第12話

 渡し船は、二本足の者達を乗せるだけなら然程でも無いが、馬もとなると一気に、値が張る様に成る。実際、相応の舟を使わなければならない話でもある。

 バルキエールは、入植砦の兵として無償で乗れた。が、ガイアン達はそうはいかなかった。


「済みません!済みません!」


「とにかく、昨日は砦に泊まれたし…気にするなって」


 依頼側の方で出す金を用意していなかったのは、不手際ではあるが。バルキエールを責める訳にも、いかない話である。

 痛い出費に一番呆然としていたのは無論、ジャフリカである。


 その速さの為に、渡し船から見るアイヌールの流れは、鮮烈に澄んでいたものの色は白く、透き通ってはいなかった。

 冷たさが、伝わって来た。

 同時に、身体も心も引き締まる様な、清められる様な感覚が有った。渡るのは、初めてでは無かった。その度に、いつも何か粛然とした物が身内に流れるのをガイアンは、感じていた。

 人間に対しても、ドワーフに対してもエルフに対しても、厳しい目を向けて来る川。しかし、同時にそこには正しさと強さが有って、そうしてこちらもその正しさを抱いている限りは、味方してくれる川。好きだった。

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