第11話 非常事態なのに誰も来てくれない
全員が黙った。それ非常事態なは納得しているかどうかは分からない。損得が全てだと思っている者も多い。特にならない仕事を無報酬で働くなんて理解出来ないのだろう。そんな中、ラオスの若者が言った。
「確か谷津のやっている事は素晴らしい。最初は当て付けかと思ったが誤解だったようだ。勘弁してくれ」
「いや誤解される行為だったかも知れないな。でもこうして皆と話し合えて国柄も分かる考え方の違いも勉強になったよ。ただラオスにもベトナムにも日本より優れているものは沢山ある。今回はそれを勉強して行こうと思う。そしてこの橋が完成し日本に帰っても皆と一緒に橋を造った事は永遠に忘れないし仲間だと思っている」
「いいぞ! 谷津。ビオランがお前に惚れるのも無理がないな」
みんながドッ笑った。そして裕輔とビオランが恋人同士である事を誰も認める瞬間でもあった。
このところ毎日雨が降り続いている。五月から雨季入り十月まで続く、しかし橋の基礎は完全であり心配ない。誰もがそう思っていた。しかし予想以上の雨量に思わぬ波乱が生じた。予想もしなかった川の氾濫が起きた。
橋は大丈夫だが川岸近辺に置いてある機材、材木、鋼材それにクレーン車などが流される恐れが出てきた。これらの鋼材、クレーン車、その他の工業機具が流されたら工事は大幅に遅れる。
それに損害額も莫大なものになる。我々日本人スタッフは氾濫の情報を夕方四時頃に伝えられた。
現地通訳を通じて機材など工事に必要な物が流されるから、時間外だが手伝うように作業員に迫った。こんな非常事態なのだから全員が当然手を貸してくれものと思っていた。しかし彼等は、いつもの事だからと、たいした事はないと帰ってしまった。裕輔はガッカリした。あの飲み会の時に少しは理解してくれたと思っていた。ただあの夜、全員集まった訳じゃない。若い者が中心だ。年配者が帰ろうと言えば従うしかないのか。
本社からは仕事よりも友好が第一優先とも聞いているが、彼等は情というものはないのか? 助け合うことこそ友好じゃないのか? これまで一緒に働いて来た仲間じゃなかったのか?
日本では考えられない事だ。少なくても自分達で作った橋に愛着はないのか? 裕輔も悲しかった。あの夜は橋を一緒に造る仲間と思ったのに。
余りにも無責任ではないか。一体誰の為の橋なのだ? 我慢出来ずに監督になんとかしてくれてと迫った。監督はなんどもラオスとベタナムの責任者に至急、人の手配を頼んだ。だが今更説得は難しいというばかりだ。祐輔は最後の望みとしてビオランに皆を説得してくれるように頼んだ。
つづく
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