイレンスガジェットには音を消すトップスターが装着されている。


 これらの回路は魔力を通さなければ使用できない。つまりこの銃は魔力を込めなければ扱えない。この銃には欠点がいくつもある。完璧とは言えないところも気に入っている。

 銃に込める魔力の量を自分で調整しなければならない。大量に込めすぎると爆発が大きくなって銃口が吹っ飛ぶ。上限を回路で設定すればいいけれど、これ以上は回路が複雑になりすぎる。マガジン型のガジェットとしては一応作ったけれど、正直いちいちガジェットの組み換えが面倒臭い。


 虚空を――覗き、引き金を引く。

 引き金を引いて一秒弱、ターゲットしたホロ三体の頭が続けざまに爆ぜた。頭を失った体が体勢を崩して真っ逆さまに地面に落ちていく。

 九十度方向を変えても直撃する性能がある。方向を変えたのは射線を読ませないため。誰が考えたっておいらが考えました。意味があるようでないようなないようなないような。


 コインは音速で高速回転しながら飛翔し、回路に込められた魔力で本来ならありえない角度で曲がり直撃する。込められた魔力の量で持続時間が決定し、魔力の量が一定を割ると纏うソニックブームを維持できなくなるので、空気抵抗が増して威力が急激に落ち、落下する。威力が無くなるか、目標が無くなればコインは落下する。


 コインが直撃してもコインの衝撃より相手が強ければコインは威力を落としてそれ以上は追尾できない。コインガンの良いところは薬莢を輩出する必要がないところと、コインの音がいいところ。


 銃の修復はマガジン型ガジェットで補う。銃の修復機能を考えた際、銃の修復機能が壊れた時にために修復機能を修復する機能を追加とか無限ループなので、ふぁあ、ってなって分離した。


 マップを確認、敵がいないのをチェックしたら、下に降りる。

 ホロの死体は魔獣と違って消えない。肉塊が残っており、身なりを確認。ホロは防具や武器を使うけれど、基本は棒や石、そして人から奪った道具などを使う。遺跡より這い出てくるので遺跡産の特殊なアイテムを所持している個体もいる。ホロは積極的に漁ったほうが良いというのがおいらの考え。


 一人はクロスボウ、一人は剣、一人は槍。どれもあまりいい物じゃない。おそらく殺した冒険者より奪ったものだろう。表面についた錆びと、こびりついた臭い匂いはホロの糞。

 アンテ種は衛生面が非常に悪い。

 彼らと接近戦をするのは良くない。特に彼らが使う毒は、アンテ種特有の細菌で、傷口より体内に侵入して激しい頭痛や痙攣、発熱を起こす。


 人の死体、木に寄りかかって座るように、ソロでしくったか、青い顔、口に手をかざす、息もない。世界の何処かでは知らぬ前に何かしらで誰かが亡くなっている。


 死因は把握できないけれど、頭から血、撲殺の可能性は高い。体に傷、おそらく交戦中に攻撃を食らって感染し、意識が朦朧としたところに致命的な一撃を食らった。

 感染から発症まではおよそ二時間程度。症状を軽減する薬はある。使用していないよう。


 アンテ種に女性が攫われ、レ〇プされる話はある。けれど大抵の場合、性交した女性は膣より侵入した細菌に感染し、子供が産めない体になる。また大抵の女性の体には避妊用の模様が刻まれているため、人の女性からアンテ種の子供が生まれる可能性は低い。

 一回の接触によりアンテ種の常在菌に感染し、意識は朦朧に、連れ去られた女性が生還するのは本当に稀。糖鎖(とうさ)は同じ。糖鎖は受精にかかわるもので、これが違うと受精ができない。人とゴリラが性交しても子供ができない理由。だったかな。


 基本的にアンテ種との接近戦はおすすめできない。

 アンテ種が傍にいる。それはボルテックスリオがいる可能性を示唆している。


 どんなに加護があろうとも、防御力を上回る硬さで殴られたら死ぬ。

 もう一度マップを確認し、信号弾を打ち上げる。色は黒。黒は死人発生の合図。数秒後、緑の信号弾をいくつか視認。緑はそちらへ向かう、合流するという合図。

 

