説明が ③

 村の入り口に帰ると、夕日が沈みかけ世界はオレンジ色だった。村の外に出ていた人達が村に戻って来るので、人通りも多い。そんな中に混ざって移動すると、自分が一人ではないと強く感じた。まぁなんていうか、やっぱり臭いよね。汗臭いっていうかね。

 蝶の群れが飛んでいる。夜光蝶だ。


 ギルドに行くと受付の前は人でごった返しており、職員が忙しそうに対応。カードを提出して順番待ち、椅子に座って鎮静剤を吸っていたら、何度か声をかけられた。

 一人か聞かれたり、この後食事どうとか聞かれたり、若い女と言うだけで男はちやほやしてくるものだから、勘違いする女の子が出てきても仕方のないことなのかもしれない。これ勘違いする女の子が出て来ても男のせいだぞ。


 考え方が古臭いのかもしれない。結局は、おいらの思い込みなのかもしれない。子供ができても頑張れる人は頑張れる。ダメダね。頭の中が硬くて。もう思想がね。もうね、なんかね、あれなんだよね。そうそう、あれなんだよね。あれってなんだ。


 お誘いにはやんわりとお断りをいれた。中身のおいらは男なので男は嫌です。対象以外もイケメン率は高い。

 座っていたらダーリンが来ただっちゃ。

「むっかえに来たよー」

 宿屋の少女だった。

「あらダーリン。でもまだ帰れそうにないかな」

「今お金に余裕無いの?」

「いいえ、そんなこたぁーないよ?」

「時間かかるなら明日報酬受け取ったほうがいいよ。昼間は空いてるしね」

「なるほど、そんなこともできるのねー」

「物知りでしょー。えへへっ」

「ご褒美にー頭をなでなでしてあげよう」

「きゃーっ」

 受付に明日報酬を受け取る旨を伝えてギルドを後にする。少女が手を繋いできたので、握り返すと少女は喜んだ。


 「ところで、どうして迎えに来たの?」

「変な男に声をかけられて、宿に戻ってこなかったら大損だもん」

「なるほどなー」

「登録できた? 今日は何の依頼したの?」

「今日はね、簡単な採集クエストだったよ」

 依頼から稼ぎを把握か、将来いいお嫁さんになるよ。

「もっと討伐とかすると思ってたー?」

「ううん。安全で長くいてくれるのが一番いい」

 可愛いなコイツ。

 宿に戻ると一階にある食堂もごった返していた。美味しそうな料理の匂いだ。食堂で夕飯をご馳走になり、お風呂はどうするか聞かれた。おいらの体は幼少期から飲んでいた特殊な酵素で守られているのでそこまで臭くはならないはずだけれど、お風呂は貰うことにした。

 少女が背中を流してくれるって。お湯を用意するのは大変なので、お風呂は別途料金がかかる。毎日入れるものではないので、お世話という名目の元、少女もお風呂に入りたかったようだ。


 背中を流してくれたり、一緒に湯船に浸かったり、気持ち良かった。ただ石鹸などはないからお湯で体を流すだけだ。

 後は寝るだけ。部屋に戻ったら、入り口の棚を開けて夜光蝶を解き放ち明かりとし、しっかりと施錠を確認、ご就寝――と思ったのだけれど、トントンとノックされて、少女がひょっこり顔を覗かせた。手に持ったランプの明かり。

 ランプの中にいるのは蛾、ファイアリングモルフェウス。刺激によって火のような明かりを発する蛾。夜の明かりはこの蛾と夜光蝶が照らしてくれる。

 ファイアリングモルフェウスの明かりは強く、夜光蝶の明かりは弱い。

 夜光蝶は温度を食料にする変わった蝶だ。だから放っておくと寄って来る。ただ人には止まらず、人の真上の壁や天井に止まる生態を持っている。これらは長年人と共存してきた結果だと言われている。虫嫌いの人には辛いかもしれないけれど、慣れると気にならない。

 この蝶の鱗粉には抗菌抗虫作用があり、傍にいるだけで衛生面が向上する隠し性能も搭載している。部屋の中に手の平サイズのでかい蜘蛛が闊歩するような世界だけれど、この蝶がいるだけで小さな虫が寄り付かず、その虫を餌にする大型の昆虫も寄り付かなくなる。


 この世界にはこのような人と寄り添うように進化した動植物や昆虫が多数存在し、人々はその恩恵にあやかっている。

 アイスバイソンという大型の牛は長くて冷たい体毛に覆われており、体毛の中が冷蔵庫の役割をこなしてくれる。

 一方で夜光蝶の鱗粉にアレルギー反応を起こす人はいるし、アイスバイソンに殺された子供も存在する。これらには十分に注意しなければならない。意思の疎通ができるわけじゃない。


