第32話 答えは出てこない


 ◆



 私は今混乱していた。


 このクロードという男性なのだが私が知っている男性とは真逆なのである。


 私が知っている男性とは女性を食い物にして、すぐに手を出し、そして甘い汁を吸えなくなったらボロ雑巾のように捨てて後は見向きもしない。 それが私の知っている男性像であった。


 しかしながらクロードは私が知っている男性像とは異なり、女性を一人の人間としてちゃんと見ているのが、何気ない行動一つひとつから伝わってくると共に何が真実なのか分からなくなってくる。


「ごめんね、ここ隣座ってもいかな?」

「どうぞどうぞどうぞっ!! はわわわわわわっ! ち、近くで見ると、想像以上にイケメン……っ!!」


 そして今もクロードは満席状態の食堂で、先に使用している八人使用のテーブルに座っている女性に、その席で空いている席に座ってもいいか下手で確認している姿が見える。


 私が知っている男性はこういう時、上から目線で女性をまるで犬猫のように追い払うというイメージしかなかったので、クロードは私の中の男性像を壊して行くではないか。


 正直言って、私の中の男性像が壊れて行くのが怖いと感じてしまう。


「ほら、ここ使っていいって」


 そしてクロードはそういうと屈託のない笑顔を私だけに向けてくれるではないか。


 その笑顔を見るたびに私の胸が『きゅーっ』と締め付けられるような、今まで感じたことのないような症状が現れるではないか。


 この症状は一体何なのか。 私は何かの病気にかかってしまったのか。


 真っ直ぐクロードを見ることすらできないではないか。


「どうしたんだ? 大丈夫か? 体調が悪いのならば保健室まで付き添うぞ?」


 そして未だに料理を乗せたトレイを持ったまま席につかない私を見てクロードが心配そうに私を見つめてくるではないか。


 なんで男性であるお前が女性である私のことを心配するのか。 男性にとって女性は甘い汁さえ吸えるのであれば他はどうでも良いのではないのか。


「ふむ、熱は無いようだな」


 そしてなおも突っ立ている私にクロードはこともあろうにおでことおでこをくっつけて私の体温を測るではないか。


 近い近い近い近い近い近い近い近いっ!!


 何故か心臓の鼓動はうるさいくらいに早くなり、顔が一気に熱くなるのが分かる。


 本当に、私はどうしてしまったのか。


 ただ、おでことおでこをくっつけただけではないか。


 それくらいのことであれば幼少期お母さんに良くしてもらったではないか。


 いくら考えても答えは出てこない。


「し、失礼します」


 しかしながらいつまでも突っ立っているわけにもいかないので私はおずおずとクロードの隣に座る。


 ちなみに並びはニーナさん、クロード、私である。

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