 荷物を確認。冒険者が死亡した場合、死亡した冒険者の死体や荷物は可能な限り回収しなければならない。これは冒険者としての義務。死亡した冒険者の持ち物は可能な限り家族へ返される。家族がいない場合はギルドに所有権があり、然るべき処理ののち競売や安値で売られる。


 荷物と死体を移動しやすいようにまとめる。やって来た冒険者と顔を見合わせ、合流から合流、慎重に死体を村へと持ち帰った。人の死が近い。


 ギルドへ報告を済ませると探索は完了扱いに、事後処理はギルドにおまかせ、広間の隅っこで鎮静剤を吸う。

「ドロシーさん、こちら探索の報酬になります」

「あ、どうも……。あんまり探索してないけど、いいのですか?」

「はい。駆け出しとしては十分です。ドロシーさんのおかげで無事家族の元へお返しすることできました。それより報告通りならば、湖の向こう側にアンテ種が現れたようですね。一本頂いても?」

「どうぞ」

「ありがとう」

「大変なお仕事ですね」

 そういうと受付嬢は少し笑った。

「お互い様ですよ」


 入り口に少女が見えて、きょろきょろと辺りを見回している。おいらを見つけて目が合うと、手を振って、おいらはきょろきょろ辺りを見回すと、少女が頬を膨らませながらこちらへ来た。

「あらダーリン。どうしたの?」

「迎えに来たの‼ 無視しないでよね‼」

 ちょっと笑ってしまった。

「では今日はこれで」

「えぇ、お疲れ様。明日もいらっしゃるのですか?」

「はい。明日も依頼を受けに来ます」

「お待ちしております」

 少女と二人で宿に帰る。


 「今日はどうだった?」

「今日も大変だった」

「稼げた?」

 外装に手を入れ、財布を取り出し、さきほど受け取ったばかりの報酬を少女の手に乗せると、少女はお金を数え、顔を綻ばせた。女の子に貢ぐ気持ちがわかって嫌だね。

「まいどどーも」

「サービスしてね」

「ちゅうしてあげる」

 そういうサービスじゃないとは思いつつ、頬を下げると、唇の感触がして、微笑ましかった。宿に帰ったらお風呂、服を脱ぐと回収されて、洗濯してくれるっていうので甘えさせてもらう。とはいっても下着のみ。お風呂が用意されていて、お風呂では少女が背中を流してくれた。つうかおいら下着盗まれたことある。

 お返しに頭と背中と足を洗う。髪を洗うのを嫌がったけれど、お湯ですすぐだけでしょう。

 石鹸はこの村では高級品だ。お湯を沸かしたからと言って、体が清潔になるわけではない。


 お風呂から上がったら遅めの夕飯。食事処には沢山のお客さんがいて、少女がおいらを守るように席に案内しているのが面白かった。

「もし、お隣いいかな?」

 今日は串焼きらしい。肉と野菜が刺さった棒がカウンターを過ぎた目の前で焼かれていた。

 声をかけられたので見ると、長髪の優男がこちらを伺っていた。背が高い、金髪、イケメソだな。

「どうぞ?」

「ありがとう」

 ちけーな。パーソナルスペースは守ってクレメンテ。とは言ったものの、そんな見えないものを察してくれっていうのもおかしい気がする。


 男は自分が冒険者であること、名前、ランク、今までどれだけのホロウとホロを狩ったかなどを伝えて来た。適当に相槌を打つ。女将さんが緊張しているのがわかった。男を気にしている。いや、おいらを気にしているのかもしれない。

