第5話

本屋へとゆっくり入っていく。レジの方へと進み、隠れながら周りの様子を確認した。手前の方しか上手く見えない...。

「なあ...雪音はここで待っててくれないか。」

「...堂々といくつもり?何体いるかもわからないじゃない。」

「大丈夫。玉は大量にある。」

「...でも、撃ったこと無いんでしょ?」

「...父さんの試し打ち、何回も見てるから。」

「そう...。」

「じゃあ、行ってくる。」

雪音をレジに隠れさせ、僕は近くの漫画コーナーへと向かった。ここには居ない。

雑誌コーナー...ここにも居ない。どこだ...どこなんだ。

注意しながらどんどんと進んでいく。足音を立てないように...立てないように。

ガタッガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタッ

(ここだ...。)

銃を構えながら、参考書コーナーへゆっくりと進む。震えも、迷いもない。

「ゔううあううぶゔぁうゔぁゔぁあゔゔゔゔ」

耳障りなうめき...人は簡単に、ここまで変わってしまうのか...。

たかがウイルスで...人類は簡単に滅びかけるのか。なんて...なんて弱いんだ。

陳列された、大学の過去問題集の前で、血管が浮き出た”アレ”が床で悶えていた。

(まだ子供...)

「お...おがあ...おゔぁあああああああああああっ」

ここまで変貌しても、母親を追い求めている。まるっきり変わるわけじゃないんだ。

じゃあ...これは何だ。まだ人間か?僕は...僕が...これから殺すのは...なんだ?

化け物...違う。”アレ”じゃない。人間なんじゃないか?そうだ、ウイルスに感染しただけで、ただの病人じゃあないか。病人を...殺す?僕が?弱った人間を?

...考えるな。考えるな考えるな考えるな考えるな考えるな考えるな考えるな考えるな

僕は...たとえ人間でも...殺さなくちゃあいけない。ここで撃たなきゃ、殺されるだろう。僕も...雪音さんも。政府だって結局なにもできていないじゃないか。

大丈夫。僕は...僕は正しい...世に正しさなんて無い。あるとしたら、自分なんだ。

大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫

「ふうっ...ふっふうっ...はーっふうっ...よし。」

体を目標に対して真正面に...腰を安定させて...肩の横にストックを...。

よし、大丈夫。引き金を...引き金を引くだけだ。

「ゔぁああああっゔぁああああああああああああああああああああああ」

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」

銃声が鳴り響く。ああ...僕は...ちゃんと...。

彼女の待つレジへと向かう。涙ぐんだ...きれいな目...ああ...僕は、僕は彼女を守れたんだ。ちゃんと守れたんだ。

「...雪音さん。」

「うう...ひろぉ..。」

「...愛しています。」

「ふえ?」

...ん?今...僕はなんて...。

「あ...えと...宏?」

「え?あ...じ、銃ね?こ、この銃...あ...愛銃なんだーこの銃。」

「...撃つの初めてって言ってなかったけ?」

「え?あ、そ、そっかあー...あ、あはは!ぼ、僕ったら...このうっかり屋さんめっ!」

「宏...そのノリ...キモいからやめて。」

「え...あ...ご、ごめん。」

「...いいから、スーパー行こうよ。」

「は、はい。」

あ...あっぶねー。何いってんだよ僕は...。急に...。

気まずい空気を残したまま、スーパーへと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る