7・波紋と旅
「なに、ラウルが家出しただと!?」
「はい、ラウル様の部屋にこのような書き置きが……」
アーノルドの叫びに対し、メイドが1枚の紙を差し出す。
父上、兄上、どうやらロックヴェルト家に俺の居場所はないようです。俺はヘリオスと一所にこの国を出ます、今までお世話になりました、さようなら。
「どうやら魔法学校にも退学届けが送られているようです。」
「ここまで育ててやったのに……恩知らずめ……」
アーノルドは手紙を破り捨てる。ヘリオスをどこかに売り飛ばし莫大な利益を得る算段が無駄になり、イラついたようだ。
「主様!」
突然アーノルドの執事が部屋に入ってきた。
「どうした。」
「国王陛下が、お見えに……」
「なに!?」
突然の国王の来訪に驚くアーノルド。
「なぜ突然に……仕方ない、準備をしろ!」
アーノルドは急いで身なりを整え、門へと向かう。そこには王冠を被った壮年の男性と宰相と思わしき老年の男性、そして騎士と思わしき鎧を着た青年がいた。
「ようこそおいでくださいました国王陛下、本日は何のご用件でしょうか。」
アーノルドは愛想笑いを崩さず国王に用件をきく。
「対した事ではない、噂のドラゴンを見に来たのだ。」
その用件を聞いたアーノルドの表情に焦りの色浮かんだ。
「どうした? 確かドラゴンを召喚したのはこの家の三男であろう、違うのか?」
アーノルドの焦りの色が強くなり冷や汗が浮かび始める。
「そ……その……申し訳ありません陛下! ドラゴンはもう我が家にはおりません!」
国王に対し大きく頭を下げるアーノルド、国王が困惑の表情を浮かべる。
「ドラゴンがいないとはどういう事だ。」
「ドラゴンの主であるラウル・ロックヴェルトが、昨夜この家を出てしまいまして……」
「何だと、家出したというのか!?」
「はい、今朝、我が家の使用人が家出の書置きを見つけまして……」
「国王、もしや昨夜の兵士の報告は、そのドラゴンだったのでは……」
騎士の青年が話す、昨夜の報告というのは何か大きな物が上空に飛び上がるのを目撃したという巡回中の兵士の報告である。
「陛下、それが本当なら、マズい事になるかもしれませんぞ。」
「なぜだ?」
宰相の言葉に国王が返す。
「陛下もドラゴンの強大な力はご存じの筈……その力が……もしラウル・ロックヴェルトとそのドラゴンが帝国に渡るようなことがあれば……」
「……確かに……」
宰相の言う帝国とはギュラリス帝国、ペンタレスタ王国の東に領土を構える軍事国家である、王国とは昔から犬猿の仲であり、今でも国境付近での小競り合いが絶えない程である。国王と宰相は帝国の軍事力の拡大を何よりも恐れているのだ。
(マズい……マズい……)
国王と宰相が話し合っている中、アーノルドは顔を青くしていた、もしラウルが国を出た原因が自分にあると知られれば、その責任を取らされる可能性があるからだ。下手をすれば爵位を取り下げられる可能性も十分にある。
(どうすればいいのだ……どうすれば……)
その頃、ロックヴェルト邸の一室にてロックヴェルト家の次男、アウストが自身のメイドからとある報告を受けていた。
「そうか、ラウルは国を出たか……」
アウストは眼を向けていた黒い本を閉じる。
「出来れば味方につけたかったが……まあいい。」
アウストは笑みを浮かべて室内から国王とアーノルドを見つめている、まるで何かを企んでいるような、邪悪な笑みを浮かべながら……
「フフフ……」
――――――――――
同じ頃、ヘリオスはラウルを乗せて王国から遠く離れた大森林の空を飛んでいた。
「ん?」
ラウルは遠くに湖を見つけた。
「ヘリオス、あの湖に降りてくれ。」
ヘリオスは軽く鳴いて返事をすると、湖に向かう。そして、湖に到着すると、ラウルはヘリオスの背中から降りる。
(確かバッグの中に……)
ラウルはセバスチャンのマジックバッグから皮の水筒を取り出し、飲み水を確保するために湖に近付く。すると突然湖に波紋が浮かんだ。
「?」
そしてその場所から魚と蛇を足して2で割ったような巨大な魔物がラウルに向かって飛び出して来た。
「なっ!?」
「シャーーーー!!……ガファッ!!」
しかし、その魔物はラウルに食らいつく前にヘリオスによって尻尾を頭に叩きつけられ沈黙した。
「……ありがとう、ヘリオス……えーとこれは……確か……」
ラウルはしばらく唖然としていたが、ヘリオスにお礼を言うと、マジックバッグから魔物図鑑を取り出す。
「サーペントフィッシュ……湖に潜み、水を求めてやってきた動物を獲物とする……肉は食用となる……か。」
ラウルの腹が空腹で鳴った、国を出てから何も食べてないのだから当然である。
ラウルはまず枯れ枝を一か所に集め、魔法で火を付ける。その後、サーペントフィッシュの肉をナイフで一片切り取り、焚火で焼く。
「そろそろかな……」
サーペントフィッシュの肉を一口食べる。
「魚のような鳥のような……でも意外と美味いな……」
ヘリオスもまた自身が仕留めた獲物の肉を貪っていた。
「ふう、食った食った。」
サーペントフィッシュを食べつくし腹が膨れたラウルとヘリオス、ラウルは焚火を消して飲み水を確保する。
「……ん? あれは……」
ラウルは遠くにある古い建物に気付いた。
「ヘリオス、あの建物に向かってくれ。」
ヘリオスはラウルを背中に乗せると、建物に向かって飛び立つ。
「かなり長い間放置されてるみたいだけど、見たところ教会みたいだな……」
建物に到着すると、ラウルはヘリオスの背中から降りて扉を開く。中は多数の長いベンチが並んでおり、奥には祭壇のような物がある。
「やっぱり教会か……ん?」
祭壇には一本の剣が突き刺さっていた。
「剣……?」
ラウルは刺さってた剣を抜き取り、まじまじと見つめる。
「普通の剣じゃなさそうだな……」
武器は多いに越した事はないので、ラウルはマジックバッグに剣を収納する。
「古びてるけど雨風は凌げそうだな……飲み水は確保できたし、しばらくここで寝泊まりするか。」
実家と祖国に波紋が広がっているとも知らず、相方とサバイバル生活を満喫するラウルであった。
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