12・大蜘蛛地獄

 ラウルの故郷であるペンタレスタ王国の王宮、その玉座の間にて国王に緊急の知らせが舞い込んでいた。


「なに、帝国が侵攻してきただと!?」


 玉座から立ち上がり、驚きの声を上げる国王。


「はっ、帝国軍はおよそ15万ほどの兵力で進撃して来ております。」


 国王の前で膝をつきながら報告する騎士団長。


「……やむを得ん、軍を出せ! 帝国を迎え撃つのだ!」


「はっ!」


 軍事国家ギュラリス帝国の侵攻に戦慄する王都、そしてラウルの実家であるロックヴェルト邸の地下室では……


「うまく行ったようだな……」


「ええ、王国の軍は殆ど帝国との戦争に向かったわ。」


 ロックヴェルト家の次男、アウストが長い黒髪のメイドと話していた、しかし、そのメイドは腕を組んでおり、言葉使いも明らかにメイドが使うような物ではなかった。


「これで準備は整った、さあ、始めるぞ。」


「フフフ、了解したわ……」


 アウストは上着を脱ぐ、すると、その胸に描かれていた逆五芒星の魔法陣が露になった、そして、メイドの右腕が黒く禍々しく変わって行き、その右腕がアウストの魔法陣へと突き刺される。その瞬間、足元から現れたドス黒いオーラが二人を包み込んだ。


 この時、王国の誰もが気付いていなかった、王国の存亡を揺るがす二人の陰謀に……



――――――――――



 一方その頃、ラウルと銀の流星は巨大な蜘蛛の魔物、スカル・タランチュラの大群に悪戦苦闘していた。


「ハァァ!!」


 剣を振り複数のタランチュラを一気に切り裂くラウル。


「ハハッ、やるじゃねーかラウル!」


 ラウルの剣の腕を褒めるブランドン。


「これでも子供の頃から鍛えてきましたからね、腕には自信がありますよ!」


 そう言うとラウルはもう一匹タランチュラを切り裂く


「けどよ……これじゃ、きりがねえぞ!!」


 ビリーは小刀で応戦しながら叫ぶ。


「クッソ、次から次へと……」


 バロンは斧でタランチュラを叩き潰していく。


「ファイアキャノン!」


 カティは炎の魔法でタランチュラを吹き飛ばす、しかし、明らかに息が上がり始めていた。


「これじゃ、こっちの魔力が持たない……」


「プロテクト!!」


 エラは魔法で光の防壁を作り、タランチュラの攻撃を防ぐ。


「戻る道も塞がれています、これでは戻れませんわ!」


 エラの言う通り、一同が来た道は無数のタランチュラによって塞がれていた。タランチュラはその数も脅威だが、その生命力も凄まじく、真っ二つに切り裂かれても襲い掛かって来た。


「仕方ない、奥へ進むぞ!」


 ブランドンとラウルに続き、タランチュラを蹴散らしながら一同は洞窟の奥へと進む。


(……妙ね……)


 そんな中、シェリーは周囲のタランチュラの様子に疑問の表情を浮かべていた。


(まるで、私たちを誘い込もうとしているかのような……)


 もと来た道を塞ぎ、洞窟の奥へと誘い込んでいるかのようなタランチュラの行動を不思議がっていたのだ。


(けど、タランチュラがそんな理知的な行動をとるなんて……やっぱり……)


