プロローグ③
次の日も次の日もそう。稽古と習い事、不可、可、良、選で判断される。習い事は全て選になるまでこなすよう。普通の貴族では良で許されるものでも、公爵ともなると良では許されないと先生に散々言われた。全て選になるまでやると。
教科によって先生が違う。
ピアノとヴァイオリンは言われたとおり弾けばいいと言われた。毎日、毎日。
稽古、稽古、稽古、習い事、寝る時は全裸オイルまみれ。
数日すると先生を見るだけで体がピリピリするようになってきた。条件反射で体が嫌がっていて、これは慣れそうにない。最初はいつも緊張し、怒られないと緊張が緩和されていく。毎回そう。怒られると体が緊張する。怒られていなくとも梅干しを見て唾が湧くように、先生を見ると体が緊張する。
思想教育は楽。それは違うと思っても黙っていればいい。黙って言われたとおりにするだけで良い。従順であることを求められる。どんな要求にも従順であること。これには理由があって、三年後にこれを回避しなければならない。
寝る前にぼくは何をすればいいのか、考えてしまう。こんなことをする意味があるのか、考えてしまう。逃げたとしても居場所はなく、外の情報もない。情報を得ようにも使用人は言葉一つ発しない。発すれば罰せられるから彼女達も必死だ。
いつも割れやすい陶器を扱うかのように接せられる。
父親は基本家にいない。
問題はある。
三年後、ドラッベンラはレ〇プされる設定がある。
ドラッベンラをやるのは百歩譲って仕方ないとしても、レ〇プされるのは嫌だ。九歳の時、使用人から被害を受ける。貴族に対する鬱憤を受ける設定になっている。九歳の少女にそれを防げるのかと言う話で、これには一人ではなく複数の人間や女性の使用人も加担している。
ドラッベンラは社交界デビュー、外に出るまでの三年間、彼らに従順で好きなようにされてしまう。
外に出てもその傷は拭えず、婚約もあり、常に怯える立場にある。
十四歳である程度の権力を持つと、ドラッベンラは使用人たちに復讐しており、しかしレ〇プ被害を表に出さないために、事実は異なって伝えられる。
表ではイカれたドラッベンラによる使用人の虐殺。裏では正当な復讐となっている。
三年後にレ〇プされるとしたら、それを回避はしたい。かと言って今から仲間を増やせるかと言えば否。ドラッベンラを守る人間はいない。父親にも事実は明かされない。
使用人の七割はドラッベンラの自分たちとは違う暮らしを妬んでいる。
特にストレス。上下関係があまりにも強い。にわとりみたい。完璧な仕事を要求され、その仕事を請け負った使用人のストレスが、下の使用人で解消される。その数珠繋ぎ。
公爵家であるために、自由な会話などは決して許されない。規律で雁字搦め。たまりにたまった鬱憤が公爵の娘を穢すことで発散されることになる設定。
実際仕事を見ていて、ブラックというより神経質な職場の印象を受ける。
回避する方法を考えなければならない。真っ先に思いついたがロウ(Role)システム。所謂職業、この世界には神々が存在し、王子と聖女によるちょっとした冒険要素などのシステムもある。それが存在しているのなら、利用できる。できないならレ〇プされる前にナイフを喉に刺して死ぬしかない。
外に逃げて、子供が真っ当に暮らせる確率は低く、もっとひどい目に会う可能性の方が高いし、父親に言っても信じて貰えないだろう。
起こっていない事実の証明はできず、起こった時にはすでに通り過ぎている。
貴族の子女に置いて、貞操は主にのみ捧げるものであり、子女において貞操とはもっとも重いものと位置づけられている。奪われるぐらいなら命を絶てとナイフが渡されるほどだ。
母がなぜこの設定にしたのかは不明。
ハーレムルートはある。でもエロ要素を取り入れると規制が発生するため、エロ要素自体はゲーム自体からは取り上げられている。
