第132話 妄想に浸らせてよ
「うるさい……。 今私は幸せすぎて何も考えられない上に、その幸せだった時間を噛みしめながら思い出に浸っているの……っ。 その私の幸せな時間を邪魔しないでっ」
そう、私は今食欲なんかどっかに行ってしまっており晩御飯時にも関わらず何故かおなかがいっぱいで空腹を感じない為、であれば晩御飯を抜いてこのまま思い出が新鮮なうちに何度でも思い返しながら幸せに浸っていた方が何倍も良いに決まっている。
今ですらあのひと時は夢だったのでは? と思ってしまうような奇跡のひと時であった為、あのような奇跡が再び訪れるとは思わない方が良いだろう。
そもそもただでさえ私以外の女性にも皆平等に優しい、まるでお伽の話の中に登場する王子様のような存在であるのだ。
きっとあの時私ではなく別の誰かであったとしても同じようにクロード様はその娘と放課後デートをしていたであろう。
私だから放課後デートをしたのではない。
だからこそ奇跡のようなひと時であることは分かっているのだが、それでも『私だからクロード様は放課後デートをしてくれたのだ』と思いたい自分がいるわけで。
でも、思うだけは只だし、そう思った方がより一層私は幸せに浸れるので、自惚れであるとは分かっているのだが、分かっているからこそ『私だからクロード様は放課後デートをしてくれたのだ』と思う事くらいは許してほしい。
そして、できる事ならあその幸せな妄想と、あの奇跡のようなひと時を融合させた最高の夢の世界から目覚めないでほしいとさえ思ってしまう。
「あの食い意地張ったお姉ぇが、きょうは好物のから揚げだというのに一向に食事の席に来ないから、どうせお姉ぇの事だから変な物でも拾い食いでもして頭がおかしくなっているのでは? と思って見に来てみれば、いくら近くで話しかけても生返事でボケーとしているし……本当に大丈夫なの? お姉ぇ」
「うるさいなぁ……今最高に幸せなんだから邪魔しないでよ。 妄想に浸らせてよっ」
「いや、まぁ……体調が悪くてご飯を食べたくないというのならば分かるけどさぁ……。 それで、一体お姉ぇに何があったというのよ。 ほら、この妹に言ってみなさいよ」
せっかく妄想に浸りたいというのに先ほどから妹が話しかけて一向に妄想に入れないどころか、妄想に入る為の集中をすることが出来ないではないか。
「なんでも良いでしょう? とにかく私はその思い出に浸りたいの。 だから邪魔しないでよねっ!!」
「ますます怪しい……。 教えてもらうまで私はお姉ぇにちょっかいかけるからねっ!」
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