第70話 殴ってやろうか?

「いや、俺まだ何もしていないんですけど……むしろ俺の一撃ではなくパメラ先生自ら吹き飛んで行きませんでした?」

「ちょっと何を言っているのか分からないぞっ!」


 殴ってやろうか?


 年齢的には俺よりも年上であり担任であるカレンドール先生と同い年くらいであるのだが、素直に殴りたいと思ってしまった。


 そしてそれはクラスメイト達も同じらしく、明らかに嘘がバレバレのパメラ先生へ怪訝な視線で見つめているのが目に入ってくる。


 当たり前だ。


 あれほどの大根劇を見せられたのだ。 今この場で、あれで周囲を騙せていると思っているのはパメラ先生ただ一人でけである。


「しかしながらこれは困ったぞっ!? あー、困ったなぁっ!!」


 そしてまだパメラ先生による大根劇は続いているらしく、棒読みで何やら呟きながら時折俺の方をちらちらと見つめてくるではないか。


 いったいこの大根は何をしたいのか。


 わざと俺に負けた所でどんなメリットがあるというのか。 むしろ生徒に負けた講師というレッテルが貼られてしまうデメリットしかない気がするんだが?


「うん、これはもうしょうがないっ! だってこれしかないんだからもうしょうがないっ!!」

「あ、いや、大丈夫ですので、気にしないでください。 いやほんと大丈夫なんで」


 そして大根……ではなくてパメラ先生は相変わらずの大根劇を披露し『しょうがない』と言いながら俺の方へと向き直る。


 それと共に俺はものすごく嫌な予感がしたのでパメラ先生が何か言ってしまう前に俺は『大丈夫なので気にしないでください』と断りを入れるが、それを言った所で止まるような人であればこんな事は初めからしなかったであろう。


「ありがとう、クロードっ!! クロードのその優しい思いは伝わってきたよっ!! でもこれはクロードと他の生徒達を守るためには仕方のない事なんだっ!! 許してくれっ!!」


 そしてパメラ先生はそう言うとキリっとした表情になり、今度はクラスメイト達がいる方へと向く。


「クロードは想像以上に強かったっ!! これが男女の筋肉量の差でもあるのだろうっ!! この事から見てもクロードと君たちで手合わせをするのは極めて危険と判断したっ!! よって以降クロードとの手合わせは全て、君たちの安全を考慮して私とする事にするっ!!」

「おいふざけんなクソババァっ!!」

「あんな大根を見せられて納得するとでも思ったのかっ!!」

「クロードきゅんの一撃じゃなくて明らかに自分から吹っ飛んどいてそれはねぇだろっ!!」

「職権乱用で訴えるぞっ! この大根教師っ!」

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