第30話 耳が弱い

 そんな事を思いながら昼休憩のチャイムが鳴り響く。


 前世の学生時代ではその瞬間にクラス内は一日の中で一番騒がしくなっていたのだが、何故か魔術学園では俺のクラスだけではなく他のクラスまでもがやけに静かであり、不気味な雰囲気というか張り詰めた緊張感のような空気が漂っているのが分かる。


 それこそ授業中よりも静かなのでは? と思えるくらいには学園全体が静まり返っているのだから違和感をどうしても感じてしまう。


 もしかしたらこの現象はここ魔術学園の暗黙の了解か何かかもしれないので、俺はジュリアンナにそれとなく聞いてみる事にする。


「ひゃっ!? あ。貴方ねっ!! 耳元で突然話すなんてセクハラ認定されたいのかしらっ!?」


 ほう、ジュリアンナは耳が弱い……と。


「すまんすまん。 そんなつもりではなかったんだ。 だが周囲がやけに静かだからあまり会話とか、それこそ物音を立ててはいけないという暗黙の了解か何かがあるのかと思ってな。 もしそうだとしたらジュリアンナにも迷惑をかけてしまうと思って耳元でささやいたんだが、どうやらそうでもないみたいだな」


 万が一の事を考えてジュリアンナの耳元で囁いた瞬間にクラスメイト達から『ガタタタタタタッ!!』とそこかしこから椅子や机を引きずり立ち上がってはこちらを凝視している姿を見てそれは無いかと判断して普通にジュリアンナへ話す。


 ちなみにここだけの話下心が無いと聞かれれば、少しだけあったと答えよう。 俺も年齢的には思春期真っ只中の男の子なのだからそこは大目に見て欲しい。


「まったく、私の事を気遣っての行動なのはわかったわ。 ですが次は無いと思うことね」

「あぁ。 気を付けるよ」


 気を付けるとは言ったが『以降やらない』とは言っていないのがミソである。


「それで、先程の質問の答えなのだけれども、そんな暗黙の了解か何かは無いわね。 恐らくクロードがこれからどこで昼食をとるのか聞き洩らさない為に物音を立てていないだけだとおもうわ。 どうせ他のクラスの者達も耳に魔力を集中させて盗み聞きしていたというところね」


 そしてジュリアンナは『まったく、なんでこんなにもクソである男性の事が気になるのか私には全然わからないわね』と呟きながら教室から出て行こうとする。


「何をボケっと突っ立っているのかしら? いまから売店と食堂を教えてあげるからついてきなさい」

「お、おう」


 なんだかんだ言ってもこういう所をみるに根は良い奴であり面倒見も良いのだろう事が窺えて来る。

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