プロローグ⑤

 この契約により、ぼくの、そしてドラッベンラヴァーナヴィーの運命は変わる、かなぁ。とはいえ、本筋の運命を変えるは、物語の進行上良くない気がする。ぼくはやっぱりドラッベンラを演じなければならないだろう。

 正直言うときつかった。まずは九歳におけるレ〇プの阻止、これをどうするのか考えねばならなかった。力づくでどうにかなるのか。追放された後も考えなければならない。

 術エルフリーデは健在だった。これが無ければぼくはぼくでいられなかったかもしれない。他人を巻き込まず、一人で戦うのは辛い。絶対に誰も巻き込まない。本来なら取り巻きになる女の子二人も遠ざけた。


 エルフリーデには外へ出て貰らなければならない。

 エルフリーデは人に酷似した何かだ。二つのモードがあり、一つは外から意思により、彼女を見つつ操るモード。もう一つは彼女として彼女を中から操り行動するモード。

 どちらも意識を向けなければならないので、難しいと言えば難しい。

 特に彼女として行動する際は、本体である自分ががら空きになる。とは言っても、一人称視点でゲームをしている感覚に近い。エルフリーデはあくまでも術であり、生き物ではない。彼女の、エルフリーデの感覚は本体とリンクできるし、容姿は自由に決められる。

 でもぼくにそのような、骨格やら表情やらをどうにかする技術は無いので、自分の昔の姿を模して貼り付けておいた。他人の姿にすると、甘えたり、色々したりするのに申し訳なくなる。

 エルフリーデの経験は、統合された時、ドラッベンラの経験となる。これを有効活用しなければならない。エルフリーデにはぼくにはできない戦闘面の経験を集めてもらう。


 神との契約により、身体能力は著しく向上していた。

 契約時のLvは1。

 契約することで習得する常時発動能力は以下の通り。


 使徒リリス――ヴェーダラの使徒に贈られるスキル。

 全能力が素体を基本として三十%向上し、又ヴァ―ダラの目、ヴェーダラの血液を付与する。又体に不可視のテリトリーを生じ、肉体を保護する。テリトリーを消費し、物体に影響を与える事ができ、さらに人の五感の一部を刺激する衝動を発することで、精神に対して何らかの干渉を引き起こすトリガーを引くことができる。


 ヴェーダラの目――ヴェーダラの使徒に送られるスキル。

 その目はヴェーダラの目。あらゆる欺瞞を暴き、あらゆる者を見逃さない。また他者を威圧する穢れた神の目。能力はロウLvに依存する。


 ヴェーダラの血液――ヴェーダラの使徒に送られるスキル。

 その血は元から穢れている。あらゆる毒を毒となさず、あらゆる状態異常はこれ以上の穢れを持っていない。能力はロウLvに依存する。


 使徒リリスだけでも結構強い。ヴェーダラの目を授かったことで、瞳孔は黄金に縦に亀裂がある。

 Lv1では、ヴェーダラの目の範囲は狭いし、エルフリーデに注ぎ込めるエネルギーの量も多くない。それでも何もないよりはマシ。

 Lv3になれば、ヴェーダラの分体を召喚できる。まずはLv3を目指す。分体さえ召喚できれば、人相手なら十分すぎておつりがくる。こないかもしれない。


 九歳までの残り約二年。昼はドラッベンラとして活動し、夜はエルフリーデとして活動した。睡眠時間を削っているし、もっとボロボロになるかとも思ったけれど、そんなことはなかった。ヴェーダラの恩恵はそれほどに大きい。

 夜になったらドラッベンラの体は眠り、エルフリーデに意識を移して行動する。


 エルフリーデにはソルジャーとして冒険者、ギルドの仕事をこなして貰った。なるまでに苦労はしたし、冒険者になってからも苦労はしたけれど、ぼくに一切のデメリットが無い。何のデメリットもなく行動できるのはやっぱりチートなのかもしれない。

 一年で名を売った。屋敷に雇入れるのも検討したけれど、夜しか活動できないのなら逆に怪しまれかねない。

 エルフリーデのソルジャーLvは5になり、自分が職を得ていないのにかかわらず、経験として取り入れられた。

 ただドラッベンラがロウとしてのソルジャーを併用できるわけじゃないので、やはり経験としてしか蓄積されない。それでも補助や補正が無いだけで、自分で動きを模倣することはできる。

