第4話『打って憂鬱』
次の日。学校へ行く風香を見送った後、部屋の掃除をする。今日辺りに応募した会社から連絡があるんじゃないだろうか。まぁ、面接に呼ばれるのなら、だけど。トントン拍子に話が進めばいいんだけど、そう世の中甘くはないだろう。今回もまた、お祈りを頂くことになるんじゃないのか?嫌な考えが頭の中をグルグル駆け巡る。
面接に呼ばれる保証も無いし採用される保証も無い。やはりまた、別の仕事を探しておいた方が良いのだろうか?無駄足を踏むのはイヤだけど、行動するなら早い方が良い。変に心配するぐらいなら、とりあえず行動に移しておいた方が良いだろう。この前行ったばかりだけど、一応今日もハロワに行っておくかな~。
世の中不景気なのか、今日もハロワは賑わっている。ここにいる人全員が、私と同じ失業者なんだな。だからと言って、仲間意識なんかは生まれないけど。
今日も同じく、検索機をポチポチ操作。新着求人が大量に出てくるけど、私が応募出来るような求人はほとんど無い。決まり文句のように、学歴が~、実務経験が~と、好き放題に要求されているのが現実だ。コイツら本気で人を雇うつもりがあるんか?こっちだって条件面で、多少は妥協しようと思っているんだから、採用する方も少しは妥協しろよと思う。大卒以上?専門卒以上?実務経験三年以上だと?ふざけんなよ。実際に仕事が出来るかどうかは、やってみなくちゃ分からんだろうが。やらせもしないで何が分かるってんだ?過去にバイトしていた職場だって、学歴ある正社員様にも仕事が出来ない、バイト以下の人はいたってんだよ。私は声を大にして言いたい。学歴なんて飾りです!偉い人にはそれが分からんのですよ!
まぁ、そんな心の叫びは永遠に相手へ届かないだろうけどさ。こんなこと考えるだけ、虚しいってのは分かっている。フン。今に見てろよ。アンタが不採用にしたもんが、他の会社でこれから活躍しようとしているんだ。ザマァ見ろってんだ。…虚しい。
結局、目ぼしい仕事は大して無く、それでも一応、応募するだけやってみるかと、いくつかの会社の紹介状を発行してもらってきた。わざわざ自転車こいで、片道30分かけてハロワに行ったんだから、手ぶらで帰りたくないというセコい考えもあるけど。あ~ぁ、また履歴書を用意しなくちゃならんな。そうと決まれば、サッサと帰宅するか。
今日はパチンコ屋の誘惑にも負けず、真っ直ぐ帰宅した。そう何度も同じ失敗をするもんか。履歴書を書くのが先、仕事に応募するのが先だ。鉄の意志で行動あるのみ。
しかし、毎度のことながら、一々履歴書を書くのも面倒臭いよなぁ~。プリンターは持っているけど、Officeを持ってないのでパソコンで履歴書を作れない。別れた旦那はこういうの得意そうだったな~。まぁ、今更愚痴ったところでどうしようも無いけど。地道に手書きで書くしかないか。
学歴職歴、趣味特技、志望理由はどうするか?また適当に、ウケが良さそうなおべんちゃら書き並べておくか。
そうして1枚目の履歴書を書き終えた頃、唐突に携帯が鳴った。知らない番号からの着信だ。これは…応募した会社からか?手が震えている。鼓動が激しくなる。落ち着け落ち着け、早く出ないと…。努めて平静を装い電話に出る。
「…はい、玖珂沼です」
予想通り、応募した会社からの電話だった。面接に来てくれという内容で。とりあえず、明日行くということで約束をしたんだけど、いざ面接に誘われると、どうしよう?という心境だ。
そりゃ早く新しい仕事に就きたいけど、その面接が明日に迫ってきたと考えると焦ってしまう。面接官と上手く会話出来るだろうか?別に私はコミュ障という訳じゃないけど、不安で一杯になる。
