第2話『サクラサケ』
今日も今日とて職探し。風香を学校に送り出したら、私は通い慣れたるハロワへ向かう。交通費を使うのが勿体無いから、チャリで片道30分かけて移動だ。普段ロクに運動しないから、ちょっとしんどいんだけど、まぁ、これで運動不足を解消するんだと考えるべきだろう。
今時のハロワは、仕事を探すにもパソコンを使って求人情報を検索出来るようになっている。昔高校を中退した直後、父親に無理矢理連れられて行った福岡のハロワでは、まだ紙に印刷された求人票を一枚一枚めくって読んでいたから、それに比べるとエラい進歩だ。着実に世の中は進歩しているもんだねぇ~。時代の流れに取り残されないように、私も頑張らなくてはな。
タッチパネルを専用ペンでポチポチ操作。一人一台割り当てられて求人情報を検索出来るから、周りに気兼ねすることも無く、気楽に仕事を探すことが出来る。まぁ、1回30分迄という時間制限はあるんだけどさ。
何か良い仕事は無いもんかねぇ~?学歴年齢、経験不問で、なるべく給料の高い仕事が良い。まぁ、そんな都合の良い仕事はそうそう無いだろうから、多少は難があっても妥協するべきだろうけど。
色々見ていると、これは!と思うが学歴に引っかかる。これなら!と思っても実務経験を要求される。一体私にどうしろってんだ?本当にその仕事は、そんな高い学歴を必要とするのか?実務経験のある人間しか雇わないってことは、新しい人材育成をやる気が無いってことだよな?未経験で学歴の無い私なんかは、完全に門前払いされている。同じ人間なのに、確実に差別されてるよな…。
何か、仕事を探しているだけなのにストレスを感じる。世の会社は、何故こうも求人に高望みばかりするんだろうか?学歴ある人しか雇いませんよ~、経験者しか雇いませんよ~って、何か凄い馬鹿にされている気分だ。一体何様のつもりなんだ?偉そうに、お高くとまっているアンタだって、最初は未経験からスタートしたんじゃないのか?そう思うと、採用担当者を張り倒してやりたくなる。
そんなストレスフルな職探しだけど、いくつか私でも応募出来る仕事があったので、求人票をプリントアウトして窓口で紹介状を発行してもらう。窓口の人は「前回応募した会社は?」とか聞いてくるけど、そんなもん、全部不採用になったから、またこうして職探しに来たんだよ。そのぐらい言わなくても分かれよな~。まぁ、こんな無意味なやり取りにも慣れちゃったけどさ。
とにかく、サッサと家に帰って履歴書を書かなきゃな。今度こそ上手くいくと良いんだけど。失業手当も残り3ヶ月しか無いんだから、いい加減新しい仕事に就かないとマジでヤバい。
自宅に帰る途中、馴染みのパチンコ屋が目に留まる。イヤイヤ、今はサッサと帰宅して、応募書類を用意しないと。でも、ちょっとだけなら…、イヤ、仕事に応募するのが先だ。でも、今はまだ平日の午前中だ。この時間なら良い台が空いている可能性もあるし、もしかしたら…、運良く低投資で当たりを引いて連チャンなんてことがあるかも…。まだ時間も早いし、甘デジでも十分勝負出来そうだよなぁ~…。風香が学校から帰ってくる迄に一勝負…。
気が付けば、サンドに諭吉を突っ込んでいた。ちょっとだけなら良いよね?うん、軽く5千円程度甘デジを打って、駄目そうなら帰ろう。履歴書書くのも大した手間じゃないし、夕方迄に郵便局に持って行ければ大丈夫だよね。自分にそう言い聞かせ、私はハンドルを握る…。豪快に連チャンして、ドル箱を積み上げてウハウハ状態になっている自分を夢想しながら…。
…どうしてこうなった?当たりも引けたし、そこそこ連チャンもした。だが、終わってみれば持ち玉ゼロ。1万円全部飲まれてしまった。投資千円で初当たりが来たものの単発。そこから更に追加投資3千円で5連チャン。持ち玉出来たと思ったら、今度は糞ハマり。いくら回しても全然当たりゃしない。持ち玉を全部飲まれて突っ込んだ1万円を飲まれるのは、あっという間の出来事だった。最初に5千円で止めようと思っていたのに、どうして私は止めなかったのか…。
パチンコで負けた時、あの時止めておけば…とはいつも思う。だが、そう簡単には止められない。ついつい熱くなっちゃうのが私の悪い癖だ。特に甘デジなんかは、粘れば大勝ちすることがあるからなぁ~。
でも、今日も1万円負けちゃったか…。1万円あれば、タバコをカートン買い出来たし、酒も買えたし、風香にちょっと贅沢なご飯も食べさせてあげられたんだよなぁ~。何で私はこうなんだろう。分かっちゃいるけど止められないてか?こんなんじゃ、真性のパチンカスじゃん。ダメだなぁ~…。