 二年が過ぎる頃にはロウ、スカウトを習得し、加護だけでLvも3となった。

 ヴェーダラの目を使用することでマルグリーダの計画を暴き、レ〇プ事件を未然に防ぐこともできた。しかしその弊害か、後日、幾度もマルグリーダが策略を練り、返り討ちにすると言う本来はありえないイベントが起こってしまった。

 マルグリーダはプライドの高いタイプ。防げば防ぐほど、ぼくを見る目が厳しくなる。

 申し訳ないが、エルフリーデを使い手傷を負わせ、屋敷からは出ていって貰った。


 父親が再婚したのでぼくは離れに移され、やがて弟が生まれた。けれど、仲良くできそうにない。十二歳になり、弟は三歳に、離れまで遊びにきた弟の頬をビンタして、泣かし、母親からは物凄い目つきで睨まれ、頬を叩かれたのでスネを蹴り上げた。父親が何か言ってくるかと思ったけれど、父は新しい嫁がぼくのことを言っても、ぼくには何も言ってこなかった。引け目があるのかもしれない。

 稽古は相変わらずだし、思想教育も相変わらずだ。

 継母が家庭教師を入れ替えたので、申し訳ないがエルフリーデを使い逆らえないように脅しておいた。

 曲がりなりにも貴族の家庭教師、五十を越えた女性でソルジャーレベルも5だったけれど、年も取っているし、エルフリーデはデメリットが一切ないチート。人間相手に負ける気はせず、力づくで従って貰った。

 お年寄りをひざまずかせるような真似をしてしまい、心が少し傷んだ。

 教えてもらうのには素直に従ったし、表面上は厳しく接せられている。

 その様子を見て、継母は満足そうだった。いずれ弟に傅(かしず)けと言ってくるだろう。

 この上下関係を構築しておけば、おいらが曲がりまがって王妃になったとしても弟が上という潜在意識をすり込むことができる。この刷り込みは大きい。


 本来ならレ〇プされたことで穢れた体だという負い目を受け使用人、そしてマルグリーダに逆らえず、自分の価値が低下しているドラッベンラが継母に逆らうことはできなかった。性格は段々とヒステリックになり、パニック障害も持っていた。


 十二歳になったら神との契約――夜と闇の女神と契約するふりをする。

 神と契約したので社交界デビュー。

 そして婚約者となる王子と対面。

 王子と婚約させるので、父はぼくに何も言ってこなかったのかもしれない。もはやドラッベンラはぼく自身だ。

 王子は正直言ってわがままで、どーしよーもなかった。年相応というのか、少しひねくれているというのか、色々問題を抱えている設定もあったはず。顔は女の子みたいに可愛かったけれど、男であることに変わりはなく、当たり障りのない物語通りに接しておいた。

 やんちゃな王子とその仲間達が楽しそうに遊ぶ。それを少し羨ましいと思い、普通の女性ならば≪きゅん≫とするのだろうなとなんとなくそう思った。


 明星の女神と契約しても与えられた恩恵は小さい。この不信は王家にとって強く、ドラッベンラが男遊びをしているという噂を招く。周りから下に見られるドラッベンラが、自分を押し上げてくれる王子に対して意固地になるのは、仕方なかったのかもしれないし、本当に王子を好きだったのかもしれない。


 てか普通に考えて、自分の恋人が他の異性と一緒にいたら嫌だし邪魔するでしょ。

 友達だからと言ってくる相手をぼくは信用しないし、信用してないとか言ってくる奴が一番信用ならない。言葉じゃなくて態度で示してほしい。

 嫉妬は見苦しいとか言うけど、好きな相手に嫉妬されたらぼくは嬉しい。結局のところ嫉妬されても嬉しくないというのは、相手の事が好きじゃないんじゃないかって、ぼくは思うけど、ぼくが思うだけ。


 そして夜と闇の女神と契約したぼくの評価は、本来のドラッベンラと同じぐらいに低かった。

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