第2話 アプリで待ち合わせ

 ――今年から導入された、生徒の間で話題にこそなったが、使用率はそこまで高くはない、オリジナルのゲームアプリである――『ハイスクール・ジョーカーズ』。


 それぞれが持つ一枚のカードが、当人にとっては『切り札』……『ジョーカー』になる、という意味なのだと俺は推測する。


 新学期、校門前で配られたカードには、生徒会主催という記載と、カードの大半を埋めたQRコードが描かれている……。

 これを専用のアプリを使用し読み込むと、カードの中の情報を読み取ることができる。


 オンラインゲームの広場でのコミュニケーションが終始する世界だ。


 世界滅亡の危機なんて訪れないし、魔物がいるわけじゃない。武器も防具もなく、魔法も存在しない平和な世界だった……。虫取り網や釣り道具はあるので、ほのぼのライフがメインになるあのゲームに類似しているが、探せば同じようなゲームは多くあるだろう。


 これでお金を取っているわけではないので(たぶんだが……課金要素もないしな)、パクったところで大丈夫なはずだ……きっとな。


 ダメなら注意されているだろうし……。


 オンラインで他のプレイヤーとコミュニケーションが取れる。ただし、昨今では自分オリジナルのアバター……、ゲーム内キャラを作ることができる仕様が当たり前になっている中で、このゲームは元から使えるキャラが一人に絞られている……。

 そしてその中身——キャラの生い立ち、性格、持っている情報など、まるで俺がゲーム内で生きているキャラの中に入ったかのようだった……、


 あれ? 本来はこっちが主流だったんだっけ?


 ゲームの中で自分色を出すのが我流……だったりするのか?


 確かに一昔前のゲームは主人公を操作するだけで、キャラの大まかな行動やシナリオは基本、一本道だったわけだしな……、こっちが本来の姿、か。


 決まったキャラで、シナリオの中で決まった役に当てはめられている……それが俺たちだ。演劇部みたいにな。

 カードの中のキャラになりきりながら、ほのぼのライフを送る、というのがコンセプトなのだろうが、ゲーム性として、ある要素があった……。それは大々的に明記されてはおらず、俺たちが自力で気づくことを促されている……そんな気がする。


 当然、シナリオがある。


 そして、個々のキャラにも物語がある……。

 閲覧できるが、しかし虫食い状態になっている情報……、それを埋めるためには、他人とのコミュニケーションが必要であり、ゲーム内だけでなく現実世界で他生徒のカードのQRコードを読み込むことで、情報がアンロックされる場合もある。


 そのため、コミュニケーションツールなのだ。


 新入生からすれば都合の良い話題だろう。


 俺たち二年生ですら最初は流行ったものだが、しかし廃れるのも早かった……、生徒会主催なので、つまりは個人制作である。


 企業が出している完成度が高いゲームが多量にあるこの時代に、ただ自身が持つ情報を頼りにシナリオの全体図を解き明かしていくゲームに、誰がはまる?


 つまらないとは言わないが、もっと他にやるべきことがあるだろ。


 ……まあ、ゲーム全般に言えることではあるが……、俺が言えることじゃないか。


 なんだかんだと、俺はこのゲームのヘビーユーザーである。

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