第123話 前世の父さん、母さん

「お、ようやく戻って来たか。 それで、俺だけ食べるのは不公平というかオリヴィアに申し訳ないから俺のクレープも一口食べてよ? 勝手にオリヴィアのクレープを食べてしまったからこれでチャラで良いか?」

「え? あの、え?」


 そして俺は戻って来たばかりのオリヴィアに早速俺のクレープも食べるように言う。


 戻って来たばかりの今であれば多少強引に持っていく事でなんだかんだでこういう恋愛事には初心さのせいで奥手になってしまっているオリヴィア相手でも前世のころから夢であった『あーん』及び『食べさえ合いっこ』という青春の一ページを刻むことができるのではなかろうか?と思った俺は戻って来たオリヴィアに早速俺のクレープを食べるようにと多少強引に勧めてみる。


 するとオリヴィアは言われた言葉は理解しているのだが言われた言葉の意味まではまだ理解できていないのか少し混乱しているようである。


 そんなオリヴィアの気持ちが、俺は痛いほど伝わってくる。


 分かる、分かるぞオリヴィア。 俺だって前世でいきなりアイドル級に可愛い学校一の美少女から俺が食べているクレープを齧られてしまい、あまりの衝撃的な(いい意味で)出来事によって脳が処理しきれず現実逃避してしまい、戻ってきたら今度はその美少女の食べかけのクレープを食べても良いと言われた日には自らの正気を疑うよな。 だからとりあえずほっぺたをつねってここが夢か現実か確かめようとするオリヴィアの気持ちも分かるぞっ。


「い、痛い……と、いう事は……夢じゃ、ない……?」

「うん、夢じゃないよ。 ほら、オリヴィア。 あーん」

「へ? あ、あーん。 …………って、え? あ、わ、私クロード様のクレープっ、そ、そそそ、それも食べかけのクレープをっ!! しかも『あーん』ってっ!! 『あーん』ってクロード様がしてくれたた奴をっ!? え? 私死ぬの? 私今日で死ぬのかなっ!?」

「おいしい?」

「あひぃっ!! 死ぬっ!! その微笑は今の私には受け止めきれないよtぅ!! このままでは死んじゃうっ!!」


 そしてとりあえずオリヴィアが正常な思考ができるようになる前にとりあえず勢いで押そうと思った俺はそのままの勢いでオリヴィアの口元に俺が食べかけのクレープを『あーん』と差し出すと、まるで親鳥から差し出された餌を食べる雛かのようにオリヴィアは言われたまま俺の食べかけたクレープをその小さな口で『パクリ』と食べるではないか。


 前世の父さん、母さん、俺は今まさに前世では謳歌できなかった青春を謳歌しております。


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