 「あら、どうかした?」

「今日、一緒に寝ていい?」

 信用してくれるのは嬉しいけれど、一緒に寝たいというのは何かあるのだろう。両親と一緒に寝ているのであれば、両親と一緒に寝たくない理由がある。

 ベッドの中、手で体を支えて少女を見つめる。

 不安気な表情。まぁいいか。

「いいわよ」

 そう言うと少女の表情はぱっと明るくなって、扉を閉めて鍵をかけるといそいそとやってきた。ぺたぺたと歩く姿に妹を思い出す。ホラーが苦手な癖に、ホラー番組を見ては、眠れないからとベッドにやってきた。机に置いたランプ、ファイヤモルフェウスの火は消さなくともすぐにおさまる。


 かぶせていた黒羽の外装をめくり、少女を入るように誘導する。入ったら頭まですっぽりと覆い、音から保護する。この宿は壁が薄い。うっかり隣の部屋から喘ぎ声が聞こえた日には目も当てられない。

 黒羽の外装で覆えば音も遮断してくれる。

 横になると、少女がぴったりとくっついてきた。むぎゅっと抱き着いてくる。

「良い匂い」

 ナデナデしていたら、何時の間にか眠っていた。


 夢の中で、これをしなければいけない、これをしなきゃいけない、あれも忘れないでと思うのに、ふと気づくと、何をしないといけないのか思い出せない。強迫観念て奴。夢の中なのに、貴族だった頃の記憶が背中を押し上げてくる。

 ふと気づく。もう終わったでしょうと、そしてほっとする。


 昔の夢を今更見るなんてとぼんやり。少女が動いている。ちらりと窓を見る。カーテンの隙間からは青い光が差し込んでいて、まだ夜も明けきっていない。少女と目があう。

「ごめんなさい。起こしました?」

「……いいえぇ、大丈夫よ? いつもこんなに早いの?」

「うん。仕込みもあるから」

 手を伸ばして、少女の反応を、頭を撫でても大丈夫だろうかと、拒否しないので撫でさせてもらう。

「あんまり無理しないようにね」

「大丈夫だよー。まるでお母さんみたい。まだ早いから寝ててください。ご飯できたら起こしにきますから」


 少女が出て行った。鍵が再びかかる音。

 黒羽の外装の中より腕が出てくる――中に待機させてきたエルフリーデが出てくる。何も着ていない。そのまま膝枕になってくれた。頭をナデナデしてくる。気持ちいい。指に指を絡めたり、軽くキスをしたり、頬ずりしたり、人形遊びをしながらぼんやりする。

 他人が見れば、気持ちの悪い光景だと思うのかもしれない。


 ごろごろしていたら、外は明るくなりはじめ、鳥の声が聞こえるようになってきた。にわかに騒がしくなりはじめた廊下と、階下、少女が迎えに来る前に、エルフリーデに身支度を手伝ってもらい、外装の中へ引っ込んでもらう。やがて少女が迎えに来て、昨日と同じような流れにデジャブかなと、変な感想を浮かべてしまった。

 少女と一緒に階下へ降りる。降りると、女将さんと目がった。

「あの子を見ていてくれてありがとう」

 にこっと女将さんからそう言われ、朝食に卵のおまけ。

「いいえ。大丈夫です。癒されますから」

「そう言って頂けるとありがたいです。実は、そろそろ二人目を作ろうと思っていまして」

 娘の方が気を利かせたのか。

「そうなのですか。丈夫な子を授かると良いですね」

「ありがとうございます」

 娘の前でギシアンプロレスはちょっとできないよね。


 のんびりしているけれど、追手がこないとは限らない。情報には気を配っている。ヴァーナヴィー家は格式が高いので令嬢が追放なんて末代までの恥だ。義理の母はおいらが死んだ方が安心するだろう。


