説明ばかりが長い
何か依頼を受けようかな。
傭兵、猟兵、探索者の三つを含めて冒険者と呼び、傭兵の依頼は護衛や戦闘への参加、猟兵は特定の討伐、探索者は採集や遺跡のマッピングが主な任務になる。
「ついでに何か見積もりましょうか?」
そうですね。
「お願いしていいですか?」
「えぇ、もちろん。猟と採集の依頼がございますが、どちらにしましょうか? 初めてということであれば、簡単な採集をおすすめします」
「そうですね。ちなみに、製薬道具とかの貸し出しなどあります?」
「えぇ、製薬室がございます。製薬をなさるのですか? 一日貸し出しで銀貨三枚になります。朝に借りても夜に借りても翌日返却ですので、朝借りる方がお得ですよ。薬瓶の貸し出しも可能です。十個で銀貨三枚になります。どうします?」
「いずれは製薬をしようと思っておりまして、現在は材料がありませんので、また今度。もしかして錬金施設もあります?」
「もちろんございます。都会の施設と比べると見劣りするかもしれませんけれど、簡単な魔道具なら十分制作可能ですよ」
「そうですか」
製薬も錬金も補助が無いけれど、補助が無いだけで設備があれば自分の手で勝手にはできる。安定した製品の製造供給や、熟練の技なんかを手軽に扱えるのが神の御業。
鎮痛剤作りたいし、魔道具の制作は今後必須。
「採集のクエストをお受けしますか?」
「そうですね」
「アルテミシアの葉、ヤムの根、ペルシカの果実をお持ちください。重量買い取りになります」
キログラム原器は存在する。この辺りの話はややこしく難しい。プランク定数で定められたものではなく、存在するのはキログラム原器だ。劣化などで重量が変わってしまうという問題だけれど、この世界には質量変化を起こさない神の石と呼ばれるものが存在する。
国の中枢に置かれ、重量機器の元になっている。実際に見たけれど、ラピスラズリのような青を基調としたジャスパーのように見えた。
神が作ったものと神が言っているので神が作ったものなのだろう。綺麗だぞ。
これがキログラム原器。透明な二つの容器に閉じ込められている。こういう知識って貴族の嗜みって奴。
アルテミシアの葉は回復薬の材料、ヤムの根は気力剤の材料、ペルシカは言ってしまえばモモ。野生のモモの名前だ。
「わかりました」
「現物をご存じですか?」
受付嬢は奥に引っ込み、トレイの上に三つのプレートを乗せて運んできた。プレートの中にはそれぞれの形をした絵が入っている。劣化しないようにプレートに入れているのかな。
「こちらがアルテミシアの葉、ヤムの根、ペルシカになります」
「ありがとう」
「ふふっ仕事ですのでお気になさらず。プレートの貸し出しもいたしますがどういたしましょう?」
「大丈夫です」
「そうですか。例え似たものを持って来ても、こちらでしっかりと鑑定させていただきますので、間違え等は気にせずお持ちください」
「わかりました」
「こちらの籠をお使いください。良い一日」
手を振って籠をもち、その場を後にする。
村はそんなに広くなく、木の杭で囲われていた。出入口は二つ。衛兵に会釈して門を通る。簡易な木の門。ギルドカードを衛兵に見せながら通ると衛兵の覚えもいいし、信用にもなる。
全部エルフリーデとして学んだことだ。
魔獣がいる世界でギルドと教会の存在は大きい。
教会は神との交流の他に、大きな役割も担っている。
教会は結界を張り、村や街等を保護し、並列するギルドはそれら外敵を屠る役割を担っている。
先も言った通りギルドと教会はセット。国はこの二つ無くしてできない。ギルドと教会はセットだけれど、役所としては別。国はギルドと教会を無下にできないし、ギルドや教会もまた、国を無視することはできない。
振り返り村を見る。
おそらく三権分立に近い。国は教会やギルドより立場は上だが、教会が無ければ国力を維持できないのでこの二つを無下にはできない。教会は国に意見を言えるが、ギルドからは突き上げられる立場にある。ギルドは民を守る立場にあり、又ギルドは教会を守る矛であるため、ギルドの意見を教会は無下にできない。ギルドに所属している民は、その国の国民が多く、国に奉仕している。
教会は表だって教会を守る騎士などを配備、設立することができない。
教会は非暴力主義だし、神様に矛を向けようなんて馬鹿は早々いない。
全部神がすればいいじゃないかと思うかもしれないけれど、それは難しい。
