第2話 海外派遣チームに選ばれた祐輔
なんとか両親が納得してくれた。でもいつかは帰って来て親の跡を継ごう。そう心に決めて、やがて橋の設計施工の科目がある大学に入り、卒業と同時に設計施工をする東京の会社に就職した。そして会社に入って早十年が経った。裕輔はこの会社で、これまで数々の橋を手掛けて来た。
ある日、社が初めて政府から橋の設計施工の工事を受注した。しかも初の海外での仕事である。日本の技術を世界に広げ、社名を一気に高めるチャンスと社を挙げて早速チームを選りすぐりのメンバーを集めた。
「では最後の一人、一番若いがこれまで実績を評価し谷津祐輔をこのチームに加える。以上だ」
裕輔の実力は認められた。このチームの一人として選ばれたのだ。大変名誉な事である。会社に入って十年だが、この世界ではまだまだひよっ子の存在だ。それでも選ばれた事が何よりも嬉しい。社には二十年、三十年と経験豊富な先輩が大勢いる。そんな中から選出されたのだから凄い事である。
裕輔は超の付くほどの橋好き、専門が設計だが現場に行くと黙ってはいられない性格のようだ。そのせいだろうか本当に日本人かと思われるほど浅黒い顔をしている技術者の裕輔だが、率先して現場に入る。だから体格も良く技術者には見えない。思い通りに橋が出来上がった時は子供が、はしゃぐように喜ぶ。
初の海外での工事、場所は東南アジアのラオスとベトナムを繋ぐ国境に架ける橋だ。洩れた者は羨ましがった。会社の情報によると日本とラオス、ベトナム国交樹立五十周年記念事業らしい。その為に日本が両国に無償援助する工事で、外国で橋を造れる技術者として誇りを持って仕事が出来るのだ。
選出された人員は七人、勿論この中で裕輔が一番若くして選ばれて気分は上々だった。他の作業員は現地で雇う事になっているが、国の役人が一人だけ同行するが手続きが終われば帰国する。あとは現地の国の役人が引き継ぐそうだ。
東京に出て十四年、故郷の父母には滅多に連絡しないが出発の前夜、明日海外に派遣されるプロジェクトチームに選出されたと電話を入れた。
両親に報告したら喜んでくれたがラオスとベトナムと聞き沈黙した。
治安を心配したのだろう。だが裕輔は親の心配をよそに海外で橋を作れる喜びに胸の鼓動を高ぶらせていた。七人の中では裕輔だけが独身だ。両親は高知に住んで居るし見送りには誰も来ない。
一番の年配者は平井監督五十二才で責任者であり、他の四人は四十代で妻子持ち、もう一人は三十五才の新婚さんである。
先輩達はここ数日間、暫く日本を離れるとあって家族と過ごしているが、裕輔だけは三十二才の独身男、女友達は居たが恋人と名乗れるほどの女性は居なかった。裕輔は友達と会話する時は、いつも橋の話ばかりで橋男と変な異名まで貰うほどだった。恋人より橋、周りの女性達も橋の話ばかりする裕輔は、恋人としては対象外だったのだろう。
つづく
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