 差し当たり、この村でギルドランクと逃亡資金、足がかかりを築きつつ、ホロなどを捕まえる準備もしたい。魔獣(ホロウ)は魔獣人(ホロ)とはあり方が違う。


 逃亡資金には余裕がある。エルフリーデで稼いだ金貨が三十四枚ほど。銀貨は二百枚ほど、銅貨は五十五枚ほどある。

 お金を稼ぐには猟兵が良い。猟兵は魔獣(ホロウ)を狩る仕事が多いからだ。

 魔獣人(ホロ)は人と似て人と異なる種族だけれど、魔獣(ホロウ)は神により作られた物。

 エリシュの女神、エリシュの大地神が、大地を穢す人間に対して、そんなに玉(ぎょく)が欲しければくれてやると、玉より生み出したのが魔獣だと言われている。


 設定上ではそうなっているけれど、実際はどうなのかは確認していない。ただ魔獣を倒すと肉等は一切落とさずに、玉だけが残る。玉というのは宝玉、魔宝玉の事。

 人の世界に置いて、魔獣は生物ではなく物扱い。魔物とも呼ばれる。黒獣とも。

 ホロウを狩るだけで玉が手に入る。ギルドからは討伐報酬が、そして玉は普通に売れる。この玉はミソだ。


 お昼手前にギルドへ行くと、もうみな依頼を請け負ったのか、手すきではあった。カウンターで報酬(銀貨三枚)を貰い、世間話。

「魔具、魔導具の、錬金の工房を見せて頂いてもいいですか?」

「かまいません。魔具に興味がおありですか?」

「えぇ、ソロ専ですので、ゆくゆくは魔獣を使役しようと思っておりまして」

「なるほど。そうですね。魔獣を使役するのは良い事だと思います。ただ、届け出は提出してくださいね」

「はい」

 魔具の製造には国家資格があり、資格の無い者が販売、譲渡することは禁じられている。あくまでも販売、譲渡の禁止であって、個人が作り使う分には法律に違反していない。

 作った魔具をわざわざギルドに届けでなくてもいいけれど、使役関連の魔具は使用後、使用対象をギルドに届け出なければならない。

 魔獣ならギルド、奴隷やホロなら教会、そして国にも申し出なければならない。


 魔具、魔導具の製造に欠かせないのが魔獣の核を成している玉だ。

 魔獣が保有している宝玉は、通常の宝玉と異なり、特殊な能力が混ざっている。この魔力を抽出し、液化することで回路を描き魔力を通すことで効果を実行できる。この特殊な回路を用い、機能を追加することでアイテムに不思議な力を付与できる。

 物を頑丈にしたり、特殊な現象を起こしたり、でも液体はただの魔力触媒であり、技術なんかは八柱の神様が授けてくださったもので間違えはない。


 また玉の中には【トップスター】と呼ばれる特殊な宝玉があり、この宝玉には、魔獣が使用している特殊な技が封入されている。魔力を込めるだけでその技を使用することができる。

 玉に含まれる液体が、魔導具を作る触媒に最適であり、またトップスターの影響で玉の価値が、宝石としての価値を上回ってしまったのは、女神エリシュとしても複雑な心境だろう。


 「大きな街の工房と比べると、見劣りするかもしれませんけれど」

「綺麗に片付いていますね。個室として利用することも可能ですか?」

「はい、個室もございますが、こちらは予約制です。とは言っても、この村で工房を利用する方はあまりいません。もしかして資格をお持ちですか?」

「いえ、私は資格を持っていません。いずれ取りたいと思っておりますので、どんなものか拝見したくて」

「そうですか。取れるといいですね。フフフッ」

 コイツ可愛いー。でも大体可愛い女の人って恋人がいるか結婚しているー。


 触媒を用いて生み出した物の中で、もっとも残酷な物と言われているのが、奴隷の首輪や、奴隷の指輪である。本来は罪人などを管理するために作られた魔導具であるけれど、悪用する者はいる。


 この国、アルトリーテにおいて、犯罪奴隷は合法であるけれど、普通の奴隷は犯罪だ。とは言っても神は人の行いにまで関与しないので、非合法な奴隷がいるのも事実だったり、他の国では合法だったりもする。

 基本的に、犯罪者に限り、人でも奴隷として売り買いされる。

 魔獣人(ホロ)の奴隷化は合法、魔獣(ホロウ)の使役も合法。

 妖精や獣人、亜人もいるけれど、ここら辺は微妙。

 妖精は沢山種類はいるけれど、スタンダードなのはフェアリータイプ。掴まえても犯罪ではないけれど、正義の人間からは嫌われるし、批判を受ける。獣人も同じ。亜人はちょっと特殊で、亜人の定義が人の形をした人以外の生物なので、見た目がグロテスクなのが多い。使役しても多分なんも言われない。


 一番欲しいのはホロのリナリクス種、ボルテックスリナ。

 蚕を擬人化したようなホロだけど、欲しい。着ている外装に使われている糸はこのボルテックスリナが生産した糸。これの雌、女王種を攫ってきたい。攫って使役したい。器用だから仕込めば服を作って貰えるし、尻尾みたいな大きくて柔らかな生殖器がある。見た目も可愛い。欲しい。ほしー。でも難しい。