「君は何処の出身なんだい? ぼくはラザーナの街から来たんだけど、君の事知りたいな」

 おいら会話苦手なんだよね。コミュ障だから。

 丁度串焼きが目の前に来たので口に含む。肉がでかすぎてこれ、噛み切れねーよ。つうか何の肉なの。

 ポケットからナイフを出そうと。

「切ってあげようか?」

 男がポケットからナイフを取り出してくる。

「大丈夫」

「切ってあげるよ」

 いいっつってんだろ。お前の何切ったかわからないナイフで切られた物を口に含みたくねーんだよ。

「やめて」

 男を睨んで牽制し、ポケットからナイフを取り出して、串から肉と野菜をはずす。外したらナイフで切り分ける。皿まで切ったら、皿を弁償しないといけないかもしらん。

「嫌われちゃったかな?」


 めんどくさいな。他人と関わる気が無いから最初からシャットダウンしている。

「ここは食堂でしょう? せっかく作ってもらったんだから、食べなさいな。私もお腹が空いているのよ」

 別に嫌っていないと男を見ると、男の表情は緩んだ。

「おい‼ 〇〇〇‼ いつまで世間話みてーな話してんだよ‼」

 大声が耳に痛い。筋肉質、男、短髪、金色、少々臭う。大男が優男の頭に腕を置き、優男は顔を濁らせながらも、腕を跳ねのけようとはしない。

「ごっごめんねー」

 ついでのような女の子。


 「いや、なかなか言い出せなくてな」

「それじゃお前ナンパ野郎だぞ‼」

「えっ‼ いや、そんなつもりは」

 この串焼き、旨いけど素の状態だと顎が痛くなりそう。筋力増強で顎を強化して肉を咀嚼する。顎が丈夫になると顎がごつくなってしまう。

「あの、私が話すから。二人は、あっち行ってて」

 優男が席を立ち、大男と顔見合わせながら向こうへ行ってしまった。


 「あの、ごめんねー。最初から私が声をかければ良かったけど、その、私、あんまり喋りが得意な方じゃないから」

 金属の歪なカップに入れられたお酒。

「単刀直入に言うね。一緒に、パーティ組まないかな、と思って、あの、貴方一人でしょう? だから一緒にどうかなって」

 お酒を喉に通す。歪な金属のジョッキはお世辞にも綺麗とは言えなかったけれど、ちゃんと洗ってあるので飲めないほどじゃない。

 残念ながらヴェーダラの血液のせいで、お酒などを飲んでも酔わない。苦い飲み物だ。お子様舌だと言われそうだが、お子様舌だ。茶より渋い飲み物だ。


 年は十六辺りだろうか。

「聞いていい?」

「え? えぇ、私に答えられることなら‼」

「あの二人は恋人?」

 女の子の顔、瞳孔が開き、産毛が逆立つような印象。

「幼馴染です‼ 大きい方は兄です‼ それに恋人が二人もいるなんて不純です‼」

 明星の女神に加護貰っているなこれ。


 頭に手を伸ばして撫でる。

「えっ‼」

「どうして声をかけてきたの?」

「貴方が、一人だから、ソロって、大変だと思って」

 頬に手を当てて撫でる。もっと嫌がられると思ったけれど、女の子は嫌がらなかった。手を弾かれるぐらいは覚悟していたのに。

「そうなの」

「ドロシーさん、一人だし、どうかなって思って」

 名前も知っているのね。

「優しいのね。貴方達は」

「そっそんなこと‼」

「この村の出身なの?」

「ううん、ここから少し離れたファーサの村から来たの」

「ファーサ? ラザーナではなくて?」

「もとはファーサの村なの。今はラザーナって呼ばれてるけど……。村より街の方が出身が誇れるでしょ? 村だと田舎者扱いされるから……。私はそういうの好きじゃなくて」

 発展したのね。

「出稼ぎ?」

「うん……。そんな貧しいってわけじゃないんだけど、両親に楽をさせてあげたくて」

 いい子すぎる。マジ感動。

「そうなのね。嬉しいわ。でも、私ね、ソロが好きなのよ。ソロ専門だから」

「うーん。でも、そろそろパーティ組んだ方が……その、目立っているし」

「目立っている?」


 「うん。ほらドロシーさん美人だから。この食堂に来る人達の大半もドロシーさん目当てだし」

「えっ? そうなの?」

「そうですよ」

 どおりで少女が迎えにくるわけだ。そんな人気だとは思わんかった。男女比がね。この村って娼館も無いから溜まるものが溜まるのだろう。たまに来る旅芸人がお金で処理するくらいだし、それも旅芸人が来るのも一週間に一回ぐらいの頻度だ。おいらも鎮静剤が無かったのなら毎日出したいし、少女の体を視姦するぐらいは平気でやりそう。

