第4話 ラオス政府のスタッフは八人

 今回の橋の工事は元々ある橋の架け替え工事である。ベトナムとラオスに架かる国境の橋だ。ラオスと言う国はベトナムと比べて人口は七百万少し、ベトナムは約1億人近い人口を誇る。しかもラオスは海がない。海側は全てベトナム側にある。色は茶色だが洗濯やシャワーに使うし野菜なども洗う。ただそのまま飲めば一発でゲリをする。出来ればこの国の人々に日本の川を見せてあげたい程だ。そして目の前で川の水を飲んだら驚くだろう。日本は水に恵まれた国である。恐らく川の水をそのまま飲める国は数少ないだろう。ただ何処の国でも、その環境の中で生活している。特に不便は感じないそうだ。

 それを裏付けるように濁った川で、確かに近くでは子供達が川で遊び、洗濯している主婦の姿が見えた。橋を架けるにあたって当分の仮住まいとなる宿舎に案内された。国境に架かる橋だから近辺の警備は厳しいかと思ったら、警備兵ものんびりして警戒心も見られない。

 しかし此処にも日本の影響が残されている。第二次世界大戦でベトナムもラオスも日本の占領下にあった。中国、韓国ほどではないが日本人を良く思っていない事も確かである。

 ただ日本は経済成長と共に東南アジア諸国に多大な寄付をして来た。今回もその一環である。今では日本人には、なんの偏見を持たずに受け入れてくれるようになった。そういう日本人はと云うと戦争に敗れアメリカに原爆まで落とされ何十万にも一瞬にして死傷者を出しその後も放射能に苦しめられた。だがアメリカを憎んではいない。良いか悪いか過去を振り向かないのが日本人なのだろう。裕輔達は此処に橋を造りに来たが、第一優先として両国との親善を努めなくてはならない。

 親善を兼ねた事業である為、工事のいざこざでラオス、ベトナムとの親交を損ねてならない。政府からの固いお達しである。日本人スタッフは宿舎へ案内された。ただ宿舎とは名ばかりの古びた平屋の鉄筋作りの家だった。

 勿論エアコンなんて洒落たものはない。扇風機があるだけだ。かつて国境を警備する警備隊宿舎が使っていたようだ。


 皮肉にも橋の向こう側(ベテナム)近くには真新しいベトナム国境警備隊の宿舎があった。だが国力の違いか、川を超えたベトナム側の国境検問所や国境警備隊の建物はラオス側の数倍立派だった。監督の平井は両方の宿舎を見比べて苦笑いして、諦めたように宿舎に入った。到着するとラオス側の政府の人間が出迎えてくれた。日本側責任者の平井監督と握手を交わした。

 今回の工事はラオス側代表して一括した窓口になるそうだ。これは日本政府から要望である。窓口は一本でいい。いちいち双方の意見を聞きながら工事にあたっては纏まる話も纏まらなくなるからだ。

 平井監督とラオス政府の責任者の間に入ったラオス人で男の通訳が説明していた。ラオス側で用意した人員は、男の通訳が二名と女性が一名だ。

 他に現地作業員募集を担当する世話係り兼、ラオス政府との連絡等担当する青年が一人、宿舎の食事や掃除洗濯する女性が四人の計八人だ。


つづく


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