 工具の数々は歴戦の猛者を思わせるように傷だらけだった。

「ありがとうございます。もう大丈夫です」

「はい。どうですか? 良い魔導具は作れそうですか?」

「はい。ですが、肝心の材料がありません」

「ふふふっ。まずは材料を得ないとダメですね」

 優しいなー。市勢の人達がこんなに優しいのにどうして貴族は優しくないのかな。


 カウンターに戻り、受けられる依頼があるか聞く。

 単純に魔獣討伐依頼というのは、あんまり発行されない。なぜならまずは討伐対象を見つけなければならないからだ。そこで依頼として提出されるのが探索任務。拠点の周りを巡回し、状況を把握する。そこで強力な魔獣や、人々に危険が及ぶと判断された敵が討伐依頼という形で提出される。完結に言って強力な魔獣の討伐依頼はまず出ない。

 みんなトップスターが欲しい。探索ついでに狩ってしまう。

 たった一個、たった一個のトップスターの報酬を十人で分けても、十分に懐が潤ってしまう。探索者は強力な魔獣を見つけると、その場で人数を集め協力して狩ってしまう。通常討伐任務として掲載されるのはホロが現れた時か、普通では倒せないようなホロウが出没し被害が出た時か、食糧調達の三つ。


 ホロウが強ければ強いほど、突出した個性を発揮すればするほど、トップスターを保有している可能性が高い。

 猟兵は本来、ホロウを狩るために設立される任務だ。

 けれど、食糧調達の任務の方が多い。


 食糧調達は村では多い。討伐任務というよりも調達任務かな。

 この辺りには沼があり、巨大な蛇が出るのでその肉が重宝される。村は加護の範囲が限られているので、畜産とか農業とかまず無理。家建てたら土地なんてあっと言う間になくなる。


 簡単に拡大できるものでも無いので街の地価は、通常では手が出せないほど高くなる。しかしそこは教会にも口を出す権利があるので、商人や貴族が勝手にしていいものでもない。

 アルトリーテでは基本的に土地は王の物。開拓しようが王の物。王に対して税は払わなければならない。所有者は売り買いしてもいいけれど、根本的には王の物で、誰が買っても王に対する税だけは免除されない。つまり土地を管理する貴族に対してお金は払い続けなければならない。

 市民が土地を手に入れるのは大変だし、維持するのも大変だ。けれど、王とその代行である貴族はその土地の所有者とその土地の権利を保護、保証してくれる。

 村ができれば村を保護してくれるし、教会やギルドなどの設備も作ってくれる。


 ヴァーナヴィーの土地優遇されすぎ問題。でもあそこは遺跡があったり、農業や畜産もしたり、そのための労働力を雇っていたりで土地としての役目を十分に果たしていた。


 じゃあ、どうやって土地を手に入れればいいのかと言う話。結論から言って土地を開拓すればいい。もちろん、教会や国には申し出て、お金を払ったり、許可を貰ったり複雑な手続きを踏まなければならない。それはとても面倒で、さらに命の危険もある。

 それでも開拓する人は後を絶たない。この村もそう。

 小さな村が扇状に展開し、そのどれかが大きくなる。


 「もっと早く来ていただけないと……残っている依頼は良いものが無いです」

 広げられた依頼書に目を通し、家のドアの修繕という依頼に目を止めた。

「こういうのでいいよ」

「そんなので良いのですか?」

「えぇ。これで十分です。銀貨一枚もでますしね」

「わかりました」

 道具というのは必ず仕組みがある。うまく動かないのは、仕組みとして何処かおかしいから。


 依頼の家に赴き、問題のドアを見る。クローゼットの折り戸だ。クローゼットの折り戸が外れ、元に戻して欲しいという依頼だった。おばあちゃんの一人暮らしで、孫を預かっているらしい。孫が暴れて戸を壊してしまったそうな。怪我が無くて良かったと笑ったら、おばあちゃんは孫の世話に乗り気ではない様子だった。孫は可愛いものだとばかり思っていたけれど、もう年だから一人でヤンチャの相手をするのは大変なんだって。


 折り戸は上部のでっぱりがバネ仕掛けで、天井に開いた穴に出っ張りを入れて押し込み、下段の穴にバネの無いでっぱりを入れて下ろす仕組み。つまり斜めにして上部を溝のへこみに入れてから、上部に押し付けてバネを縮め、下部に隙間を作り、下部の溝にドアの下部に付いているでっぱりを入れれば直るはず。でもおばあちゃんはそれでは直らないと言った。上部の溝を眺めると、でっぱりを差し込む金属の金具のネジが緩んで、位置がずれていた。


