第91話 これだけでもう私は満足である

 そして俺はこの世界で初めてできた友達、いや、戦友と共に学園へと同じ馬車で向かうのであった。


 ◆


 私自身でもどうかしていると思う。


 男性であるクロードが暮らしている別荘に連絡し了承も取らずに向かう事は犯罪行為であるという事は分かりきっているにも関わらず、気が付いたら向かっていたのだから仕方がないだろう。


 私自身ですらクロードが暮らしている別荘へ向かう事を止められなかったのだから。


 そして、何故私がクロードの暮らしている別荘に気が付いたら向かっていたかというと、もう私にはクロードしか頼れる存在がいないという事を本能的に気付いていたのだろう。


 クラスメイトには友人と呼べるほど親しい友人はおらず、また父親が帰って来た事によって私の母に頼る事など尚更できようがない。


 ただ、なぜだか知らないのだがクロードだけは助けてくれると、根拠も何もないのだがそんな事を思ってしまっていたのである。


 だからといって勝手に連絡すらせずに向かうのはいくら何でも失礼な行為であろう。


 しかし、今の私にはクロードへ連絡する手段すらないので連絡をしたくてもどうしようもないのである。


 だからこそ私はクロードの元へ行きたいという欲求を必死に抑え込んで我慢していたのだが、私の心は私が気付かない内に、とっくの昔に限界がきてしまっていたのであろう。


 そしてクロードの暮らしている別荘の玄関で蹲っていた事に気付いた時には流石の私も顔を青ざめ、今すぐにでもこの場所から離れなければと思ったその瞬間、玄関が開きクロードが出てくると、私の姿を見つけて驚愕しているのが見て分かる。


 その事に、驚かせてしまった事に対しては申し訳なく思うのだが、それ以上にクロードに会えたという喜びや安心感が私の中を駆け巡る。


 あぁ、これだけでもう私は満足である。


 そう思った私はクロードへ一言謝罪したらこの場所から離れてしまおうと立ち上がる。


「御免なさい。 本来であれば女性である私が男性であるクロードの住んでいる場所に押しかける事は違法であると分かっているのだけれども──」

「なんだ、ジュリアンナか。 びっくりさせんなよ。 とりあえず、ここへ事前連絡も取らずに来たことは責めないから部屋の中で何でこんな事をしたのか話は聞くよ」

「で、ですが流石にそれは──」

「いいからいいから。 それに困っていそうなクラスメイトを放り出して衛兵に突き出すなんて、流石に俺にはできないからな」


 しかしながらクロードはそんな私のした行為を快く受け止めて許してくれただけではなく別荘の中で私の話を聞いてくれるというではないか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る