第85話 なぜ今までその事に気づかなかったのか

「あ? どういう事だよ」

「今まで私から奪って行った物全てを正しい手順を踏んでしっかりと返してもらうって事よ。 私から奪った事業の数々もかなり適当に運営した上にお金をかなり勝手に使っていたらしいじゃない。 今までは貴方が男性だからと目を瞑って来たし、男性というだけでそれだけのメリットがあると考えていたのだけれども、貴方が男性ではなくなって女性になったというのであれば話は別です。 ただの女性に私の財産を与えたりする価値もなければ、今までの行いを訴えても良いと思えるくらいには腹立たしく感じてしまうわ。 そう、まるで騙されたような気分よ」


 そしてババアは俺を見ながらそんな事を言うではないか。


 意味が分からない。


 女性というのは俺を敬い、全てを捧げても良いと思うのが女性というものではないのか?


 そもそも俺が女性に性別が変わったからといってここまで態度が変わるというのはどういう事なのか。


 これまではまるで俺が男性でなければ全く存在価値が無いというようなものではないか。


 そんな事など有り得ないだろう。 俺を捨てて後悔するのはババアの方だというのが分からないのか。


「何で分からないんだ? 俺が女性になったという事は逆に男性に戻ることができるという事だぞ。 俺が男性に戻れる方法が見つかって後悔するのはお前の方だぞっ!」


 俺の性別が女性になったという事は男性になる事もできるという事でもある。


 俺が男性に戻った時にはこのババアを土下座させた上で捨ててやろう。


 しかしながらババアは俺の言葉を聞いても焦ることもなく、むしろ俺を蔑むような目線で見下してくるではないか。


「はぁ? 何をいっているのかしら?」

「は? お前こそ俺の言っているの事の意味が分からないほどバカなのか?」

「それはこっちのセリフよ。 貴方が男性に戻れる方法が分かったからといって、何で貴方を男性に戻さなければならいのか。 別に貴方ではない別の女性を男性にした方が良いに決まっているじゃない。 貴方のようなゴミ虫は男性に戻す価値があるとでも思っているあたり片腹痛いわね」

「…………え? いや、は?」


 そしてババアが言う事が少しして理解し始めると、俺は今の俺の現状がいかにヤバいのかと言うことが分かり始めてくる。


 なぜ今までその事に気づかなかったのか。


 俺が男性に戻れると言うことは、他の女性の性別も男性に変える事ができるという事でもあるのだという事に。


 そしてそれは同時に男性の価値も下がるという事でもある。

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