第69話 大根

「おっ、そんなに見つめてくるということはクロードは私の事が好きなのかな?」

「いや、これから組み手をする相手ですから当たり前でしょう」

「まったく、素直になっても良いのだぞっ!! では、このコインが地面に落ちた時が開始の合図にしようかっ!」

「いやまぁ、はい。 分かりました。 組み手の開始の合図はそれで行きましょう」


 そしてひとしきり茶番をやりきったのかパメラ先生は、手に持っているコインが落ちたら組み手の開始の合図というのを提案してくるので素直に了承する。


 ここで断った場合他に別の案を考えなければならなくなり面倒臭そうだし、もう早くやってしまって終わらしたい気持ちの方が大きい為断る理由もない。


 そしてパメラ先生は俺の返事を聞いた後、一拍おいてから親指で天高くコインを弾き、数秒して弾いたコインが地面に落ちる。


 その瞬間俺は一気にパメラ先生へと駆けて行こうとしたのだが、パメラ先生も同じ事を思っていたらしく、俺と同じようにコインが地面に落ちた瞬間に俺へと駆け出しているではないか。


 しかしながらあらかじめお互いに駆けてくる可能性もあり得ると想定していた為別段驚くこともなく授業用に用意された木剣、パメラ先生は大剣で俺は細身の片刃剣の木剣同士で鍔迫り合いをする事になるなと、この時の俺は思っていた。


 そして俺とパメラ先生の木剣同士が触れた瞬間、なぜかパメラ先生が『あ〜れ〜っ!!』と大根役者も驚愕してしまいそうな程の棒読みで叫びながら自分から・・・・後方へと、あたかも俺の一撃でやられたかのように吹っ飛んで行くではないか。


「えぇーー…………」


 その光景を見て俺はどう反応して良いのか分からず、ただ立ち尽くしていた。


 そしてそれは俺とパメラ先生との組み手を、目を見開き、どんな些細なことでも見逃さまいと目をかっぽじって見ていたクラスメイトたちも俺と同様に頭の上にハテナが出まくっているのが分かる。


「あの、パメラ先生……一体何をしたいのでしょうか?」

「さ、さすがクロードだ。 まさかこの私が吹き飛ばされるとは思わなかったよ」


 あれ? 地味に日本語が噛み合っていないような気がするのだが気のせいだろうか? というか台本通りに喋っているような大根具合なので、これが演技であるのはバレバレなのだが、さすがにふざけ過ぎだと指摘した方が良いのだろうか?


 いやしかし、大の大人、それも講師であるパメラ先生がそんな子供のような事をするとは考えられない為、指摘したくても俺の予想が間違っていた場合を考えると万が一を想定してしまい突っ込めずにいた。

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