第49話 耐え凌ぐ事ができます

 何というか、今まで男性に対してだけ『頭のおかしい人間もどき』だと思っていたのだけれども女性側も相当であった。


 いや自分の母やクラスメイト達の反応、そして世間でよく聞く性犯罪者の性別の比率などを考えれば女性も大概にヤバいということは分かる筈なのだが、私は今まであえて気付かないふりをして目を逸らしてきたのだということが分かる。


 そうして目を逸らす事で女性は男性とは違うと思い、私はお父さんとは違うと思わなければ精神を正常に保てなかった為無意識に今まで私はやってきたのであろう。


 でも、そんな事などどうでも良くなった今になって、その事を受け止めることができるようになるのだから私という人間がいかに卑怯な人間であるかという事を窺えることができる。


 結局私は今までずっと嫌な事は全て他人のせい、特に父や男性のせいにして逃げ回ってきただけであり今そのツケが周って来ただけなのだろう。


 男性だってまともな人もいるし、女性であっても頭のおかし人がいる。


 そもそも同じ人間である男性がおかしいのならば同じ人間である女性もおかしくないわけがない。


 そんな単純なことから今まで目を逸らして来たのだからなんだか笑えてくる。


「ちょっと、真剣な話をしているのになんで今笑うんですか?」


 そしていきなり笑い出した私に、ニーナは少し不機嫌そうに話しかけてくる。


「御免なさい。 ですがニーナの話を聞くと私が今まで背負ってきたものがいかにどうでもいい事かわかり、そう思うと何だかおかしくなって来てしまっただけで他意はないわ。 むしろ私は貴女に感謝しているくらいよ」


 そうなのだ。


 父がおかしいように、その父に依存している母もまた何処かおかしいのだと、私は今になって受け入れる事ができたのである。


 たったそれだけの事で私の心はかなり軽くなった。


「でも、ニーナ。 貴女はクロードの側仕えメイドではなくて? それなのにそんなに性欲が強くて大丈夫なのかしら? 我慢できなくなったりしてしまわないの?」

「それは、むしろ逆にその性欲の強さで抑える事で耐え凌ぐことができます。 同僚達などは自身の性欲を御しきれず毎晩のように嗅いでしまったので側仕えの試験に落ちていきましたが、逆に御しきれなければクロード様のパンツを一生嗅ぐことができないと悟ってしまえば、一日でも二日でもでも耐え凌ぐ事ができますから」

「……一年や二年ではなくて?」

「ジュリアンナさんは私を殺したいのですか? 一年や二年もの間クロード様のパンツを嗅げないなど、想像しただけでも、あぁっ、恐ろしい……っ!」

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