 ムラムラしてきたので鎮静剤を外装から取り出して口に咥える。ムラムラするのも楽しいけれど、目の前の少女を視姦するのはモラルがね。


 丁度いいからこの辺りの情報でも貰おうかな。世間話的な。兄がいるから警戒も薄いだろうし。

「貴方、宿は何処?」

「あっ、ここです」

「そうなのね。部屋でお話しない?」

「へっ部屋で、ですか?」

「ダメかしら。この辺りって女の子が少ないから、こうやってお話する機会が無いの。この辺りの情報とか教えてくれるとありがたいのだけど、情報料ぐらいは出すから。パーティを断った手前、申し訳ないのだけれど」

「そうですね。わかりました‼ 任せてください‼」

「お金は、ちゃんと払うから」

「期待してます‼」


 女将さんにお金を出して夜食を見繕ってもらい、部屋へ。女の子を部屋に誘うのは初めてだったけれど、今は同性だしね。そんなに警戒はされないと思っていた。ここは壁も薄いから変な事をすればすぐにバレるし、明星の女神に加護を貰っているのならば、合意のない営みは死刑もありえる。教会はそのあたりマジでうるさいし腐っているところもある。

 部屋に入ると机を持ち上げ、ベッドの前に。

 皿を並べて座らせる。

 世間話から徐々にこの辺りの話にシフトさせる。

 この国の正式名称はアルトリーテ・アルストリーナ聖王国。

 王族の姓はハルフォニア。

 お酒も回ってローザ、少女ローザはほろ酔い気分で色々話してくれた。


 この辺りに出現する魔獣で多いのはラッツェルハウンド。速度強化のトップスターが落ちる可能性があるとのこと。速度強化は別名急速加速、三秒、人間の反射神経ギリギリの速度で動ける。

「あの優男がぁー困ったことに、すぐくどかえるんですよぉー」

 魔獣の厄介なところは核を壊すか抜き出さねば死なないところ。この核が玉。玉を壊さぬように倒さなければならないのと、トップスターはその中でも稀で、でも大体持っているトップスターの性能を魔獣が発揮するので判別は容易。

