第166話 心が満たされていく


 耐えろっ! 耐えるのだ私っ! 


 クロードきゅんに大丈夫だと言った手前、ここで襲うのは自分にも、そしてクロードきゅんに対しても裏切る行為になってしまうのである。


 そんなのは絶対に嫌だ。


 あぁ、でも密室だからこそ聞こえてくるクロードきゅんの息遣いや、薫ってくるクロードきゅんの体臭に、母性本能をくすぐる表情で頼ってくるクロードきゅん、そんなもの耐えろという方がそもそも無理なのである。


 むしろ今までクロードきゅんに手を出さなかった事を誰か褒めて欲しい。


 でも、もう限界かも……。


「はぁはぁ……っ。 な、なぁクロード……?」

「なんですか先生?」

「そ、その……はぁはぁっ。 クロードは女性に興味とか、あるのか? け、結婚願望とか……はぁはぁっ」


 なのでせめてクロードきゅんが結婚願望がちゃんとあり、女性に興味があるかどうかだけ聞いて、もしあるのであれば安心して襲った上で子供を宿し結婚をしよ。 結婚願望や女性に興味が無いのであれば襲って、刑務所へ行って獄中出産をしよう。


「カレンドール先生、俺の前で隠し通せなくなって来ている程体調が悪いのでしょう? 息遣いが荒くなり、どことなく顔が赤くなって来ていますよ? その事からも俺に手伝って欲しいと呼んだのも納得がいきます。 カレンドール先生は責任感が強いのは美徳かも知れませんが、年上で教師、そして担任という立場故に生徒である俺に弱っている所は見せてはいけないという事はないんですよ? むしろ逆に体調が悪い事を隠された方が迷惑ですし余計に心配してしまうじゃないですかっ!」


 しかしながら真剣な表情をしたクロードきゅんから返ってきた言葉は『はい』でも『いいえ』でもなく、まったくもって想定していなかった言葉であり、私は思わずクロードきゅんその言葉を聞いて固ってしまう。


 こ、これはどういう反応をするのが答えなのだろうか?


 そもそもこんな言葉が返って来るとは思ってすらいなかった私は返答に困り固まってしまうのだが、次第にクロードきゅんの言っている言葉の意味を理解していくにつれて、クロードきゅんは興奮している私を見て『体調が悪い』のだと判断して、私の為に叱ってくれているのだという事が分かってくる。


 そして私の為に叱ってくれているのだと、私の体調を気遣ってくれているのだという事実に、私はもう……幸せすぎて先ほどまでの性欲が一気に霧散していく。


 あぁ、人を恋愛対象として好きになるという事は、こういう事なのだな……。


 まさか好きな異性と同じ空間でいるというだけで心が満たされていくなんて……。

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