頭では分かっているんだけど、本当にスパッと止められない。勝負は最後迄分からない、後5百円で勝てるかもしれない、もう少し粘れば当たるかもしれない、私が止めた後で他の誰かが当たりを引くかもしれない、そんなことを考えてズルズル投資を続けてしまう。5千円だけ打ったら止めよう?今迄何度同じ失敗をしたことか。タラレバの話ばかり考えて、実入りが全くついてこないじゃんか。
私って、パチンコに向いていないのかなぁ~?いわゆる博打の才能が無いのか?でも、全く勝てない訳じゃないしなぁ~。調子が良い時は、1日で十万円以上稼げたことが何度もあるし。
何がいけないんだろう?たまたま運が良かった日と悪かった日ってだけ?でもまぁ、パチンコなんて努力のしようがないからなぁ。勝てる日は本当に、拍子抜けするぐらいアッサリと当たりを引けるし連チャンもする。ダメな日はトコトンダメ。何を打ってもどうしても勝てない。私が魔法使いなら、台の確率を操作して、サクッと当たりを引いて連チャンさせられるのに。無意味な妄想だけが頭の中をグルグル駆け巡る…。
とにかく、いつ迄も負けを引き摺ってはいられない。サッサと帰宅して仕事の応募書類を用意しなくちゃな。急いで書けば、とりあえず郵便局の営業時間には間に合いそうだ。
私はもう何枚履歴書を書いたか覚えていないが、未だに自分の経歴について記憶が曖昧だ。パソコンに保存してあるメモを見ないと履歴書を書くことが出来ない。結婚前には色んなバイトをしたからなぁ~。サービス業、製造業、色々な仕事をやって来た。日雇いのバイトなんかは履歴書に書く必要無いだろうけど、私の履歴書は学歴よりも職歴の方が圧倒的に多い。あまりにも職歴が多いんで、短期のバイトは省略して長期のバイトに合算して書いている。これって経歴詐称になるんか?別に良いよね?バイト歴ぐらいは。応募した会社も、一々確認とかしないだろうし。
履歴書に書く志望理由は一番頭を悩まされる。そんなもん、金の為に決まってるじゃんか。だが、それを表に出さずに適当な、外面の良い言葉で飾らなきゃならないから面倒臭い。仕事に応募するだけなのに、何でストレス溜めなきゃならんのか?馬鹿げているよな。
でも、その面倒臭いハードルを乗り越えなくちゃ、仕事には有り付けないんだよなぁ~。んで、そうして苦心しながら書いた履歴書も、アッサリと紙クズ同然の扱いにする会社の多いことよ。苦労が全然報われない。今回応募する仕事も、徒労に終わらなければいいんだけど…。
郵便局に行って来た。『履歴書在中』と朱書きされた封筒を持って。私は切手の買い置きとかしないので、毎回郵便局の窓口から履歴書を送っている。窓口のオバハンも営業スマイルの裏では、「またアンタかい?これで何社目なのさ?」なんて思っているんじゃなかろうか。そんなこと知らんわ。いくつ不採用になろうが応募し続けるより他に無いんだもん。こちとら生活がかかっているんだ。風香の為にも、ホームレスになんかなるつもりは無い。とにかく仕事に就かなければ、お先は真っ暗だ。明るい未来の為にも、私は何が何でも仕事を決めてやる。今に見とれよアホンダラ。必ず新しい仕事を見つけてやるからな。
と、そういやぁ、最近通帳記入していなかったっけな~。パチンコに負けて懐も寒いし、ついでにATMでお金も下ろしておくか~なんて思ったら、貯金残高を見て愕然とした。…少なッ!いつの間にこんなに減ったんだ!?通帳を見ると、光熱費やら携帯代やら容赦無く引き落とされている。後は、私が自分でちょこちょこ引き出した履歴か。
…これはアレか、パチンコの軍資金に引き出したヤツか!?いくら熱くなろうと使い過ぎないように、毎回投資上限額は決めていたのに、積もり積もってこうなったんか?これは本格的にヤバいぞ…。来月分の家賃払ったら、もうほとんど残らんじゃんか。旦那から振り込まれる養育費を足しても、後どれぐらい生活出来るのか…。失業手当も支給される迄、まだ日数がある。
仮に今日応募した仕事に採用されたとしても、給料日迄どうやって生活すればいいのやら。仕事が決まったとして、給料の前借りとか出来れば良いんだけど…。
何とか金策出来ないものか?売り飛ばしてもいいような、金目のものは無かったか?結婚指輪もとっくに売っちゃったからなぁ~。何か無いか、何か手立ては無いものか?とりあえず日雇いのバイトでも探すか?でも、フルタイムで、やがては正社員待遇も望める、長期の仕事を優先して探したいしなぁ…。考え抜いた末、私は震える手で電話をかける。
「もしもし、お母さん?」
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