「モテるのね」

「そーなんですよぉ……それで、引き抜きとかぁ、スカウトがいないと困るにょに、優しいからすーぐ騙されりゅんです」

「好きなの?」

「まさか‼ わらしにとっては兄みたいなもんですよぉ」

「そうなのね」

「ふらりともあたしがいないとなーんもできないんだから‼」

「フフフッ」


 結構色々な話を聞けた。王都では公爵令嬢が賊に襲われ亡くなったので、盛大な葬式が行われたらしいけれど、その従者の女性の方が惜しまれていたとのこと。

 どっちもおいらだ。落ち着いたら自分の墓参りでも行こうか。

「ところでぇ、ドロシーさんは貴族らんですか?」

「どうして?」

「身なりとか、動作とかぁ、今おいくつなんですか?」

「五十歳よ」

「もう‼ うそばっかり‼ ドロシーさんのことも教えてくださいよー」

「何が知りたい?」

「何処の出身なんですか?」

「ここから南の方よ」

「温かい地方の出なのですかぁ?」

「いいえ、寒いところの出身よ。ひどく寒いところでね。子供の頃は苦労したわ。寒いせいか、みんなの心も冷たくてね。粗相をしては、鞭で打たれたものよ」

「そうなんですかぁ。大変だったのれすねぇ」

「そうね。今、こうしてローザの話を聞けて、安心したところ。ここは、とってもいいところね」

「この辺はいーところなんれすよ‼ でも……街はよくないってお父さんが言ってました」

 それはラザーナの街のことなのか、それとも都会のことなのか。

「そうなのね」


 隣のドアが開く音。

「あっ‼ ダメッ‼ まって‼ イィッ……もうっ‼」

 隣がおっぱじめ始めたので、ローザの瞳孔が開いて、すーごい気まずい顔になっていった。酔いも一気に冷めたかな。この辺でお開きしようか。

 喘ぎ声が聞こえ始めたので、ここらへんでお開きにしましょうと言うと、ローザは頷いた。おいらは鎮静剤を吹かしたから賢者モードだ。喘ぎ声が可愛く思える。一か所で喘ぎ声が聞こえると、周りのカップルが一斉に興奮してやりだすので困ったものだ。

 男女比を考えれば余った男はマジで大変だ。


 「今日はありがとう。いい話が聞けたわ。銀貨一枚でいいかしら」

「こっこんなには貰えませんよ」

「いいえ、それからこれ、お金じゃないけれど、お守りにコインをあげる。幸運のお守り」

「いいんですか!?」

「えぇ、今日は話せて嬉しかったわ」

「はい。ありがとうございます」

「また、お話できるかしら?」

「もちろん‼ またここで会ったら、お話しましょう‼」

「えぇ」

 ドアを開けると、丁度少女が部屋を訪ねてくるところだった。

「あっ‼」

 手を伸ばしてよろけた少女の服を掴む。多少強引に掴みすぎてしまった。慣性を殺したら背後に手を回して抱きとめる。


 「大丈夫?」

「うっうん」

「そう、良かったわ。どうしたの?」

「実は……その、お風呂に入りたいんだけどぉ」

 上目遣いで見上げてくる。お風呂に入ったのに働いたから油と汗まみれなのだろう。

「頑張って働いたものね。わかったわ。一緒に行きましょう」

「えっ‼ お風呂に入るの!?」

 ローザがじっとこちらを見ていた。乙女だものね。お風呂に入りたいだろう。

「一緒に入る?」

「いいの!?」

「えぇ」

 一度に二度お風呂に入るのは贅沢だ。贅沢だけれど、こういうのは大事にしたい。お金がないわけじゃないし、貯えから計算する。部屋のドアの施錠を確認。

 各所でおっぱじめてマジでうるさいし。


 一階に降りて女将さんにもう一度お風呂に入りたい旨を伝えると、女将さんは承諾してくれた。お金もいらないという。その代わりお風呂を沸かすのを手伝うと。

 入っていた湯船は次の日洗濯に使うというけれど、一度全部捨てて、井戸から水を持ってくる。三人もいれば、水をためるのもあっという間だ。

 女将さんが湯船に手を入れている。女将さんは火の神の加護を持っているのだろう。魔力で熱を作り、手から伝わらせることで水を温めている。

 明星の女神から貰う加護は純潔を失うと弱まる。それならば初期値になるとはいえ、他の神様と契約したほうが良い。

 女将さんも、本来は女ざかりだろうに化粧もせず、苦労が顔に滲んでいた。

「親父さんはいいのですか?」

「あの人は、仕事のあとの一杯と、綺麗な私が居ればいいのよ」

 うぅう、湯上り美人を抱けるなんて羨ましい。


 女性は一人一人体の形が違う。三人を見ていてそう思った。全国湯船巡りもいいかもしれない。お風呂でゆっくりできるし、目にも優しい。

 ただやっぱり石鹸が無いので、湯船に浸かると、一回流しているとはいえ、すぐに汚くなってしまった。それを見たローザと女将さんは恥ずかしそうにし、何度かお湯を変えることにはなった。

「そういえば、伝えそびれていたのだけど」

 ローザの裸を視野に入れながら、言っていなかった言葉を口にする。しっかり体は女の子だな。

「はい?」

「もう知っているかもしれないけれど、今日、ホロが出まして」

「あー聞きました。お亡くなりになったんですよね」

「えぇ、それでね。もしかしたら、もしかしなくても、おそらく遺跡があるのでしょうね」

「遺跡、ですか」

 女将さんが顔をしかめた。


 「そうですね。たぶん、これからこの村は遺跡目当ての方々で忙しくなりますし、ローザさん達も、他の冒険者来る前に、実力があるのならば、遺跡を探して潜ったほうがいいかもしれませんよ」

