23・次の旅路へ

「う……うぅん……」


「ラウル! 目が覚めたのね。」


 ラウルが目を覚ますと、シェリーが覗き込んできた。


「シェリー……ここは?」


 ラウルは知らない部屋の中のベッドで寝ていた、窓を見ると既に朝になっていた。


「治療院っぽい建物があったから寝かせたわ、誰もいなかったし。」


「そうか……ありがとう。」


 ラウルはベッドから降りる。


「リリーは?」


「無事よ、別の部屋で寝ているわ。」


 二人は治療院から出る。


「おっと、ヘリオス……」


 すると、ヘリオスが嬉しそうにラウルにすり寄って来た。


「すまないな、心配かけて……ん?」


 ラウルは気付いた、ヘリオスの見た目に変化が生じている事に。


「ヘリオス、変わった……?」


 ラウルの言う通り、1対だったヘリオスの角は根元から二股に分かれ、額の傷の中央には赤い結晶のような物が現れていた、さらに身体の各所から黒い角のような物が生えていた。


「進化したのよ。」


「進化?」


「ほら、前にマザー・タランチュラがクイーン・タランチュラに進化した事があったでしょ? 多分格上の悪魔を倒した事で、ヘリオスにも同じ事が起こったのよ。」


「そうか……」


 シェリーの話を聞いて嬉しそうな笑みを浮かべるラウル。


「グォ。」


 ヘリオスも嬉しそうに軽い鳴き声を上げる。


「ラウル!」


「ん?」


 声のした方に目を向けると、アンディが笑顔で駆け寄って来た、


「アンディ。」


「リリーは……?」


「大丈夫だ、無事だよ。」


 ラウルの返答を聞いて安堵の表情を浮かべるアンディ。


「ここにいたか! ラウルよ!」


 突然ラウルの父、アーノルドが駆け寄って来た。


「父上……?」


「ラウルよ! よくぞアウストを倒してくれた!」


 アーノルドはラウルを賞賛する、しかし、ラウルは無表情であった。


「お前は我が家の誇りだ! すまなかったな、次期当主はアラスターではなくお前だ!」


「お断りします。」


「なっ!」


 ラウルを次期党当主にするというアーノルド、しかし、ラウルは即答で拒否する。


「何故だ、ラウル!」


「俺はロックヴェルト家のために戦ったわけではない、それに……今ロックヴェルト家を継いだ所で何が得られます?」


「ウッ……」


 痛い所を突かれたような表情のアーノルド、実際アウストの反乱によりロックヴェルト家の力は地に落ちたに等しい、恐らくアーノルドはラウルを当主にする事でその責任を擦り付けるつもりだったのだろう。


「それに俺はこれから海を越えて大陸に渡る予定ですから、どのみち当主にはなれませんよ。」


「なっ!!」


 再び国を出るというラウルに驚きの声を上げるアンディ。 


「おい待てよ! まさかリリーも置いて行くつもりなのか!?」


 アンディはラウルに掴みかかる。


「ああ、俺は望み通り助けたしリリーの身はもう安全だ、後の事は知ったことじゃない。」


「何言ってんだよ! あいつの気持ちはわかってるだろ!」


「応えるなんて一言でも言ったか?」


 だんだんと声を荒らげるアンディに対し、ラウルは素っ気なく答える。


「ッ……!! じゃあお前は……リリーの気持ちを知ってて置いて行くのかよ……?」


 怒りに段々と声を震わせるアンディ。


「ああ。」


「捨てて行くってのかよ!」


「……ま、そういうことだな。」


「ふざけんな!!」


 何の悪びれも無く答えるラウルに憤慨、拳を振り上げるアンディ。


ガッ


「グァッ!!」


 しかし、ラウルはアンディの拳を躱し、逆にカウンターを叩き込む。


「俺はそんな男だった……とでも伝えておけ。」


 ラウルはヘリオスに乗ろうとする。


「待ってくれ、ラウル・ロックヴェルト。」


 突然響くラウルを止める声。


「陛下……」


 ラウルを止めたのは、ペンタレスタ王国の国王であった、後ろには従者数名の従者が着いている。


「本当に国を出るのか……?」


「はい。」


「お主は国を救った英雄だ……お主にならどのような褒美でも望み通り取らせよう、爵位だろうと何だろうと……今回の事もロックヴェルト家に対してだけは不問にできる……」


「本当ですか国王! ラウルよ、今のを聞いたであろう! お前が国にとどまり、当主となれば我が家は……」


 尚もラウルに縋りつこうとするアーノルド。


「いえ、どんな褒美が出ようと、俺の考えは変わりません。」


「なっ!!」


 しかし、ラウルは先程と変わらずバッサリと断る。


「き……貴様……一体誰のおかげで今日まで生きられたと……!」


「黙らんか! 公爵!」


 声を荒らげるアーノルド、しかし、国王に一喝され再び黙る。


「……お主がそう言うなら止める事はできまい……しかし、だからと言って何もしないわけにはいかん。」


「?」


 国王が後ろに目をやると、従者の一人が大きめの布袋を持って来た。


「せめてこれくらいは受け取ってくれんか? 旅には何かと金が必要であろう。」


「良いのですか? 王国はもう……」


「大丈夫だ、それを踏まえての額を出しておる、どうか受け取ってくれ。」


「……では、有難く頂戴します。」


 ラウルは布袋を受け取る。


「……お主の旅の幸運を祈る。」


 国王の言葉に対し、ラウルは黙って頭を下げる。


「行こう、ヘリオス、シェリー。」


 ラウルはヘリオスの背中に乗り、シェリーはラウルの肩に乗る。


 そして、ヘリオスは空高く飛び上がり、西に向かって飛び立つ。


「ねえラウル。」


「ん?」


 王国からだいぶ離れた頃、シェリーがラウルに話しかける。


「あの子を捨てるって言ってたの……もしかして、あの子のため?」


 シェリーは続けて話す。


「あそこまでハッキリ言っておけば、彼女は自分を嫌うだろうから。」


「そうなれば、あの子はこれ以上自分に囚われずに済む……だからあんたはわざと嫌われるような事を言った……違うかしら?」


「……さあね。」


グゥ~


 全員のお腹が鳴った。


「……ハハッ、そう言えば何も食べてないからお腹すいたね。」


「そうね。」


「とりあえず、大陸に渡ったらご飯にしようか。」


「グオ。」


 ヘリオスは軽い鳴き声を上げると、大陸に向かって速度を上げる。


 一つの戦いを乗り越え、次の旅路へ、一同の冒険は、これからも続く。

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