改めて、面接に誘われた会社の求人票を見てみる。年齢学歴、実務経験も資格の有無も一切不問で事務の仕事だ。駄目元のつもりで応募したんだけど、まさか面接に誘われるとは…。私なんかで通用するのだろうか?パソコンは持っているけど、Officeとか全然使ったこと無いぞ?経理のこととかも全然知らんし、不安しかない。
まぁ、そもそも駄目元で応募した会社だし、当たって砕けろの精神でいくしかないか。…何か気が重いなぁ~。自分で選んで応募しておいて何だけど、ちょっと後悔しているかも。もしも面接クリアして採用されたとしても、上手く務まるのだろうか?何かネガティヴな考えしか浮かばないなぁ~。
ヨシ、こういう時は気晴らしにパチンコだ!気を紛らわせるには手っ取り早い。懐に余裕は無いから1パチだけど、まだ時間も早いし、とにかく打って来よう。仕事の面接を前に、軽く運試しといこうじゃないか。今日紹介状を出してもらった会社は、とりあえず保留ということで、明日の面接に賭けてみよう。うん、そうしよう。
馴染みのパチ屋は今日も4パチコーナーはガラガラで、1パチコーナーだけ賑わっている。私の狙い台は既に先客が打っていて、他に目ぼしい空き台も無い。さて、どうしよう?空いているのはスペックの荒い台しか無いし、誰かが止める迄待つべきか?
とりあえず休憩コーナーへ行き、タバコを吸う。コーヒーでも飲みつつ、一服しながら考えよう。1パチに空きが無いからといって、4パチに行くのは危ないよなぁ~。でも、甘デジならワンチャンあるかな?イヤイヤ、そう都合の良いことはそうそう起こらないだろう。でも、運試しということならアリかもしれない。たまたま座った台でオスイチ決めるなんて可能性もゼロじゃないしなぁ~。過去にそういうこともあったし、甘デジなら尚更だ。ここは一つ、勝負に出てみるか?幸い4パチコーナーはガラガラで、台も選び放題だし。
しばらく迷った末、1パチも空きそうにないので4パチの甘デジを打ってみることに。出来るだけ収支が荒れにくいスペックの台を選び、後は運を天に任せるだけだ。玉貸しボタンを押す手が震えている。焦るな、緊張するな、1パチが4パチになったからといって、やることは変わらない。己のヒキを信じて玉を打つだけだ。
ストローク調整もバッチリだ。久しぶりに打つ台だけど、体は覚えていたらしい。ヘソに入りやすい位置をピンポイントで狙い打つ。回転率はどうだ?5百円で9回転回ったか…。それなら単純計算して千円で18回…、微妙だけど悪くない。震える手で玉貸しボタンを押す。とにかく、低投資で当たりを引きたい。時間はまだ余裕があるし、如何にして持ち玉遊戯に入るかが勝負の別れ目だ。
1パチではあんまり気にしないけど、保留も3個貯まったら打ち出しストップする。1回転1回転を大事に、精神を集中させながら変動を見守る。早く来い、早く来い。甘デジなんだから、サクッと当たれよなぁ~。ロクに熱い演出も出ないまま、また玉貸しボタンを押す。カード残高が見る見るうちに減っていく…。
結局、幸運の女神は微笑んでくれなかった。5千円打ってみたけどノーヒット。まぁ、分かっちゃいたよ。そうそう都合の良い展開にはなりゃしないってさ。チャンスアップ演出も大して出なかったし、何の気晴らしにもなりゃしなかった。こんなことなら、パチンコ打たずに酒でも飲んでりゃ良かったわ。気晴らしのつもりが、ストレス溜めるだけになるとはね。金と時間の無駄使い。負ける度にそう思う。
帰り道、今日の晩御飯は何にしよう?と考える。風香は今日も、お腹を空かせて帰ってくるだろう。貧相な晩餐だけは避けたいもんだ。ゴメンね風香、また私パチンコで負けちゃって、お金が無いんだよ、なんて言える訳がない。
