6・旅立ちの翼

 アラスターとラウルの決闘の翌日、アーノルドは執事と自室で話していた。


「アラスターの様子はどうだ?」


「だいぶ落ち着きました。」


「そうか……クソッ 忌々しい蜥蜴め……」


 アーノルドはラウルのドラゴンを思い出し、顔を歪める、話を聞いたところ、恐らくラウルの封印を解いたのはあのドラゴンだ。


「どうすればいいのだ……このままでは跡継ぎであるアラスターの面子が……」


 アーノルドは頭を抱えて悩んでいた。


「しかし、これはチャンスかもしれませんぞ。」


「どうしてだ?」


「ご主人様もご存じでしょう、ドラゴンの価値を……」


「成程な……」


 二人はラウルのドラゴンの扱いについて話している、二人はドラゴンどこかに売るつもりのようだ。


「ラウルとて我が家の一員よ……私の言う事には逆らえまい……」



――――――――――



 その頃、ラウルはドラゴンの事を話そうとセバスチャンの墓に来ていた、ドラゴンも一緒である。


「……!?」


 ラウルはおどろいた、突然墓石が光りだし、地面に小さな扉が現れたのだ。


「隠し扉……?」


 ラウルが扉を開けると、そこには猛禽類のようなエンブレムの入った小さいバッグと手紙が入っていた。ラウルは手紙を手に取る。ラウルは手紙を読み進める。



ラウル様、あなたがこれを読んでいるという事は、無事本来の魔力を取り戻したという事でしょう。


申し訳ありません、私は真実を知っていながら、主様の命により、それを伝える事が出来ませんでした。


せめてあなたに救いの手が差し伸べられる事を願い、私はここにマジックバッグを残しました、中には旅に必要な道具一式が入っております。


ラウル様、この家に居場所を見いだせないのならば、私はこの家を出る事を勧めます、我々には一人一人、生きる場所を選ぶ権利があります、この広い世界を見て回れば、いずれあなたの生きる場所が見つかるでしょう。


願わくば、あなたの旅路に良き理解者があらん事を願います。



 その夜、国民の殆どが寝静まった頃、ラウルは貴族の服から小さいアーマーの付いた服へと着替え、セバスチャンの残したバッグを肩に下げてドラゴンの下へと来ていた。ラウルはバッグに付いているエンブレムを見つめる。


(ありがとう、セバスチャン……)


 ラウルはドラゴンの背中に乗り、自身の付けた名前を呼ぶ、暗雲に閉ざされていた自分の世界を照らしてくれた者に付けた、その名前を。


「行こう! ヘリオス!」


 ヘリオスは巨大な両翼を広げ、ラウルを背中に乗せて夜空へと飛び立つ。


「おい、あれはなんだ?」


 巡回中の兵士二人の内の一人がヘリオスに気付いた、しかし、真っ暗なためよく見えないようである。


 ヘリオスはそのままどんどん上空へと飛び上がっていく、雲と同じ高さまで来たところで前方へと方向を変える。


(正直右も左も分からないけど……あの家にいても同じだ、何よりヘリオスが一緒なら……何も怖くない!)


「よろしくな、ヘリオス。」


「グォ」


 その声に応えるようにヘリオスは軽く鳴く、そして、遠くへ向かってどこまでも飛んでいく。


 ここに、一人の少年と一頭の竜の旅は幕を開けた、長い旅での様々な出会い、様々な戦いを通じ、少年と竜は成長していく、その物語は、ここに始まった。

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