「ドロシーさんは遺跡へは行かないの?」

「私はまだぺーぺーですから、許可がおりません」

「あー……そうですか。もしかしてパーティを断ったのって、それで」

 そういうわけじゃないが、ついでの理由としては都合がいい事に気が付いた。

「そうですね」

「すみません……。考えが足りず」

「いいえ。遺跡は宝だけではなくて、とても危険な領域です。場合によっては騎士団が派遣されるかもしれません。希少なアイテムが産出すれば、貴族も黙ってはいないでしょう。くれぐれも、気を付けてくださいね」

「わかりました……兄たちと十分に相談してみます」

「むずしい話は終わった?」

 一番幼い少女にそう言われ、笑顔を浮かべた。

 言わなかったが、ホロの数があまりに多いと戦争になる。これガチ。

「終わりましたよ」

「ねぇねぇ? 首に模様があるけど、これなーに?」


 首の模様は支配下の模様だ。おいらが作ろうとしている首輪を人に使う予定は無いけれど、残念ながら人を奴隷や支配下に置く首輪は存在している。首輪のレベルは十段階。はめられれば俺も奴隷になってしまう。

「いいでしょう? 故郷に伝われる模様です」

「うん。とっても似合ってる‼」

 対策を考えた結果、これに至った。奴隷の首輪は一人につき一つ。二つ目以降は干渉する。そこで先にヴェーダラの支配下に入った。おいらはヴェーダラの奴隷だ。ヴェーダラにも夜と闇の女神にも逆らえないけれど、これが最適解だと思った。

 支配下に置かれたことで奴隷の首輪を含め、魅了系などのアイテムも軒並み無効にしてくれる。


 その代わり、死ぬまでヴェーダラの奴隷だ。命令されれば断れない。指名依頼も断われない。いずれは指名される。おいらはこれを断れない。いずれ、人を、殺す。まぁ、マルグリーダを殺した時点で、人殺しなわけだけれど。

 加護を悪用する人間を断罪するのにおいらを使用するだろう。加護を剥奪すればいいという単純な話ではない。報いを受けろという話だ。精々抗ってそして無残に死ねという奴。

 処刑の仕方は神それぞれ。

 夜と闇の女神は慈悲深いので脳天一発。

 明星の女神だと手足をへし折って、散々懺悔させた挙句、鈍器で脳天をかち割る。

 聖女は人を殺せないので聖女にこれができるかって言われたらおそらく無理。

 聖女が公式でレベル7止まり最大の理由がこれ。聖女は、人を、殺せない。聖女たるがゆえ、聖女になる人間であるがゆえ。この性質を持つからこそ聖女になった。うざいほどの善人。


