第7話
もう僕は生きたいとも思えない。というか、生きていてはいけないんじゃないか。
彼女にも呆れられただろう。彼女を守るとは言ったけれど、こんな僕に本当に守れるのだろうか。いや、無理だ。守ろうとすると、いつの間にか守られている。
君がいるから君を守ろうと思えるけれど、結局君に守られている。
情けない。弱っちい。女の子に守られて、ダサい。
結局何がしたいんだろう。なんで殺してまで生きるんだろう。
何も...何も分からなくなっていた。
気づけば、食料を集め終わった雪音が、背中に大きなバッグを背負い、両手に大きな袋を持ちながら、ショッピングモールの入り口に立っていた。
「宏、帰ろう。君の分も集め終わった。」
「...雪音。」
返り血だらけの彼女は、僕よりも頼もしい。
「...大丈夫だったの?一人で...。」
「でも、宏はあの状態じゃ行けなかったでしょ?いつまでもうじうじしてないで、帰ろうよ。」
「...うん。」
二人で歩く帰り道。死体だらけの道路で、銃を構える。
「...ねえ、雪音はさ...なんでそんなに強いんだ。」
「強い?私が?冗談言わないで。自分だけ怖いとでも思ってるわけ?」
彼女は、あのときのような形相で僕を睨む。
「お前、ちょっと周りに甘え過ぎなんだよ。ここはどこだ?お前の嫌いな社会の壊れた果てだぜ。...お前の望みがかなった果てだ。望むなら、責任を持って望め。」
「...雪音は、なんでも僕のことお見通しなんだね。」
「ああ。私も、宏とおんなじだから。」
彼女は、あの鬼のような表情から、穏やかな優しい少女の顔へと変わった。
「宏、君だけじゃない。私も、社会が嫌いだった。あんな冷酷で厳しい場所、対応していけるわけないって...私も思ってた。...私も望んでいたんだ。社会が壊れることを。君も同じだろう。」
「ああ。僕も、あんな場所大嫌いだ。だから、いつも部屋で歌ってたんだ。お前らが大嫌いだって。」
「...じゃあ、戻ったらまた歌おうよ。」
「なんか雪音といると、心を読まれている感じがして不気味なんだけど...不思議と心地いいね。」
「なんだそれ。よーくわっかんない。」
「僕も。」
大丈夫。今確信した。彼女はまだ僕を信じてる。僕が守ってくれると信じている。
それなら...僕はまだ...生きられる。彼女のために生きよう。今は守られていても良いさ。いずれ、僕は君を守るんだ。少し...というかだいぶ格好悪いけど、それが僕だ。
汚く、格好悪く、不細工に...生きていくんだ。それが僕なんだ。僕なんだ。
廃校舎に戻ると、なにやら昇降口の前に何かの群れがあった。
「雪音...。」
「大丈夫。」
そういうと彼女は、背中の大きなバックから、パールと、大量の銃弾を取り出した。
「私も戦うから。...もう迷うな。」
「うん。僕は...君を守る。」
「うん。分かってる。」
バックに銃弾を入れ、前に背負った。
二人で、群れへと走る。格好悪くても良いんだ。
僕らしく戦えれば...それで...それでいい。それで良いんだよ。
銃を放つ。迷いはない。大丈夫。僕は大丈夫。
次々と感染者が死んでいく。病人を殺している。だが迷いはない。
僕の嫌いな社会の崩壊。倫理なんてどうでもいい。
生きる...それが僕にとっての正義だ。
気づけば、二人は土の上で寝ていた。死体で上手く見えないが、きっとグラウンドだろう。
恐怖はない。生きるために邪魔な感情は、もう無い。
雪音の手を握る。血で滑っていた。少し前までは、この感触を拒絶していただろう。今の僕は、生暖かく、生臭い匂いがした、この手に好意すら感じているのだ。
もうこの世界は、異常なんて無い。普通なんて無い。そもそも基準なんて無い。
悲痛の声が鳴り響くこの街は、僕らしく生きるためのツールだ。
血だらけの彼女と唇を交わす。互いに笑い合う。
僕は崩壊が愛しい。
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