第92話 それでも良いとさえ思ってしまう

 少し前までの私であれば男性が住んでいる別荘の中へと入り、父親に抱く感情や悩みを言うなんて事が来るとは想像することすらできなかったし、そんな未来は絶対に来ないとすら思っていた。


 きっと昔の私にこの事を伝えても信じないどころか間違いなく『嘘でもそんな気持ち悪い事を言うな。 冗談でも言っていい事とダメな事くらい分からないのかっ!?』と、間違いなく怒ってしまうだろう。


 そんな事を思いながら私はクロードが差し伸べてきたてを掴むとそのままクロードに引っ張られるのに抵抗することもせずに別荘の中へ、そしてリビングへとクロードのリードのままに進んでいく。


 そして私をリビングへと連れてきたクロードはソファーへ座るようにとエスコートしてくるので私はそのままエスコートされたソファーへと座ると、私がソファーへと座った事を確認したのであろうクロードの側仕えでもあるメイドのニーナが暖めたミルクココアをマグカップへと淹れて、私に差し出してくる。


 そしてクロードは私の話を聞きやすいようにテーブルを挟んで向かい側のソファーへと座ると『それで、一体どうしたんだ? 女性であるジュリアンナが男性でる俺の家の玄関で待ち伏せするような、一歩間違えたら一生塀の中になりかねないような事をするって事は、そうせざるを得ないくらいに切羽詰まった事があったのだろう?』と優しく声をかけてくれるではないか。


 私の知る男性とは全く正反対の対応に私はいちいち胸がときめいてしまう。


 一度自分の中でクロードの事が好きかもと、一回でも思ってしまったらもうダメだった。


 クロードとこうして一緒の時間を過ごしていく度にあのクズである父親との違いに気づいてしまいその度にときめいてしまっているのでは私の心臓がいくつあっても足りない気がしてきた。


 もしかしたら今日不整脈で死ぬかもしれない。


 でも、それでも良いとさえ思ってしまう。


 一昨日より昨日、昨日より今日と、クロードの事がより異性として好きになって行ってしまう為、これ以上好きになると思うと、それはそれで少しだけ怖いのだけれども。それもまた嬉しいとすら思えてくるので不思議だ。


 そして私は堰を切ったように、今まで溜め込んだ父親に対する感情や、だからこそ今アイツがいる家には帰りたくないと言う事などを話し始める。


 そして一通り聞いてくれたクロードは、私の話が終わった事を感じ取ると一言『分かった。 俺に全て任せておけ』と言う言葉を聞いた私は、安心したのか一気に睡魔がやってきた為、気がついたら眠ってしまっていた。

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