 つまり変わりに遂行する者がいる。攻略対象の一人。


 お風呂から出て部屋に戻る。

「今日も一緒に寝ていい?」

「いいわよ」

「やたっ‼」

 女将さんとは一階で別れる。娘がすみませんとは言いつつも、止めようとはしなかった。

「あのう……私も、いいですか?」

「あら?」

「実は、部屋を兄達ととっているのですが、この状態で兄達と寝るのは非常に気まずくて、最近よく眠れてなくて」

 あぁ、喘ぎ声が聞こえる部屋の隣で寝るのは気まずいよね。女性同士なら気まずさも多少は薄れるだろう。

「わかりました。かまいませんよ」

 部屋に戻る前に、鎮静剤をいっぷくしておく。匂いを漂わせる必要がないのなら、巻紙を鼻に当てて、匂いを嗅ぐだけでも十分に効果がある。


 部屋に戻る時、音を立てたけど、かえって隣を盛り上げさせてしまったようだ。つうか何戦目なの。性欲旺盛すぎじゃないの。

 二人をベッドへ。おいらが真ん中か……。ベッドの狭さはどうにもならない。

 黒羽の外装を広げて、上から掛けると音は遮断される。三人で包まって、くっついて寝る。

「不思議。結構寝にくいかなって思ったんだけど……ドロシーさん、良い匂い」

 二人が傍で鼻をスンスンと鳴らしてきて、さすがに脇の下の臭いは嗅がないでほしいと思う。


 追放される準備は十分にしていたが、無いアイテムばかりはどうにもならない。

 少女は疲れているのか、すぐに眠りについてしまった。立派だ。おいらとは全然違う。

 これから先を考えて、回復アイテムは必須。製薬に手を出すかなぁ。首輪も作りたい。ボルテックスリオは必ず手に入れたい。とはいえ、材料ばかりはどうしようもない。材料がネック。回路も、トップスターも何一つ無い。こればかりはどうしようもない。

「ん……くっふむむ」

 えっ。なんか声が聞こえると思ったら、ローザの方。えっ。外装で外の音を遮断しているはずなのに、何かちょっかい出されているのかと、いや、部屋の鍵はしっかり施錠した。誰かが入って来てもヌイが反応するはず。


 嫌な予感が、少し開けた目、夜目があるので良く見える。あっ、あー……。ローザがいたしている。おいらを見ながら、おいらの側乳に鼻を押し付けていたしているー。

 まぁいいか、寝たふり狸をしよう。

 おいらはどうやらおかずになるようだ。隣でやってたらそりゃ仕方ないよ。

 おいらも早いところボルテックスリオを捕まえて好き勝手したいな。でも今は賢者モードだ。兄弟と一緒に寝ていたら、溜まるものも解消できないだろう。今日はたっぷり解消していけばいいよ。

 おいらが体を動かすと、ローザはびくりとした。おいらは寝息を立てる。少女にいたしているのを見られないために、おいらの体で振動と姿を遮る。

「ん……」

 ローザの頭に手を回して鎖骨を押し付けると、二つの突起が乳の下あたりに擦れて押し付けられる感触がした。


 ローザの体が激しく痙攣するのがわかる。さすがに痙攣しすぎだ。

「ん……あら? ……ごめんなさい」

「らっらいちょうぶです。起こしました?」

「ん、大丈夫、寝にくかった? ごめんなさいね。抱き癖があるみたい……」

「大丈夫です。私も、抱き癖が、あります。気にせず、どうぞ。その方が、私も、眠れます」

「そう? ……おやすみぃ」

 寝ぼけたフリ。唇がローザのおでこに当たる。薄目、口をぎゅっと結ぶローザの顔が見える。動くたびにローザの突起が擦れる。すごい匂いを嗅いでくるなローザ。臭いフェチなのかな。

 結局ローザは寝るまでに五回跳ねた。

 二回目が一番痙攣し、三回目はゆっくり長い時間静かに堪能しているようだった。

 全身から力が抜けて、くたり、脱力する様子、そのまま寝る、寝ない、えっまだ続けるの。四回目はもう惰性みたいになっている。

 五回目が終わってやっとお疲れ様。なでなでしてやりたいぐらいだよ。さすがにいたしているとバレたら恥ずかしいだろうからそんなことはしないけれど。


 次の日、目を開けると、少女が、おいらの胸の間に顔を入れて眠っていた。あら、昨日は早く起きたのに。逆にローザはもう起きており、着替えなどを済ませていた。表情はいいけれど、少し目の下にクマがある。

 今日、朝の食堂はお休みらしい。女将さんと旦那さんもお疲れだろうしね。

 ローザは兄達と合流、薄着で会ったら、目を反らされた。わりぃ、おいら自分が女だってことを最近忘れがちだ。


 身支度を済ませてギルドへ向かう。ギルドまでの通り道でパームハートを買った。木の幹の芯を焼いた物だって。芋みたい。芋は穀物だけれど、パームハートは果たして穀物なのだろうか。焼いた物はパルミットと呼ばれるようだ。

 今日はスライム薬を作ろうかな。狩る依頼とかあればいいけど。

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