16・王国の危機
突然リリーを助けて欲しいと叫ぶアンディ、ラウルは訳が分からず戸惑っている。
「助けてくれって……一体何が……」
アンディは切羽詰まった表情のまま話を続けた。
「お前の兄が……アウスト・ロックヴェルトが、反乱を起こしたんだ。」
「!? 兄上が……?」
「5日前……突然王都の上空に黒い魔法陣が現れて……」
アンディは5日前に起こった出来事を話す。
――――――――――
『おい、あれは何だ?』
アンディ達魔法学校の生徒がざわめきだす、突然王都の城の上空に漆黒の魔法陣が現れたのだ、生徒達が注目していると、その魔法陣からアウストの巨大な幻影が現れた。
『聞け、愚かな王国の者達よ。』
アウストは尊大な態度で口を開く。
『我が名はアウスト・ロックヴェルト、この国の新たな支配者である。』
アウストの言葉を聞いてさらに戸惑う生徒達。
『私は生まれてから苦しみばかりの人生を送って来た……持って生まれた才能も認められずにな……』
アウストは眉間に皴を寄せて話を続ける。
『その苦しみの原因は……この国の思想だ。』
アウストの頭上の魔法陣から漆黒の木の根のような物が城に向かって伸びる、その根は城の各所を破壊しながら城に絡みつく。
『故に私は愚劣な思想に染まり切ったこの国を滅ぼし、新たな国を作り上げる。』
さらに上空と同じ魔法陣が地上にも現れる、勿論魔法学校にも多数現れる。
『既にこの国の王族の身柄は私の手中にある、さらに軍は帝国との戦に出向いて不在……』
地上の魔法陣からは黒く歪な禍々しい怪物が現れる、その怪物に街の人々や生徒達は慄き、逃げ出す。
『愚かな国の民よ、選べ。』
アウストは尊大な態度で話し続ける。
『私の下に就き、従うなら力を与えてやろう、逆らうなら……この国もろとも滅びるがいい。』
――――――――――
アンディはアウストが言っていた事を全て話した。
「兄上が……そんな事を……」
ラウルはアウストが反乱を起こした事に驚きを隠せない様子だった。
「けど、リリーを助けてくれって一体何が……」
ラウルの問いに、アンディは口を開く。
「リリーは……アウストに捕まったんだ……」
――――――――――
アウストによって占領された王都の魔法学校、そこでは大勢の生徒がアウストの使役する怪物に襲われていた。
「ヒィィーーー!!」
「イヤーーー!!」
「助けてくれー!!」
悲鳴を上げながら逃げ惑うアンディ達、その時、一人の男子生徒が転んでしまった。
「コリー!」
「ヒ……ヒィイ!!」
怯える男子生徒に襲い掛かる怪物、しかし、その怪物は突然放たれた雷によって貫かれ消滅した。
「!?」
生徒達が驚いていると、そこには杖を持ったリリーがいた。
「リリー!?」
「逃げて! 早く!」
大声で逃げるように促すリリー、生徒達は逃げ出した、リリーは杖を構えて怪物達と対峙する。
「何やってんだよリリー! お前も早く……」
リリーに逃げるよう促すアンディ、しかし、リリーは首を横に振る。
「私は逃げない……もう……逃げるわけには……」
リリーは杖を握りしめる、しかし、その手は明らかに震えていた。
「何言ってんだ! 早く逃げ……」
アンディはリリーに駆け寄ろうとする、その時、空中に黒い渦が現れた。
「何やら学園の方で動きがあったかと思えば……」
その黒い渦から現れたのは、首謀者であるアウストだった。
「アウスト・ロックヴェルト……」
リリーはアウストを睨みつける。
「誰かと思えば、エルキュレーデのお嬢様か……」
アウストは笑みを浮かべてリリーを見下ろす。
「昔ラウルとよく一緒にいたのは覚えているが……まさかこのようなお転婆だったとはな。」
ラウルの名を聞いたリリーがピクリと反応する。
「少しばかり才能はあるようだが……その程度でこの私に挑もうというのか?」
アウストの尊大な態度に対し、リリーは杖を握る手に力を込める。
「そうよ……私は……あなたを倒す!」
そしてアウストに杖を向け、周囲に雷の魔法を充填する。
「サンダー・ボルト!!」
そして、強力な雷がアウストに向かって放たれる。
「フッ……」
しかし、アウストは黒い障壁を展開し、その雷を容易く防ぐ。
「その程度か?」
尊大な笑みを崩さないアウスト。
「自分としては勇敢なつもりなのだろうが……それは無謀というのだぞ?」
アウストは笑みを崩さないまま話
「まあこれで実力差がはっきりわかっただろう、今なら見逃してやっても良いぞ?」
そう言うとアウストは空中から降りて来る。
「リリー逃げよう、お前じゃ無理だ。」
アンディは再度リリーに逃げるように促し、彼女の腕を掴む、しかし、リリーはその手を振り払った。
「逃げない……私は……逃げない……」
しかし、そう呟くリリーの顔には明らかに恐怖が浮かんでおり、その手の震えも治まっていなかった。
「リリー……」
「……フッ……」
アウストはそんな2人を見て笑みをやや強める、そして、アウストの背後に魔法陣が現れた。
「!?」
さらにその魔法陣から巨大な漆黒の禍々しい樹木のような怪物が現れる、その怪物は所々から触手が伸びており、中央には異様な液体が球状に集まっていた。
「捕らえろ。」
