第10話 日本とラオス、ベトナム人の考え方の違い
気前の良い裕輔に皆は喜んでくれた。勿論、ビオランは通訳に回ってくれた。ジオレードはラオス、ベトナムを代表した責任者で日本語も分かる。
ただ日本みたいに飲みながら仕事の話をするのはタブーだが、日本人の仕事に対する心構えは伝えられる。結局は日本の国について尋ねられた。彼等はよほど日本に興味があるらしい。特にラオスは東南アジアでも貧しい国である。
「それで日本という国は生涯同じ会社に勤めると言うのか?」
ベトナムの若者が聞いた。裕輔は笑って答えた。
「確かに日本は戦前、終身雇用制度というものがあった。そして年功序列で出世し給料も勤めた年数と年齢で自動的に上がる。だが戦後から民主主義へと変わり、働く者の権利が生まれた」
みんな興味津々で裕輔の話に聞き入る。
「で今の日本は違うと言うのか?」
「そう終身雇用制度は崩壊し働く者の権利、労働組合が出来て会社と団体交渉が出来るようになった」
「ああ、今は何処の国である」
「今の日本の経済成長があるのは、能力給というものを導入し会社に貢献した者は年が若くても出世するし給料も上がる」
「それはそうだが、俺達が一生懸命働いても会社は認めようとせず給料が上がらないぜ」
「それはその国や会社によって違うから何とも言えないが、日本ではそれで競って個々の能力を発揮したんだ。それが最終的に国力を高める結果となった訳さ」
「しかし俺達の国は真面目にやっても、まず認められる事はない。それが働く意欲を閉ざしているよ」
「労働基準法というのは知っていると思うが、日本では一日の労働時間が八時間と定められている。それを超えると残業手当が二十五%増しで支払われる」
「日本は確かにそうだろう。だが俺達の国はタイムオーバーして働いても知らんふりだぜ」
「それは良くないなぁ、働く意欲を削ぎ取る行為だ」
みんなから歓声が上がった。
「そうだ谷津! 分かっているじゃないか。でもこの国には約束守らない会社や上司が多いんだよ」
「では話を戻そう。私は橋を造るのが子供の頃からの夢だった。勿論それは今も変わりはない。だから例え勤務時間がオーバーしようと納得行くまで止めない。それは私だけじゃなく一緒に働いている日本の先輩スタッフも同じなのだ。そんな気持ちがあるから君達にも同じ事を願った。しかし此処に居るビオランから聞かされた」
「彼女はなんて言ったんだ?」
するとビオランが立って笑って応えた。
「裕輔にはね、こう言ったの。その国には習慣と言うものがあるから日本の考え方を押し付けてはいけないと応えたのよ。でもね、私は羨ましいと思った。損得なしで自分の仕事を誇りに思い時間外でも或いは休日を返上して働く裕輔を素晴らしいと思ったわ。そして日本経済が発展した原点なのだとも思ったわ」
つづく
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