説明が長い②

 適度に視界を巡らせながら芋ほり。マップに表示されるのはおいらが発見した敵だけ。視界を一周させるだけで十分だけれど、イレギュラーはある。


 この世界にはおおよそ三つの魔獣人(ホロ)がいる。人類、と言っていいのかどうか、最近、母が現実に存在する世界を読み取って物語を書いていたのではないかと思うようになってきた。

 まぁ、おいらにとってはここが現実だ。


 魔獣人(ホロ)は人と獣が合わさった姿をしている。たびたび獣人と混同され、獣人が迫害される要因となっているが、魔獣人(ホロ)と獣人は別物。

 おおまかに三種類、小鬼、ゴブリンなどが主体のアンテ種が一つ。獣が主体のドミナ種が一つ。最後に虫みたいなリナリクス種が一つ。

 虫なのに獣なのって言われるとおいらも困る。人が獣なら獣と虫がくっついても獣だ。


 この三種と人類はとても仲が悪い。

 神が去った土地。すべての神々が、人に友好的だったわけじゃない。

 それら人に害ある神々を、神々は抑え込んでいる。


 人が神に恩恵を与えるように、これら三種は別の神々が作った生き物で、それぞれがそれぞれの神々の恩恵にあずかっている。

 特にアンテ族の神であるテスカ神は混沌と暴力、血を好み、アンテ族に人の心臓を祭壇に納めるよう要求する。

 この三種、種類によっては、大抵危険なもので、ある程度の知能を持ち、人の肉を食うのが好きで好戦的なクマがいるという認識で間違えない。

 さらに厄介なのは、この混沌の神々が人の犯罪者にも加護を与えるということ。盗賊やら夜盗やら、山賊やらは、これらの神々に加護を貰い、力を振るってしまう。

 よってこれらの神と契約した人間はどんな理由があるにしろ生死問わずのお尋ね者になる。


 この三種と人類は領土を争う関係にあり、この国でもそれは変わらない。彼らの厄介なところは地下に生息している事。各地に転々としている遺跡深くよりやってきて、人を攫ったり、勝手に領土とし、勢力を拡大したりする。

 なぜって神に愛される人間が憎いから。

 神を必要ないと言ったものたちが、神を必要だと言った者達に襲い掛かってくる。


 ゾンビみたいだなって思ってしまった。

 すべてが平等になるまで彼らは止まらない。

 すべての神々が、この世界から消えるまで彼らは人を襲う。


 蛮族の中にも人を攻撃しない種ももちろんいるし、人にとって有益な種ももちろんいる。けれど、大多数を占めている人類と人類の間に空いた溝は深く、簡単に埋まるようなものでもない。


 芋が見えて来た。

 土は柔らかいけれど、木の根の間にヤムの根が混在しているので、木の根が邪魔で採り辛い。取り辛いからと言って木の根を傷つけるのは良くない。

 しかし、こういう生活も悪くないなとなんとなく思ってしまった。


 村の近くだからか、随分とのんびりしたもので、魔獣が出ることもなく、ヤム芋を五、六個掘り出して持って帰る。


 代謝があるので当然汗をかく。生きるために汗をかくのも久しぶり。泥の感触、久しく忘れていた土の匂い。ふつふつと聞こえるのは、微生物が土の中で生きる音。

 掘り出した芋の匂いを嗅ぐ。


 この世界の貴族には戦争に参加する義務がある。この戦争とはホロとの戦争。大群となったホロとの大規模な戦争は多くの死者を生む。そんな有事が傍にあるからこそ、聖女などの存在は大切にされる。ヒロインが大切にされる理由でもある。

 八柱の神は、特に力の秀でた者や、気に入った者を特別な使徒として寵愛する。

 ヴェーダラ以外の八神から寵愛を受けるヒロインが、どれほど希有な存在なのかは想像にたやすい。

 よくよく考えたらヒロインの立ち位置はかなり際どい。ヒロインは蘇生を使えるほどの聖女だ。あの若さの聖女は滅多に出てこない。現存する聖女の大半が老婆だ。

 一生を神に捧げる覚悟のある人間にしか、レベル5を超えることはできない。

 神か哲学かと問われたら、おいらは哲学の方がいい。


 聖人、聖女の子は聖女、聖人になりやすいというジンクスがある。あくまでもジンクスだ。聖女はただでさえ貴重な存在。明星の女神は純潔を制約にしている。そうやすやすと純潔を奪えない。だから代わりがいる。王家の血筋から聖女が生まれれば、王家の箔はあがるだろう。ちょっと考えただけでもヒロインの立ち位置がだいぶヤバい。もし近くで困っていたら、助けるぐらいはしようかな。ヒロインに対して周りの男がちょろいのも頷ける。

 普通の女性が持つ、相手に対するハードルが7だったとして、ヒロインは聖女という肩書により、このハードルが3ぐらいに下がっている。それは飛び越えるのは楽だろう。


 明星の女神は別に処女厨とかユニコーンというわけじゃない。明星の女神は生命を司るのでめちゃくちゃ人気だ。子作りしたら次世代に力を渡してねと世代交代を促している。女神にとってセッ〇スは単なる子作りに過ぎない。ただ子供を作るために行為をするわけじゃないですよ。という理屈は女神には通用しない。

 トリガーが性交になっている。システム的に言ってしまえばそう。


 人は子供ができたら、子供のために時間や心を裂かなければならない。一人増えるごとにそれは比例する。その年月は長く、子供が巣立った時には全盛期を過ぎている。


 モラル重視で女性の契約者が圧倒的に多く、明星の女神と契約し、一定の成果を収めるだけでいいところへ嫁げるので信奉者も多い。神々は力を日々増しているというけれど、神々の憂鬱然り、全てを人間に与えることはできない。

 神に対抗できるのは神だけ。その力は神々を抑えるためにある。

 明星の女神を信奉する国はどの国も圧倒的に一定のモラル意識が高い。

 男性より女性がわりを食っているとおいらも思うよ。


 男性は自分の子供という認識が薄いと言う。実際にお腹を痛めて産むわけじゃないから。だから多分、生物学的に女性が猫じゃ嫌なのだろう。自分の子供を確実に残したいから。


 ヴェーダラは二周目からだし、この世界が現実であるのなら二周目は存在しないはず。ヒロインには悪いけれど、ヴェーダラだけは貰っていくね。大丈夫でしょ。彼女は沢山の人や神々に愛されているはずなのだから。

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