ドラッベンラがレ〇プされたという事実もプレイヤーに公表されることはない。
ロウ、所謂ジョブは二つ、一つ目はソルジャー、これは兵士、近接職の事。一つはスカウト、遠距離職。回復職や魔術職が無いのは、ロウの影響下に無いから。術と職は無関係。ロウは得ることで技、スキルは覚えられる。
ロウは神様から授けられるものだけれど、神様には無限の力が無い。
神の憂鬱、神の采配という言葉があり、人々の信仰は神の力にはならない。
神の力を得る、代行する事で人は超常の力を得るけれど、神の力には限りがあり、分け与えるほどに、その力は弱まってしまう。
そこでロウというシステムが作られる。
ロウにはレベルがあり、最大が十。レベルが高いほど、神から強い力を付与される。レベルが高いほどより神の代行者となる。
自分の力を守りつつ、人々に力を分け与える。神々自体も複雑で、お互いに戦い合う定めや世界を支える役目があり、自らの力を衰えさせることができない。又神様とは別に虚無や滅びの因子というものが存在し、神様はそれを抑え込むために力を消費し続けなければならない。
考えている間に眠ってしまっていた。また朝。
神々のことは神々でなんとかするし、ちょっとした手助けはするから、自分たちのことは自分たちでなんとかしてね。っていう話。
で、貴族や王族というのは、初期においてロウ値が高く、強い影響力を持った人々を指していると思われる。国はこの国だけじゃないし、人間同士の関係もなかなかにややこしい。
冒険者、ギルドはある。仕事としては猟兵、傭兵、探索がある、はず。階級は狼で示され、ミアキスが一番下、一番上がループス。ミアキス、キノディクティス、トマークトゥス、そしてループスと階級があがる。略されて、ミア、キノ、トマと呼ばれている。はず。
ループスの中からさらに強い人がいると畏怖を込めてハティと呼ばれる。
母の設定通りならばこのとおりのはず。ゲーム自体はしたことがないけれど、母の設定資料集を見て、矛盾点や疑問などをぶつけて解消する手伝いはしていた。
国が崇拝する神、女神ヴァーナスは光の女神、そして明星の女神。そんな女神に愛されているのがヒロインで、聖女と称されるほど神から引き出せる力が強く、初期からのロウ値が高い。
ヒロインの設定自体はなかなか重かったはず。
ドラッベンラとは似て非なる対極の位置にあり、貧しい中から成りあがる設定にある。
もしヒロインがここにいて、ドラッベンラだったならば、高いコミュ力と愛想の良さで普通に幸せになるのかもしれない。
ドラッベンラがヒロインの位置にいってもおそらく不遇になる。
全てを持っているけれど、不遇の悪役と、何も持っていないけれど、優遇されるヒロインの対比。
人生は思い通りなんていかないし、これが現実であるのなら、ヒロインを好きな人と結ばせてさっさと退場したほうがいい。
まずは三年以内に神の加護を得る必要がある。
加護は神との相性により、神がやだと言えば加護は貰えない。やだと言うかは別として、ドラッベンラと女神ヴィーナスの相性は良くない。というかダメ。ヒロインと同じになってしまう。追放後王家による裁判で神の采配を受け、ロウの剥奪もありえるのでヴィーナスは却下。ヴィーナスは悪くないけれど、ロウ値の高い王家が介入してきて、コイツは悪い奴だからロウを剥奪してくれって言ったら剥奪されるかもしれない。
実際エンドの一つにある。ドラッベンラやモブのロウシステムはヒロインのルート基準で決められる。ヒロインのルートによっては剥奪される。
ロウを剥奪されるとこの世界で戦うのはほぼ無理。普通の村人でも最低限の加護がある。普通の村人以下。
ちなみに契約する神の種類によって覚えられる術が異なる。
加護を得る神は実質一択。神によってはヒロインの攻略対象だし一番無難なのがヴェーダラ。
