18・因縁の対決

「ハァ……ハァ……」


 城に向かって走るラウル。


「!?」


 その時、ラウルに向かって黒い槍が数本飛んできた、ラウルは跳んで避ける、飛んできた方向に目を向けると、屋根の上から怪物が3体降りて来た。


「邪魔するな!」


 ラウルは剣を構えて突っ込む、そして次々と怪物たちを切り伏せる。


「ハッハハハ……見つけたぜロックヴェルトぉ……」


 背後から声が聞こえ、振り向くラウル、その表情は驚愕に包まれた。


「ベルディクト!」


 声の主は以前学園でラウルを虐めていたグループのリーダーだったジン・ベルディクトだった。


「お前……その姿は……」


 ジン・ベルディクトの身体からは黒く禍々しい刺や甲殻が生えて右腕が巨大化しており、まるで先ほどの怪物と融合したようになっていた。


「俺はアウスト様の軍門に下ったんだよ……力を得る為にな……」


 ジンは狂気の笑顔を浮かべている。


「逢いたかったぜロックヴェルト……ぶっ殺してやるよ!」


「ッ!」


 ジンは巨大化した右腕を振り上げて襲い掛かってきた、ラウルはそれを避ける。


「お前に負けてからというもの……惨めだったよ、家では恥さらし扱いされ、周りの奴らも俺を笑ってばかり……何もかもお前のせいだ!!」


 ジンは怒りを込めて叫ぶ。


「元はと言えばお前が決闘を強要したのが始まりだろうが!」


「黙れ!! あの訳の分からないドラゴンさえいなければ……いつも通りお前をボコって、それを笑って楽しむ筈だったんだ! なのに……」


「逆恨みもいいところだな……」


 ラウルは呆れたような表情をしていた。


「うるせえ!!」


 ジンは漆黒の槍を飛ばし攻撃してくる。ラウルは剣で槍を叩き落とす。


「デモンズファイア!!」


 更に逆五芒星の黒い魔法陣から赤黒い巨大な火球を放つジン。 


「フォースシールド!」


 光の盾で防ぐラウル。


「……グァッ!!」


 しかし、盾ごと吹き飛ばされしまった、なんとか体勢を立て直すラウル。


(クッ……なんて威力だ……)


「最高だぜこの力は……さあ、さらに行くぜ……」


 ジンはさらに魔法陣を展開すると、先程の怪物を10体召喚した。


「叩き潰せ!」


 怪物たちは一斉にラウルに襲い掛かる。


「クッ……!!」


 ラウルは剣で応戦する、しかし、数の差により苦戦している様子だった。


「デモンズサンダー!!」


 ジンは更に上空から黒い雷を落とす。


「……ッ!?」


 ラウルはその雷を必死で避ける、さらに怪物が右手を振りかざし襲って来る、ラウルは剣で防ごうとするが……


バキィン


「なっ!!」


 愛用の剣が折れてしまった、恐らくクイーン・タランチュラ戦で疲弊していたのだろう。


「はっはー!! ざまあねえなあ!」


 その光景を見ていたジンは笑っている。


(クッ……何か代わりの武器は……)


 武器を探して辺りを見回すラウル、しかし、周りは怪物に囲まれていた。


「これで終わりだなぁ……」


 右腕に巨大な禍々しいかぎ爪を形成し、近付いてくるジン。


(……!)


 その時、ラウルは何かを思い出した、バッグに手を突っ込む。


「死ねー!!」


 かぎ爪を振りかざすジン。


「ハアア!!」


 バッグから以前教会で入手した剣を取り出し、ジンのかぎ爪を防ぐラウル。


「クソが……」


「……」


 ジンを払いのけようとラウルが魔力を込めたその時だった。


「!?」


「な……なんだ!?」


 突然剣が眩い光を放ち始めたのだ。


「!? うわあああ!!」


 さらにジンが叫んだ、突然ジンのかぎ爪が石灰のようになり、ボロボロと崩れ始めたのだ。


「な……なんだこれは!? どうなってるんだ!?」


 それと同じように、ジンの身体の各部が崩れ始めた。


(……まさか……これは……)


 驚いた様子で剣を見つめるラウル。


「ク……クソ……! お前ら、かかれ!」


 ジンの命令により一斉に襲い掛かる怪物たち。


「……ハアアアア!!」


 ラウルは剣を掲げ、魔力を込める、すると先ほどと同じように剣が眩い輝きを放った。


『ギャアアアア!!』


「グ……グアアアア!!」


 その瞬間、怪物たちもジンも光に包まれ崩れていった、やがて光が収まると、怪物たちは全て消え去っており、無傷のジンだけが残っていた。


「……!? ……!?」


 しかし、ジンの身体は元に戻っており、先程の力は失われた様子だった、ジンは力を失った事に戸惑っている様子だ。


「……」


「ヒッ!」


 ジンに目を向けるラウル、尻餅をついてるジンは怯えたような声を上げた。


「ご……ごめんなさい……ごめんなさい……すいませんでしたぁ!!」


 ジンは腰を抜かした様子で走り去っていった。


「……」


 ラウルは走り去るジンから目を離し、再び城へ向かって走り出す。



――――――――――



 一方その頃、ここはアウストによって占拠された城、その玉座の間である、本来国王が座っている筈のその玉座には、アウストが座っていた。


「フフフ……実に素晴らしい、生まれた時から国の思想に苦しめられて来た私が、今やこの国の支配権を握っている……」


 アウストは黒く染まった自分の右手の平を見つめている。


「やはり愚劣な者は滅びる運命……そう思わぬか? 愚か者どもよ。」


 アウストは横に作られた禍々しい檻に目を向ける、その檻の中に入れられていたのは、国王を始めとする王族と、アウストの父親、アーノルドであった。


「アウスト……なぜこのような真似を……」


 アーノルドは怯えている様子でアウストに問いかける、すると、檻の一部が鋭い刺のようになり、アーノルドへと突きつけられる。


「ヒッ!!」


「なぜ……だと? そんな事は貴様が良くわかっているのではないか?」


 アウストは眉間に皴を寄せ、憎悪を露にする。


「……あ……あれは仕方なかったのだ! 元はと言えばこの国のしきたりが原因で……」


「!? 公爵、我らに責任を押し付けようというのか!」


 国王がアーノルドの言葉を遮って叫ぶ。


「何を言いますか! 国のしきたりが無ければ私だってあのような事は……」


「確かに国のしきたりは否定せんが……あのような方法を選んだのはお主ではないか!」


「王族がそのようなしきたりを何年も引きずっているから……!」


 言い争いを始める国王とアーノルド、その時、二人の四方から刺が付きつけられた。


「喧しいぞ……」


 アウストは嫌悪感を露にした表情で睨む、その時、黒い靄がアウストの横に現れ、そこからアウストに仕えていた黒髪のメイドが現れた。


「お取込み中かしら?」


「……構わん、なんだ?」


 メイドが指を鳴らすと、アウストの目の前に黒い渦が現れた。


「かわいいお客様が来てるわよ。」


 そこには城に到着したラウルが映し出された。



――――――――――



 そして城に到着したラウル、その城には禍々しい木の根のような物が巻き付いており、それによって各所が破壊されていた。


(……待っていろ、リリー……)


 城を見つめるラウル、その時、目の前に黒い靄が現れた。


「!?」


「既に国を出たと聞いていたが、ずいぶん早い帰郷だな……弟よ……」


 その黒い靄からは、アウストとメイドが現れた。


「兄上……」

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