第52話 養殖の姿です
「ちっ、その手があったか……畜生。 私もクロード様の馬車が通る道で雨に打たれるべきだった……っ 悔やんでも悔やみきれない……っ」
「ん? 今何か言ったか?」
「いえ、何も言ってませんよ? 何かの聞き間違いじゃないですか?」
俺の耳には確かに目の前の少女が何か呟いた気がしたのだが、本人が気のせいと言うのであればきっと気のせいなのだろう。
「そうか、俺の聞き間違いかもしれないな。 申し訳ない」
「そ、そそそそ、そんなクロード様が謝るような事ではありませんし、気にしてませんからっ! で、でも、私の頭を撫でてくれれば許してあげても良いかもしれませんよ? ちらっ」
そして俺が聞き間違いをした事を謝罪すると、目の前の少女は気にしていないと言った後、上目遣いで頭を撫でてくれれば許してあげると言ってくれる。
流石に男子から疑われて気にしているけれども、俺に心配させまいと気にしていない風を装い、しかしながら後半で少しだけそれが出てしまったという事なのだろう。
え? いやその前に……こいつ、今自分の口で『ちらっ』って言った? いや、流石に気のせいだよな?
そんな彼女を見た俺は、彼女の内面よりも自分で『ちらっ』と擬音を口にしたことの方が気になって仕方がなかった。
これは、あれだろうか? 不思議ちゃんという事で良いのだろうか?
他の女性であればただの痛い女性なのだが、彼女の容姿が逆にプラスに働き可愛く思えてくる。
「騙されてはいけません、クロード様。 先ほども言いましたがあれは狼です。 不思議ちゃんなどではありません。 あれはおそらくこの学園にクロード様がくると知ってから作り上げた養殖の姿です」
そして、そんな少女を見て考察していると、先程同様にニーナが後ろから俺にだけ聞こえるように目の前の少女は狼だと教えてくれる。
しかしながら、例えニーナの言う通り狼だとしても彼女を少しでも傷つけたのならば真摯に向き合って頭を撫でてあげるべきであろう。
それは決して俺が目の前の少女が可愛いだとか、小動物のような見た目から頭を撫でて見たいだとか、なんならこの世界では珍しく守ってやりたいと思えるような可憐さがある少女の頭ならばお金を払ってでも撫でてみたいだとか思っているから頭を撫でるというわけではないと先に言っておこう。
「クロード様。 思考がダダ漏れですし、少女を撫でながらそんな事を思われても説得力に欠けます。 後、可憐な少女が好みでしたら私がそのようにイメチェンいたしますが?」
「俺の思考を勝手に覗かないでくれ。 というかどうやって覗いたんだよ? 後、イメチェンはする必要はないからな?」
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