虚なるヴェーダラからロウを授かるのが一番いいと思う。
つうか今日の先生も気合が入っている。確かに音を外したけど鞭でモモを叩かなくても良い気がする。痛いけど我慢している。ピアノって大人基準で作られているから子供のぼくがまともに弾けるわけがない。つうか物理的に指が届かない。
ヴァイオリンも同じで指から血が出ても血で楽器を汚すなと怒られる。もっと必死にやれっていうから必死にやっているのに血が出たら怒られるってなんじゃいも。
血を流すなって言うわりに鞭で指を叩くから指から血が出る。そして叩かれるスパイラル。結局叩くね。ぼくはモグラかなんかなの。
音楽家にとって手は何よりも大事だけど、ドラッベンラは音楽家ではないし、将来的にも身分上音楽家にはなれないので容赦ないね。そんな才能無いけど。
午後からは思想教育。これも頭ごなしだ。もうこれ以外の思想は認めないという思想を脳みそに叩きつけられる。はいかイエスで答える以外の選択肢はない。
父親は何も言わない。抱きしめるぐらいしてくれてもいいじゃまいか。
さすが九歳で娘を離れに移すだけのことはある。本当に愛しているのか疑問に思えてくる。お前が離れに移して目を離したからレ〇プされるんやで。
せやかて〇藤。
やめて、関西の人。
文句の一つでも言いたいところだけど、こういう思想教育を受けている事を鑑みるに、父親にゴネただけで軟禁されそうだ。結局のところ、父は悪くないしね。誰が悪いって世界が悪い。これでも使用人からは恵まれていると思われるのだから、庶民の暮らしってどんななのとツッコまずにはいられない。お腹が減ることが無いだけやっぱり幸せなのかもしれない。夜はオイル塗られるし全裸を許容されるけれど。
本来一人に付き神の加護は一つ。通常複数の加護は得られない。けれどヒロインはなぜか複数の加護を授かれる。精霊にも好かれる。
風と噂の神カシウス、カムランという双子の神がいる。ショタカワで攻略対象という設定。
頑張れば全てのイケメン神と契約できるし攻略対象もいる。
ヴェーダラとも契約できるけれど、これはハーレムエンド後。
婚約解消後のドラッベンラが隣国に嫁ぎ、数年後、闇と夜の女神と契約して戦争を吹っ掛けてくる。これを乗り越えると闇と夜の女神と契約できるようになる。さらに全ての神との契約を解消し、闇と夜の真実を見抜くと虚ろなるヴェーダラと契約できる。
闇と夜の女神というは所謂疑似餌で、本体がヴェーダラ。
ヴェーダラと契約すると二週目に入り、この加護がチート。
契約することで習得できる術にエルフリーデというものがあり、これは自らの分身を製造して行動させるという術。この術のすごいところは、二つの事を同時に平行でき、エルフリーデが身に着けた術(すべ)は統合する時に主人公の経験となる。
本来なら勉学と運動は平行できないけれど、この魔術を併用することで勉学をこなしながら運動、レベル上げ、攻略対象を二人同時進行でこなすなど色々なことが可能になる。
二週目無いからヴェーダラでいいでしょ。
イケメン神と契約するとヒロインに意地悪した時嫌な顔されて加護を剥奪されそうだし。
いてててて。
お風呂に入ると傷に染みる。
こんな傷をつけたら問題になりそうなものだけれど、寝る前に塗るオイルと飲み物、それと睡眠により次の日にはすっかり治っている。
ハチミツ状のオイル、チョコレートみたいに良い匂い。貴族の中でも特に一部の貴族だけが使用することのできるオイルなのだそうだ。これを幼少期から塗ることで体臭自体がこの匂いになり、飲み物は便すらも変える。実際トイレには三日に一度ぐらいしかいかない。便秘とかじゃない。
これら二つは幼少期より繰り返し使用することで定着してしまう。
それで、この二つだけど、ヴァーナヴィー家オリジナルなので、他家とも異なっている。王族には王族のオイル、他の公爵家には他の公爵家のオイルがある。これも設定。
