第15話 はじめてのBで耳たぶ以上にあらゆる部分が燃えた件⑤
前回までのあらすじ。
有頂天野郎は大好きなあの子とワンチャンキス出来るチャンスになぜかキレました以上!
そして、その提案に俺の心は、悲しみで埋め尽くされた。
恋愛関係にはからきしな俺の超絶浮かれポンチメンタルも、ことプライドに関しては話は別だ。
『お礼にキスをしてあげる』
俺の人生に、そんなことはあってはならなかった。恋愛的な好意の結果としてなされるその行為が、お礼という名のお情けでなされる。お情けでキスしてもらう、そんな自分が許せなかったのだ(風俗には行った事あるくせに)。
恋愛行為の決着は恋愛感情だけでつける。そんな部分だけ当時の俺は無駄にツッパリ魂だったのである。
っていうか普通に考えればそんなのは口実で、ゆみちゃんが俺に気があるからそれを口実にキスできるきっかけを作ってくれたに決まってるのに、当時は瞬間的にそのことに気づけなかった。
なので俺の拗らせマインドは、彼氏がいる→話聞いてくれた→キス→同情、という方程式を瞬時に脳裏に浮かび上がらせる。
多分、モテないで生きてきた過去のせいで、自分の性的魅力に自信がなさすぎて、それが発想の引き出しに入ってなかったのだろう。
そしてこの頃はもう、俺はゆみちゃんに完全に心が奪われていた。彼女の心がもっと知りたくて、彼女にもっと笑って欲しくて、頼りにして欲しくて、つまり総括すると、彼女の心が欲しかったんだろう。
そんな未成熟な欲望に振り回された俺は、ゆみちゃんに電話をかける。
「もしもし、あの、メール読んでんけど、あの、お礼に、……キスってやつ」
なんていきなりデリカシーのないスピードでデリケートな話題にぶっ込む俺に、もちろんゆみちゃんは困惑する。
「え、あ、うん、そう、お礼に。雪田くんが話聞いてくれてめっちゃ嬉しかって、そんで、あたしに出来るんってそれくらいしかないし、ゴメン、嫌、……やった?」
なんて、しまいにはシュンとされてしまう。
俺は少し慌てて、
「いや、ちゃうねん、嫌とかそんなんじゃなくて、なんていうかこう、それがお礼にって言う理由でやったらなんか悲しなるというか……」
って感じでしどろもどろになる俺にゆみちゃんは、
「……うーん」
と、そこで温度を変えた相槌。
「……別に、お礼ってだけちゃうもん」
その声には、ちょっとした怒気と悲しみが浮かんでいて、それに俺の胸は少しだけ、ドキりと跳ねる。
その声からチラリと見えるゆみちゃんの裸の心はやたらとセクシーだった。自分が今ゆみちゃんを傷つけてしまっていることなんて忘れて、脳が沸騰しそうになる。
ドキドキして、昂って、欲しくなって。
そして、手に入らないことが怖くなる。
そんな自分勝手で埋め尽くされた頭の中で、次第に恐怖心が膨らんでいく。
手に入らないって未来から逃げたくて、届かない場所に必死で手を伸ばすように、俺はゆっくりと、後ろ向きに言葉を紡ぎ始める。
「ほんま? いや、なんかゴメン、その、ちゃうねん俺……」
「ごめん、やっぱり嫌やった?」
ゆみちゃんの声が不安そうになる。焦る俺を不快にさせたんじゃないかと気を遣ってくれているのだろう。だけどこの時の俺の頭の中は自分のことでいっぱいいっぱい。
「いや、ちゃうねん、俺、……ゆみちゃんのこと好きやねん」
「…………ほんま?」
俺の唐突な告白に返ってきたゆみちゃんの少し湿ったような声がどんな意味を持っているか、その時の俺にはわからなかった。
「だから、その、キス、……とかめっちゃしたいねんけど、ゆみちゃんが俺の事そうじゃなくてそう言う感じでやったら、なんかいやと言うか……」
そんな俺の保身だらけの後ろ向きな告白にゆみちゃんは、
「……好きじゃなかったらこんな話せーへん」
と、少し怒ったように言って電話を切った。
夜のマンションの通路で1人携帯を握りしめ、光のスピードで顔がにやけ始める有頂天野郎の話は次回へと続く。
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