アウストの言葉に従い、怪物は触手をリリーに向かって伸ばす。
「きゃっ! な……なにを……ン……ンン……」
リリーはその触手に捕まってしまい、雁字搦めにされる、さらに中央の液体の中へ取り込まれてしまった。
「リリー!!」
「小僧、この女が大事なようだな?」
アウストはアンディに目を向ける。
「こいつは特殊な魔物でな……捕まった者は6日程で身も心も醜悪な悪魔へと変わる。」
「な!?」
「この女を助けたければ城まで来い、もっとも……私に挑む覚悟があるならな。」
そう言うとアウストは、邪悪な笑顔を浮かべてリリーを捕らえた魔物と共に黒い渦へと消えていった。
――――――――――
アンディから王国で起こった全ての事を聞いたラウル、その後アンディは探索魔法と隠蔽魔法を駆使してラウルを探したという。
「頼む……もう時間がないんだ……」
膝をつき、ラウルに縋るアンディ。
「……」
しかし、ラウルは振り払い、黙ったまま後ろを向く。
「ラウル!?」
「……俺にはもう、関係のない事だ。」
「そんな……!」
「だいたいお前ら……俺がベルディクト達に虐められた時何してた?」
ラウルはアンディを睨む、アンディはビクッと震えた。
「私もそう思うわよ。」
今まで黙って話を聞いていたシェリーが口を開いた。
「君は……?」
「私はシェリー、訳あってラウルと一緒にいるわ、あんた達がラウルにやった事も聞いてるわよ。」
シェリーの言葉に対し、俯くアンディ。
「裏切って、さんざん虐めて、見捨てといて、それで助けてくれなんて、いくらなんでも虫が良すぎでしょ!」
俯くアンディに対して怒鳴るシェリー。
「だいたいねえ、好きな女の子くらい自分で助けなさいよ! 虫が良い上に男としても情けないなんて最低よ!」
何も言い返せないアンディ。
「……」
ラウルは一言も言わないまま歩き出した。
「待ってくれ!」
尚もラウルを制止するアンディ、ラウルは振り向かないまま止まった。
「虐めた事は謝るよ……本当にごめん!」
「……今更謝った所で……」
「リリーは……ずっとお前の事が好きだったんだ!」
「!?」
アンディの言葉に驚きの表情を浮かべるラウル。
「お前、昔リリーをいじめっ子から助けた事があっただろ?」
「……ああ……」
思い出した様子のラウル、確かにアンディはリリーをいじめっ子から助けた事があった、思えばあれがリリーとの最初の出会いだった。
「リリーはお前に助けてもらってから……ずっとお前の事が好きだったんだ、俺はそれが気に入らなくて、ベルディクトに加担していた……リリーに、お前の情けない所を見せてやろうと思って……」
「セコいわね。」
侮蔑のこもった目でアンディを見下すシェリー。
「だけどリリーは……虐められていたお前を何度も助けようとしていたみたいなんだ……だけど……いつも怖気づいて助けられなかったって……」
「……だから何だ! そんなの……」
「だから……リリーはお前がいなくなってから、ずっと悔やんでたんだ……お前を助けられなかった事を……」
以前学園であった事を話すアンディ。
――――――――――
ラウルが去った後の学園の教室、そこにはリリーと二人の女子生徒がいた、しかし、リリーは落ち込んでいる様子だった。
「馬鹿だね私……次は助ける、次は必ずって……結局助けられなくて……」
どうやらリリーはラウルを助けなかった事を悔やんでいる様子だった。
「挙句の果てに……訳の分からないドラゴンに先を越されて……」
リリーは机に突っ伏して泣き始めた、女子生徒二人はリリーを慰める。
「しょうがないよ、ベルディクトに楯突けばリリーだってどうなるかわかんなかったし……」
「元気出して。」
そして、教室の外でその会話を聞いていたアンディは、悲痛な表情を浮かべていた。
「……」
――――――――――
「多分、あいつがアウストに立ち向かったのも、お前を助けられなかった事の罪滅ぼしだと思うんだ……だからあいつは逃げなかったんだ……」
「……」
一言も話さないラウル、アンディは両手を地面に付けて頭を下げた。
「頼む! リリーを助けてくれ!」
「俺じゃ無理なんだ……力不足なんだよ……」
「頼む! もう一度だけ……あいつの白馬の王子様になってくれよ!」
涙を浮かべながら懇願するアンディ。
「……」
尚も黙っているラウル、しかし、その表情には悩みが浮かんでいた、しかしその時……
「うぉ!?」
「ヘ……ヘリオス!?」
突然ヘリオスがラウルを背中に乗せ、飛び始めた、その方角はペンタレスタ王国の方向だった、シェリーもラウルの服に掴まる。
「ヘリオス……なんで……」
「あんたって、思ったよりお人好しなのね。」
「え?」
「多分あんた、あんなこと言ってたけど、本心じゃその女の子を見捨てたくないんでしょ?」
「……」
「ヘリオスはあんたと繋がっている、だからあんたの本心が本能でわかるのよ。」
ラウルはヘリオスの背中を撫でる、するとヘリオスは軽い鳴き声を上げる。
「……」
ラウルは決意のこもった瞳でヘリオスの飛ぶ方向を見つめる、その先には、暗黒に包まれた王国が広がっていた。
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