ヴァーナヴィー家はチョコレートの匂いのよう。う〇ちもチョコ臭になる。マジやばくね。
女の子はしないって言うじゃん。うん、ごめん、ぼく、心は男だからする。
後、トイレの後、お尻は使用人に拭かれる。
このオイルは公爵家の物であり、使用人が使うと厳しい処罰を受ける。
オイルを塗る役目は使用人の中で至上の役割であり、長い間オイルに触れることでその手に匂いが染みつき、香女(こうじょ)と呼ばれるようになる。
香女は至上の乙女の証、嫁の貰い手に引っ張りだこなのだそうだ。
ただ本来の効果は、ヴァーナヴィー家の血を受け継いだものにしか発揮されない。
ロウのソルジャーとスカウトはどちらかしか選べない。途中から変更はできる。でも二つ同時には無理。
ソルジャーは近接戦が得意で、剣や槍、拳などの近接攻撃に補正がある。
スカウトは遠距離戦が得意で、弓や銃が得意だけどナイフも扱える。
武器補正あるなし、覚える技も違うのでスカウトで剣などを持つと弱い。スカウトは強いけど弾代などでお金がかかる。
ソルジャーは極めると普通に強いと兄が言っていた。
ヒロインもこの二つから選び、王太子などと訓練や勉学に励み、絆を深めていくというわけなのさ。って兄が言っていた。戦闘要素は必要なのかって話だけど、異世界物が流行っていた時期だから、仕方ない。売上は大事。
母が手掛けたシナリオにしては異色なのかもしれない。売上はどうなっただろう。
いって。鞭が暴発して頬が切れた。体に反してヴァイオリンが大きい。先生が珍しく顔を強張らせていた。さすがに顔の傷はやばかったのかもしれない。おいらは別に気にしないけど、目に入らなくてよかった。
すぐに専属医療班が呼ばれて、術で治してもらった。
感動した。本当に加護がある。こんな傷ぐらいでこんなすごい術をかけて貰えるなんて、なんていい世界なのだろう。つうかあるならモモの傷や指の傷も治してよ。あー治さない、顔だけですか、そうですか。
ヴィーナスの加護かな。同じ加護同士は重複効果がある。
全ての加護を習得できるヒロインは全てのキャラと重複効果がある。
顔に傷を負っても顔色一つ変えなかったので若干引かれてしまった。だったら鞭でぶつなよって話だけど、怯えた顔だったり、恐怖を植え付けたりするのが目的なのなら、嫌な奴と思わざるを得ない。なんて嫌な奴なんだ。
思想教育が重いよ。頭の上に本を乗せて歩く意味あるのか小一時間ぐらい真剣に考えてしまった。お風呂は無駄に広いし、体は使用人に洗われるし、とにかく自由が無い。
食事の作法も決まっている。そんな細かい事を毎回やるのかって話。日常で使うから習得していないともろバレする。バレるときつくなるスパイラル。脱却するには習得するしかない。
加護を得たいけれど、加護は神に会わなければ授けて貰えない。普通の人はいくつからでも、貴族は十二歳で神殿に行き授かる設定は見た。
六歳だけど、ヒロインはすでに加護を得ている。しばらくしたら聖女として噂が聞こえてくるかもしれない。
十二歳まで待っていられない。貴族が十二歳まで加護を得ないのは、加護に頼り切らず、ある程度自力を身に着けるためらしい。なんだそれ。まぁそれを考えると今、色々お稽古受けているのが納得できる。自由は無いけど。
使用人に声をかけてみることにする。
「あの」
「ひっ」
「えっ」
「申し訳ございません‼ 申し訳ございません‼」
「えっ」
「何をしているの‼ 貴方、何をしたの‼ お嬢様‼ 大丈夫ですか‼」
「いえっ」
「この者を連れていけ‼」
「ちがっ」
「申し訳ございません‼ 申し訳ございません‼」
いや、あの、声を、ね、ダメだこれ、なんでだ。
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