Universe25という実験がある。ネズミを理想郷に住ませたらどうなるのかという実験で、25回行われた実験はどれも悲惨な末路を迎えた。
人間とネズミが同じなわけないと思いたいけれど、現実は非情だ。
神々が実際に行っていないという現実が、その事実を物語っているし、歴史的事実として存在している。一部設定としてはあったけれど、実際の歴史として見ると何とも言えない気持ちになってしまう。
過去、人が生まれる前、この世界にはクオリティコードと呼ばれる人間達がいた。
エインシェントとも呼ばれている。ハイエルフ、ハイヒューマン。
彼らは理性を失った。
神々が全てを与えたから。
彼らの中から神はいらないと言う者達が現れた。それはやがて大きな波となった。
では私達は私達が必要と言う者達だけを連れて去りますと、神々は去って行った。
神々を必要と言った者達の子孫が現在のおいらたち。
神々など必要ないと言った者達は神の居なくなった世界で、神々を憎むようになった。神々に見守られる者達を憎むようになった。
サル二匹に、キュウリとバナナを与えると、キュウリを与えられたサルはバナナを与えられたサルに嫉妬する。
サーチアイを展開する。
スカウト専用スキル。視覚範囲内の情報が透けて見える。敵は赤、敵だけど敵対していない場合は紫、敵じゃない者は青、味方は緑で、地形を無視して敵を発見できる。又、知りたいと思ったものに知っている情報が文字で中空に浮かび上がり、判別できる。
要は敵を発見した時、なんの種類か文字で表示される。便利。
アクティブは赤、場合によっては紫。ノンアクティブは青。集中すれば情報が中空に文字として表示される。
「ヌイ」
影からひょっこり出て来た蛇のような体をしたものはヌイ、ヴェーダラの形をした分体。
レベル3で使える。大きさはレベルによって自由自在、ミミズから列車並みの大きさになる。
おいらにはヴェーダラの目がある。ヴェーダラの目を上乗せすることでサーチアイの効果や範囲が拡張される。
さらにマッピングディスプレイを表示すれば、地図が表示され、現在どの位置にいるのか、敵がどのように動くのかを詳細に知る事ができる。サーチアイで見つけないと表示されないけれど。
ヌイは顔に複数の目と口があるし、黒くてテラテラしているのでひと前で見せるわけにはいかない。悲鳴あがりそう。
このスキルと夜術だけでも相当に万能技術だ。
そんな万能な神様なら魔獣なんか滅ぼして人々を幸せに導いてくれと思うかもしれないけれど、神々の力は有限だ。分けられる量に限りがある。
全ての人類に力を分け与え、国々を保護するだけでも相当な力を配っている。人々の基盤は広がりつつあり、安易に力を裂けられない。新しい村ができ、教会が置かれれば、そこも保護しなければならないし、神々が全ての力を人類に配ってしまえば、神として存続することすら危うくなってしまう。
世界が混沌としているのは、八柱の神の他にも混沌や魔獣を保護する神々が存在するからで、八柱の神々が滅びれば人類の環境は劣悪となる。
微妙なバランス、生と死、秩序と混沌の危うさでこの世界は成り立っている。
ちなみに村の規模は教会の大きさに比例する。簡単に村を大きくできない理由でもある。
アルテミシアの葉、大きな葉っぱ。その辺に一杯ある。ぎざぎざしている。これを採集する。綺麗な葉を選んで千切る。重量換算なら葉だけだと安くなりそう。
他にも採集をする人達はいた、いない。やっぱ葉っぱを安いのか採集する人がいない。幼虫とか虫とかいるし、卵もついているし、主人公ならここで盗賊に襲われている馬車が乱入してきて助けるイベントありそうだけどおいらには無さそう。
のんびり。森の方にいけばヤムの根がありそう。自然薯のこと。ペルシカの実は場所が決まっていて競争や争いになりそう。決まった場所にあるということは、競争率が高いということ。おいらは基本的に人の多い場所は好きじゃない。
森の中に入り、適当な蔓を見つけ根元を掘る。いーもいもほーりほりいーも放題、いーも放題。外装に手を入れてナイフを取る。重さ換算だと傷があっても大丈夫そうだけど、なるべく丁寧に取るよう心掛ける。取ろうかなと言って、とれるものではないけれど。
ハイニーブーツが必要なのはヒルっぽい生物がいるから。
簡単な装備だと足が血まみれになる。最悪なのはこいつらの中に一定数病原菌を持った奴がいること。センチュウとかいたらマジやばい。
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