輝く日々

「暑いな」

アスファルトは熱を逃がさない。熱い空気と日差しは、元気をガリガリと削り取っていく。

「そりゃ夏だししょーがないでしょ」

アイスを頬張りながら、自転車に跨る少女は言う。こいつとも、この街とも随分長い付き合いになった。

「この辺って本当に何も無いよね。閉まった店増えちゃったし、そこになにか作られる訳でもないし」

生き残ったのはあの駄菓子屋くらいか。だが、そこもそろそろ不味そうだ。2代目のおばちゃんはやる気に満ちているが、不動産業の男がしきりに足を運んでいた。きっとこの商店街を丸ごと無くして、なにか建てるつもりなのだろう。

「何も無いわけじゃないだろ。俺達も含めて、あるけど見えてない魅力はきっとあるよ」

今はまだ、楽しい。こいつと遊ぶ時も、こいつ以外と遊ぶ時も。程々に遊んで、程々に学んでいた。

「分かりやすく楽しめるものがないってのは事実じゃん」

そう言って、少女はいつの間にか食べ終わっていたアイスの棒を、僕に突きつけてきた。

「確かにそうだが、俺はお前と遊んでる時は何してても楽しいぞ」

俺が思っていることを言った。思ったことは勢いのままに言わないと後悔することもあるから。

「うわ、そんなことよくサラッと言えるよね」

何とも言えないような顔で、少女は俺を見ていた。

顔から火が出るかと思った。頬が熱いのは夏のせいだと思いたかった。

「そこは、私も楽しいよとか言ってくれればいいのにさぁ。茶化さなくてもいいじゃんかよ」

おどけて笑いながら言った。戯れのつもりだったと言い聞かせるように。

「まあ、私と楽しく遊ぶのもきっと大事だけど、自分の進路のこともちゃんと考えるんだよ」

ご最もなことを言われた。彼女はそう言うと近くのゴミ箱にアイスの棒を投げ入れた。

「こうやって駄菓子屋の前に集まる日も少なくなるのかな」

少しセンチメンタル気味に呟いた。この関係が無くなってしまったり、楽しい時間を捨てて何かを目指すことが怖い。

「これからは少なくなるかもね。けど、まるっきり無くなることは無いよ。楽しいことはなるべく無くしたくないしね」

そう言って貰えた時、俺は少し救われた気持ちになった。

「楽しめたもん勝ちだよな」

蝉の鳴く声が、何故か小さく感じていた。少女との距離が気づくとかなり近くになっている。

「だから、楽しむ為にお互い、頑張らないとだよ」

額に人差し指を当てられる。目が近い。

「頑張る。だから、来年も再来年もここで話そうぜ」

心臓が高鳴りながら、その言葉を捻り出した。

「ほんとにその頻度でいいの?」

少女は顔を逸らして雲を見ていた。青くて、白くて、あの海みたいに眩しかった。

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夏の日 中川瑚太郎 @shigurekawa5648

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