第3話 「うん」ちゃうやろが「イエス」やろが!③
前回までのあらすじ。
厨二病の僕はヤンキーに囲まれてもみくちゃにされて頭の中で『揉めてる俺マジカッケェやべぇ!』と思いましたまる。
その日から、俺は悩んでいた。怖いと言うのもそうだし、悔しくもある。そして俺はこの時初めてだったのだ、相手を論破出来なかった事が。
俺はこれまで、相手が先生だろうと同級生だろうと、口先だけを回転させてやりこめてきたのだ。まぁ、やり過ぎて先生に殴られたことはあるが別に負けたとは思っちゃなかった。手を出したってことは言い返せないってこと、つまり俺の勝ちだ、なんて思ってた。なのでぶっちゃけ、
『俺のこの天才的な頭脳にかかればこの世に敵はいねぇ!』
ぐらいには世の中舐めたことを思ってた。俺はこれまで、自分のことを世界最強だと思っていたのだ。……思って”た”は嘘ですホントはアラフォーになった今も思ってます。
だから今回のことはある意味初体験。揉め事を引きずってる。その日からも表面上は『負けてない』を貫くため何気ない顔でシャツを出して登校しては、シャツを入れろと言う先生を睨みつけ、ヤンキー生徒に「関係ないやろ」と吐き捨てては殴られた。
別に相手の言うことに納得したわけじゃないし、言い返す言葉がなくなったわけでもない。だけど多分、この時心は既に“負けに向かって”いた。
『怖いから、本当はもうシャツを入れてしまいたい』
心の中にそんな弱気な感情が芽生えていた。
『絶対に負けない、俺が1番すげぇんだ』
って気持ちだって消えちゃいない。
だけど多分、そんな精神力はもはやジリ貧だった。
だからこの時の俺にできる精一杯は、ただシャツを出して、睨んで、殴られる。ただそれだけだった。
唯一、ジリ貧な心を勝ち気な方へと堰き止めるための方法は、一々カッコつけることくらい。
例えば、岡町グループのパシリの細山が一人で俺のクラスに来た時。
「おう、呼んでるで?」
教室の入り口、ドアにカッコつけて寄りかかった細山がこれまたカッコつけてアゴをくいっとやりながら俺に言う。
『うーん、こいつパシリで俺を呼びに来さされてるクセにカッコつけてんなぁ。面白いなぁ』
なんて俺は思いながら、だけど笑いそうになるのは隠しながら、ワザと不機嫌な声を作って言い返す。
「はぁ? なんでいかなアカンねん?」
すると細山はちょっと動揺しながらこう言う。
「は? いや、い、言うてんの俺ちゃうし……」
なんて最後の方は少し口籠った感じなのがまた面白い。言われて来ただけ、それを白状した、いじめられっ子の俺にちょっとビビってる、ヘタレの役満だ。
俺は内心ニヤケそうになるのを抑えながら、ちょっと演技かかったくらい怒気を含ませた声で言ってやる。
「用あんねやったらそっちから来い言うとけや!」
と、俺が強気なことを言い出すのがよほど予想外だったろう細山は若干引き気味に、
「ほ、ほんまにいうぞ! ええねんな?」
と言うので俺はもちろん、
「ええで! 言うとけ!」
と言う。もちろんこの時、頭の中では『やばいやばいやばい! 俺、かーーーーっこいいよーーー!』って叫び倒している。ついでに『もはやこのあと教室で5、6人から引き摺り回されるのは確定事項です怖い怖い泣きたいやばいーーー!』ってことも叫び倒してる。
そして細山は焦ったように返っていき、1分後くらいにゾロゾロと現れた岡町一派からもちろん引き摺り回された。そんな感じの抵抗が精一杯だったのだ。
しかし、もしも地域が違っていて(俺の通っていた中学校の校区はどちらかといえばお金持ちな地域で治安は良かったから俺は救われていたと思う。岡町グループも学校内ではワル系だが、実質そこまで極悪人では無い。周りの他の奴らも引きずったりある程度加減した打撃を加えてくるくらいで血を出される様なことはなかった)、ホントのヤバいワルに、こんな態度をとっていれば拉致られて入院コースか最悪死ぬということもありえたのかもしれない。本当の意味で危ない目になんて会ったことのない俺は本当に浅はかで、臆病で、無鉄砲だった。
だけどその無鉄砲のおかけで、自分の心を守れたんだと思う。引き摺られても、小突かれても、逆らって、シャツを出したままでいきがったセリフを吐き続けられる俺は、俺の中でまだ、かろうじて、ヒーローだった。主人公だったのだ。
だから俺はまだまだ、相手が諦めるまで、この態度を続けるつもりだった。痛くて、怖くて、心は半分くらいは折れていたけど、まだ言語化出来る意識の上では勝てると思ってた。
そんな矛盾した精神状態のまま、この話は次回へと続く。
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