 折り戸を直すのに、一時間もかからなかった。

 おばあちゃんがお礼にとお茶とお菓子を出してくれた。市勢のお菓子は砂糖不使用で自然の甘さ。砂糖は高いから値段が高くなり、砂糖を使うと採算が合わなくなる。

 砂糖不使用でも十分に甘いけれど、元のぼくだったら、依頼を終えたらすぐにここを後にしたかもしれない。そもそも依頼すら受けなかったかもしれない。

 ただのお菓子でもお金がかかっている。出してもらえるだけで、もてなしてくれているのがわかる。


 女性へのプレゼントでサプライズはやめて、欲しい物を聞いた方が良いというが、そもそもプレゼントとはプレゼントする、されること自体が喜ばしいことであって、いらない物を貰っても困るという考えは少しおかしいと思う。ドラッベンラとして王子にプレゼントを贈ったが、気に入っては貰えなかった。それはもちろん気に入る物など贈りはしない。

 前に妹に誕生日プレゼントを贈った時がダブってしまった。

 妹はどんなプレゼントでも喜んでくれた。

 ぼくが母親にプレゼントってそういうものじゃと言ったら、それはそうだけれど、空気が読めていないと言われるだけだからって笑われてしまった。

「ちょいと妹さん、どう思う?」

 母は妹にそう聞いて、妹はぼくの送ったプレゼントのぬいぐるみを眺めながら笑顔で。

「ちょーキモい」

 そう言われた。理不尽だなー。


 まぁお返しを要求するのも間違えだし、プレゼントってあげるものだから見返りは基本無いと思っている。好きじゃない人から貰っても嬉しくないのもわかる。受け取らないのが正解なのも、賢い人は貰って売るけど。

 妹に誕生日プレゼントなんて貰ったことないしね。両親にもプレゼントは渡すけど、ぼくの誕生日って基本忘れられているから、数日過ぎて父が高いケーキを買ってきてみんな気づく。


 依頼完了のサインをもらい、ギルドへ帰る。

「おかえりなさい。早かったですね」

 さっき会ったばかりなのに、気まずい。気まずまずまずまーずまず。

 報酬が銀貨一枚じゃ税として銀貨取られて終わりじゃないか。なんてことにはならない。銅貨換算で銅貨一枚を取られた。現在のレートでは十三枚。つまり銅貨一枚とられて十二枚が懐に入るのだ。やったぜ。でもこれ特例なんだよね。


 仕方なく探索の依頼を受ける。村の左側は草原、抜けると湖になっており、上は森林地帯。沼の先には高い山があり、天気がいいと雪化粧をした山の先端が見える。

 探索依頼を受ける人は一定数いるので、遅いと遠くの場所になる。見事湖の反対側を仰せつかってしまった。歩いていくだけでもかなり時間がかかる。探索任務では信号弾を受け取る。いざという時は空に撃ち救援を呼ぶ。赤は緊急、黒はやばい。


 ヴェーダラの目とスカウトの索敵能力を展開、村を出たら、足元にヴェーダラの分体を召喚して、乗せてもらう。あんまり姿を現すと異形なので大変だ。人に見つからぬように気を付けながら、移動する。スノーボードで滑っている気分。キックボードかも。キックボードだな。


 ヴェーダラの分体はこれ自体が戦力だ。移動に使うもよし、戦うに使うもよし。

 村は丘の上。湖の上流にあたり、地下水が流れている。良く考えられた場所だ。

 強いて良くない所を上げるとすれば、食糧調達が容易ではないという事。行商に頼むとしても行商が街からここまで来るのに護衛などを雇わなければいけないし、コストも危険も割高で、商品自体の値段も上がる。実質この村は調達依頼として野菜や肉などを採る、または狩って来なければならない。

 ぺーぺーのおいらが受けられる討伐任務は実質無い。ヤムの根とか、あれ、多分食べる用だ。


 そう考えると肉がソーセージばかりなのは保存を利かせるため。

 冷蔵庫なんてないから年中気温が安定する地下に保存しているのだろう。年中十五から十四度ぐらい。アイスバイソンなんてそこらにいないし大変だし、買ったら高い。

 塩は貴重品だけど、必需品なので値段は教会が管理している。独占は禁止。商人が値段を決められないものの一つが塩。定期的にソルトゴーレムを狩ればいいけれど、この辺りにソルトゴーレムはいなさそう。そんな不可思議なのもいるそんな世界。玉が塩なのだ。

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