こうなったら、材料費を抑えて、その分手間を惜しまず料理を作るしかない。節約レシピならいくらでもあるんだから、何とか安く済ませよう。
いつものスーパーで食材探し。とにかく何か安いヤツ、値引きされてるのは無いかな~?今晩食べるんだから、賞味期限ギリギリでも構わない。イヤ、明日の朝御飯も考えなくちゃならんか。
店内をウロウロ物色してまわって、安いヤツから献立を考える。そして良いものを見付けた。半額シールが貼られたおから。元々安いもんが半額になっている!今日はコイツでコロッケを作ろう。以前作った時も、風香は喜んで食べてくれたし、後は適当に野菜を買って、スープやサラダを作れば十分だろう。そうと決まれば善は急げだ。サッサと買い物を済ませて帰宅する。
帰宅すると、既に風香は学校から帰っていて、今日も大人しくテレビアニメを視ながら宿題をやっているようだった。
「ママ、お帰りなさ~い」
私がパチンコで負けたことなんか知らない風香は、笑顔でお帰りなさいを言ってくれる。何とも言えない罪悪感のようなものがあるな…。
「ただいま、風香。宿題やってるの?」
買い物袋を台所に置いて、とりあえず手洗いとうがいを済ませる。明日は仕事の面接なんだし、こんな時に体調崩すわけにはいかん。
「うん、もうすぐ終わるよ~」
風香はいつも、学校の勉強も宿題も真面目にやっているようで嬉しい限りだ。こういうところは別れた旦那に似たのだろうか?勉強なんか適当にやっていた私とはエラい違いだ。あの男のDNAが役立っていると考えると癪に触るけど、良いことなんだからプラスに考えなくちゃいかんな。
とりあえず晩御飯の支度をしなければ。茹でるのに時間のかかる野菜からカットして鍋に放り込む。味付けはいつも通りにコンソメでいいか。沸騰したら中火にしてコトコト煮込み、その間にコロッケ作りに入る。おからは形をまとめにくいので、帰宅してすぐに、軽く冷凍庫で冷やしておいた。こうすれば多少は成形しやすくなる。小判形に形を整えて、衣を付けたら熱した油に投入。おからなんて貧乏臭いイメージがあるけど、こうして一手間加えれば立派なおかずになる。カロリー低いからダイエット食にもなるしね。カラッとキツネ色に揚がれば出来上がりだ。後はこれまた半額になっていたチクワと野菜で簡単にサラダを盛りつければいい。お金はかかってないけど、立派な晩餐じゃないか。
「風香~、ご飯出来たから食べるよ~」
安上がりに済ませたけど、まぁ上等だろう。風香は揚げ物好きだから、喜んでおからコロッケを食べている。
「風香、コロッケ美味しい?」
私がそう尋ねると、
「うん、美味しいよ~ママ」
材料費は抑えたけど、手間を掛けた甲斐があったな。コロッケは余分に作ったから、明日の朝御飯のおかずにもなるし。
しかし…、明日は仕事の面接か…。やっぱ、何か気が重い。早く新しい仕事に就かなくちゃならんのは分かっているけど、目の前に迫る面接の壁が異様に高く感じる。果たして私は、この壁を乗り越えられるんだろうか?プレッシャーに押し潰されそうだ。
イヤ…、こんなことじゃいかん。私は風香の為にも、ちゃんと働いてお金を稼がなくちゃならんのだから。為せば成る。最善の努力で立ち向かうだけだ。全力でぶつかって、それでもダメならまた新しい仕事を探せば良いだけのこと。難しく考える必要は無い。私に出来ることをやれば良いだけの話だ。
しかし…、気分が晴れないのは何でだろう。先のことを考えるだけで憂鬱になる。何かまた頭痛が酷くなってきたな…。頭が締め付けられるように痛い。魔法でお手軽に頭痛を治せれば良いのになぁ…。
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