第7話 暗闇の境
夜。
部屋の電気をパチリと消して、私・
電気を消したばかりだと、いつも視界の真ん中に真っ黒な塊が見えるような気がする。
それは多分、錯覚とか残像とか、ちゃんと理由が分かっている現象?なんだと思う。直ぐに消えるし。
でも、今夜は何だか様子が違った。
真っ黒な塊がどんどん大きくなって行く。あれ?と思うのに、身体も動かないし、声も出ない。
呑み込まれたら、どうなっちゃうんだろう。
部屋の暗さより黒いそれが、私の真上で雲みたいに拡がって、降りて来る。ケタケタと高い音をした、気味の悪い笑い声も聞こえた。
目を逸らせない。これは何?
視界一杯が真っ黒になってーー
パチン
音がした、と思ったら目が痛かった。
刺してくる光。
部屋の電気が点いた。真っ黒なあれは影も形もない。
「ーー薫」
声を掛けられても、一瞬反応出来なかった。
勾楼は、お祖父ちゃんが持つ勾玉の
さっき、お祖父ちゃんの部屋でおやすみと言ったばかりだ。
「……勾楼……?」
目だけを勾楼に向けると、こっちにやって来た。そのまま、枕元に腰掛ける。一つに結った黒髪が、さらさらと揺れた。
「大丈夫かい?酷い寝汗じゃないか」
「えっ、」
言われて初めて、身体がびっしょり濡れていることに気付いた。
「えと……勾楼はどうしたの?」
「お前さん、真幌の部屋に栞を忘れただろう」
「お祖父ちゃんの部屋に栞?ーーあ、」
勾楼に差し出された栞は、確かに私の物。
すっかり忘れてたみたい。お祖父ちゃんから貰った大事な栞なのに。
私はようやく動けるようになって起き上がった。勾楼から栞を受け取る。
「ありがとう、勾楼」
「ーー今来て良かったみたいだね」
「え?」
勾楼は答えずに、私の頭をくしゃりと撫でた。
「いンや。フクロウが鳴いてうるさかったからさ。急いだだけだよ」
「フクロウ?」
よく分からない。家にも外にもフクロウなんて住んでないのに。首を傾げる私を笑って、勾楼は立ち上がる。
「私は付喪神だからね、聞こえる声は多いのさ。ーーそれより、着替えて寝なよ。冷えたら風邪引いちまうからね」
「分かった」
もう一度、おやすみと言って勾楼は出て行く。
あれは何だったんだろう。夢?
栞に目を落とすと、描かれた銀色のフクロウがいつもより優しい表情に見えた気がした。
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