「!? 道が分かれているぞ!」


 ブランドンの言う通り、洞窟の先は二手に分かれていた、ただし、一見するとタランチュラの大群は左の穴から出ている。


「右へ行くぞ!」


 ブランドンの指示に従い、右へ行こうとする一同、しかし……


「だめよ! 左に行きましょう!」


 シェリーが一同を制止する。


「何言ってんだシェリー、どう見ても左は蜘蛛の巣じゃねえか!」


 しかし、ビリーは反対の声を上げる。


「右は恐らく罠よ、左に巣があるかのように見せかけてるの!」


「虫にそんな知能があるわけねえだろ! いいから右へ……」


 ブランドンはシェリーの反対を押し切って右へ行こうとするが……


「待って下さい!」


 突然ラウルが制止の声を上げる。


「皆さん、左へ行きましょう。」


「ラウル!? 何言ってんだ、お前まで!」


「シェリーの言う通りかもしれません、そっちの穴からは何か嫌な感じがします。」


 ブランドンに対し、ラウルは洞窟の奥を見つめながら話す。


「けどよ、いくらなんでもタランチュラがそんな……」


「おい!」


 ビリーがラウルとシェリーの意見を否定するが、突然バロンが叫ぶ。


「どっちでもいいからさっさと決めろ! グダグダしている暇は……ないんだぞ!」


 バロンの言う通り、タランチュラの大群は今も周囲からとめどなく襲い掛かってきていおり、バロンとカティ、エラはそれに応戦していた。


「……わかった。」


「ブランドン!?」


 二人の意見を了承したブランドン、ビリーはそれに驚愕する。


「ただし、間違ってたら承知しないぞ!」


 ブランドンはタランチュラを蹴散らしながら左の穴へ突っ込んだ、一同はそれに付いて行く。


「ああ……クソッしょうがねぇな……!!」


 ビリーも一瞬迷ったが、みんなに付いて行った。


パキ……パキ……


フシュウウウ……


 そして、一同が奥へと進んだ後、選ばなかった右の穴からは、何かが軋むような音と、奇妙な鳴き声が響いていた。


 そして、一同はタランチュラの大群を振り切り、洞窟の奥へと進んでいた。


「ハァ……ハァ……なんとか振り切ったみてえだな……」


 息を切らしながら安堵の表情を浮かべるブランドン。


「どうやら左を選んで正解だったみたいだな。」


 ビリーも安堵の表情である、正直左がタランチュラの巣だと思っていたので安堵の気持ちが大きいようだ。


「けど、どうして左だってわかったの? あんなにタランチュラがいっぱい出てたのに」


 回復の薬を飲んだ後、カティはシェリーに問いかける。


「あいつらの行動が気になったのよ、何か、私たちの戻り道を塞いで誘導してるように見えたから……」


「だが、スカル・タランチュラにそんな知能があるなんて聞いた事もないぞ?」


 バロンは以前知ったスカル・タランチュラの情報を話す、実際スカル・タランチュラは本来そのような知能を持った魔物ではない。


「確かに普通ならそんな知能は無いわ、だけど……。」


ゴゴゴ……


 シェリーが説明を続けようとしたその時、突然地面が揺れだした。


「!?」


「なんだ!?」


「地震か!?」


 そして、地面の一か所が大きく盛り上がったり、全員の視線がそこに集まった。


「どうやら、私達が罠にかからなかったから、直接捕らえに来たようね。」


 シェリーは盛り上がった一点を見つめながら話す、そして地面から出て来たのは、巨大な蜘蛛の足だった。


「そう言えば、以前聞いた事があります、スカル・タランチュラの雌には、極稀に異常な繫殖力と強さを持った特殊な個体が生まれる事があると……」


「私も本で読んだ事がある、その個体は高い知能を持ってて、さらに群れ全体をテレパシーで操る能力を持つって……」


 エラとカティは緊迫の表情でその存在の情報を話す、そして、地面から伸びた足は地面に突き刺さり、穴からその全体が出てくる。


「おいおい……」


「マジかよ……」


「嘘だろ……」


 そして、銀の流星の男性陣は人間など軽く餌にされそうなその魔物の大きさに驚愕と恐怖の表情を浮かべる。


「まさか、こいつが……」


「そうよ、そしてこいつがその特殊な個体、スカル・タランチュラの親玉……マザー・タランチュラよ。」


 ラウルが目の前の存在に驚愕の表情を浮かべ、シェリーはその魔物の名を呼ぶ。


「キシャアアアア!!」


 マザー・タランチュラは一同に向かって甲高い鳴き声を浴びせた。

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