第4話

「雪音さん...?」

急に口調がガラッと変わった彼女は、言葉遣いだけじゃなく、人相も変わっていた。

「宏...使えても...使わなきゃ意味ねえんだ。分かるだろ。」

「...はい。」

「生きたいんだろ。」

「...。」

僕が静かにうなずくと、彼女は声を荒らげた。

「生きるっつうのは殺すことなんだよ!本気で生きたいのなら殺すしか無い!殺せないなら死んでこいよ!」

何も言い返せなかった。そのとおりだから。

「...ありがとう、雪音さん。僕は...何を迷っていたんだろう。そうだよ、殺さなきゃ生きられない。生きるには...殺さなくちゃいけないんだ。殺さないことは死ぬことなんだ。」

「...分かったならいいんだ。」

「うん。雪音さん...僕は...」

「もう良いよ。良い顔するようになったね。君は...変われる。変われるよ。」

そういった彼女の顔は、歓喜に満ちていた。その夜、二人で二階の音楽室で寝た。

女の子と寝るのは初めてなのに、なんだか緊張しなかった。それは多分、好意を通り越したからだと思う。


「...宏、朝だよ。」

「うーん...」

「今日はさ、危険なのは分かってるけど...ショッピングモールのほう行ってみない?」

「...あそこ、やっぱり”アレ”がすごいんじゃないのか?」

「そうだろうけど...正直食料とか、昨日の夜二人で食べたので最後なんだよね。」

「...そっか。」

じゃあ仕方ない。もしかしたら”アレ”同士で殺し合いになって、もう全滅しているかも知れないし。行くしかなさそうだ。

「行こうか、雪音ちゃん。」

昇降口で、死体を横目に見ながら出ると、周りは死体の山だった。

「雪音ちゃん...そういえば、自衛隊とかはどうしてるんだろう。」

「なんだか発砲許可が降りないんだって。殺さずに保護っていう方向になったみたいだよ。」

「へー...。」

なんだ、役に立たないな。所詮政府か。

「あとね、研究チームが結成されたんだけど、そこでの研究結果で感染しない人もいるってのが出たみたい。詳しいことはよくわかんなかったけど...。」

「...それってもしかして、僕らのことだったりしてね。」

「可能性はあるよ。」

「...てかそんな情報、どこから?」

「ラジオ。朝5時に起きて聞いてるから。」

「早起きだな。」

そうこう話しているうちに、ショッピングモールが見えてきた。

「意外と近いな。」

「うん。...宏、分かってるよね。」

「...ああ。」

「ならいいの。」

駐車場は、案の定死体が大量に転がっていた。血の匂いが気持ち悪い。

「うわっ」

足元に赤ん坊の生首が転がってきた。

「宏?」

「い、いや...なんでも。」

数々の死体を避けながら、なんとか店内に入ることができた。

死体はあるが、何故か”アレ”がいる気配がない。

「やっぱり全滅か?」

「電気も止まってるみたいね。食べ物とかほとんど腐ってるかも」

「とりあえず、非常食と飲み物を...」

バタッバタバタバタバタバタッ

「...宏。」

「ああ。」

バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタッ

袋のファスナーを開け、銃を取り出す。今度こそ...今度こそ。

音のする、本屋の方へとゆっくり向かった。

「ふうっ...ふうっふうっふうっふうっ」

銃の筒口がカタカタと震える。落ち着け...落ち着けよ...大丈夫。

雪音を守るんだろ。雪音に守られてんじゃねえよ。情けない。

僕は変わるんだ。人は変われるんだろ?僕だって変わるんだ。

気づけば、筒口はピタリと止まっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る