11・竜の被害者?
「覚悟しなさい! この泥棒猫!!」
ヘリオスを指さして叫ぶ銀髪のポニーテールに緑眼の妖精。
「あの……ブランドンさん、彼女は一体……」
ラウルがブランドンに尋ねるが、ブランドンも困惑している様子だった。
「さぁ……さっき突然飛んできてヘリオスに突っかかって来たんだ……」
ラウルはとりあえず妖精に近付く。
「あのー……」
「あ! あんた!!」
妖精はラウルを指さすと、ラウルの左手にあるヘリオスとの契約の証である魔法陣に近付く。
「うー……やっぱり……」
妖精は左手の魔法陣を悔しそうに眺めている。
「あ……あの……君はだれ……?」
「私はシェリー……あんたの本当の従魔よ!」
妖精はラウルを指さしながら叫んだ。
「……はい?」
「本当の従魔……?」
ラウルとブランドンは訳が分からないといった様子だ。
「あれは少し前の事よ……」
シェリーは過去の事について話し始めた。
――――――――――
『あら?』
森の中にいたシェリーの目の前に突然召喚の魔法陣が現れた。
『召喚の魔法陣ね……でも……これは……』
シェリーは魔法陣を観察し、呼び出している人間の魔力を調べる。
『これは……凄い魔力ね……だけど……』
さらにシェリーは、魔法陣に込められている思いから呼び出している人間が助けを求めている事を知った。
『こいつと契約できれば……待ってなさい! このハイフェアリーのシェリー様が助けに……キャァ!!』
シェリーは召喚に応じようと魔法陣の中に入る、しかしその時、突然の暴風が吹き荒れ、シェリーは魔法陣からはじき出されてしまった。
『いたたた……一体何が……んな!?』
そこに飛んできたのは巨大な赤いドラゴンであった、そう、ラウルに召喚される前のヘリオスである。先ほどの暴風は全速力のヘリオスの羽ばたきによる物であった。ヘリオスはそのまま召喚の魔法陣に飛び込んだ。
『ちょ……ちょっと!! そこは私の……』
しかし、魔法陣は眩い光を放つと、そのままヘリオスと共に消えてしまった。
『……』
シェリーはしばらく魔法陣があった場所を茫然と見つめていた。
――――――――――
「……と、言うわけよ、それで、あの時と同じ魔力を感じて飛んできたってわけ。」
「つまり……元々ラウルさんとはあなたが契約する筈だったという事なのですか?」
シェリーに問いかけるエラ。
「そうよ、なのにこのデカブツが横から割り込んで来て……」
シェリーはガルルルと唸りながらヘリオスを睨む、しかし、ヘリオスはそんなシェリーに目もくれていない。
「だが、召喚を横取りされたって、そこまで怒る事なのか?」
バロンもシェリーに問いかける。
「何言ってんの? 私たちにとって、強い魔法使いと契約を結ぶってのはすごいステータスなのよ!」
「そうなの?」
カティは首を傾げながら言った。
「魔法陣を見た時、彼はすごい魔力を持っているという事がわかったのよ、契約のチャンスが来た時は周りの妖精にも大きな差を付けられると思ったのよ、なのに……」
シェリーは悔しそうな様子である。
「けどよ、ラウルはそれで良かったんじゃねーか? 従魔にするならどう考えてもお前みてーなチビ助よりドラゴンの方ガッ!!」
突然ビリーの顔面に風の球がさく裂、ビリーは吹っ飛ばされた、勿論その風の球はビリーの発言に怒ったシェリーの魔法による物である。
「ビ……ビリー!!」
ビリーに駆け寄るブランドンとエラ。
「私はこれでもハイフェアリーよ! その辺の魔物より強いし、薬草の知識だってあるんだから!」
「……えーと、シェリー……だったかな。」
今まで黙って話を聞いていたラウルが口を開いた。
「何よ。」
「君にとっては災難だったけど、俺はヘリオスと出会って救われたんだ。」
ラウルはシェリーにこれまでの事を話した、学校での事、実家での事、そして自身の身体に施されてた封印の事も。
「ヘリオスは俺を地獄から救い出してくれた恩人なんだ、だから君にした事は許してくれないか?」
(恩人て、人じゃねーよな……)
ブランドンはヘリオスを眺めながらそんなどうでもいいツッコミを心の中で入れていた。
「おーイテテテ……」
ビリーは鼻を摩っている。
「……フン、何よ、私だってそれぐらい……」
話を聞いたシェリーはだいぶ落ち着いたが、腕を組んでむくれている様子だった。
「……あ、そう言えばさっき、薬草の知識があるって言ってたよな?」
ブランドンはシェリーの発言を思い出す。
「ええ、それが何?」
「ひょっとして、こいつの事も知ってるのか?」
ブランドンは羊皮紙に描かれた月光花を見せる。
「ああ、月光花ね、知ってるわよ。」
「本当!? どこにあるの!? 教えて!」
カティがシェリーに詰め寄った。
「あの山の麓の洞窟にあるわ、多分もう咲いてるわよ。」
シェリーは遠くにある山を指さす。
「あら? 月の光に反応して姿を現すのでは?」
事前に聞いていた情報を話すエラ、今は昼時、晴れ晴れとした青空が広がっている。
「あそこの洞窟はちょっと特殊だから、昼間でも月光花が咲く条件が整うのよ。」
「成程な……とりあえず行ってみるか。」
「けど結構遠くねーか? 歩いて行くのは骨が折れ……」
山を眺めながらビリーが言った、しかしその時、ラウルとバロン以外の全員の視線がヘリオスに集まった。
「おい、まさか……」
そして、バロンはそんなメンバーを見て一人顔を青くしていた。
そして、山へ向かって飛び立つヘリオス、その背中にはやはりラウルと銀の流星一同が乗っていた、シェリーはラウルの肩に乗っている。
「うっひょーー!! こりゃ気持ちいい!!」
ビリーは受けている風を心地よく感じているようだ。
「こんな人数乗ってて平然と飛べるなんて……」
エラはドラゴンの飛行能力に驚いている。
「……」
そして、バロンは蹲って震えていた。
「大丈夫ですか、バロンさん。」
ラウルはそんなバロンを心配していた。
「ダ……ダ……大丈夫ダ……」
しかし、バロンの顔は真っ青になっており、表情も引きつっている、そうしている内に、目的地の山へと到着した。
「ヘリオス、山の周りを周ってみてくれ。」
ラウルの言葉に従い、山の周りを周るヘリオス。
「あの洞窟よ。」
シェリーは麓にある一つの洞窟を指さす、ヘリオスは洞窟の前に降り、一同はヘリオスの背中から降りる、ラウルはバロンに肩を貸していた。
「うう……」
頭を抑えて木にもたれかかって座り込むバロン。
「大丈夫ですか、水どうぞ……」
ラウルはバロンに水筒を渡す。
「すまない……」
バロンは水を一口飲む。
「お前昔から高い所駄目だもんなぁ。」
ビリーも笑いながら二人と一緒にいる、ブランドンと女性陣は洞窟を観察していた。
「この洞窟……輝いてる?」
カティの言う通り、その洞窟を構成している石ははキラキラと光を放っていた。
「この洞窟を構成している特殊な鉱石が太陽光を反射しているのよ、その光は奥に行く程弱くなるから反射された弱い太陽光に反応して奥で月光花が生えるってわけ。」
「成程な……」
シェリーの説明に納得した様子のブランドン。
「ああ、言い忘れてたけど、この洞窟確かゴブリンの巣になってた筈だから気を付けて。」
ゴブリン、世界各地に幅広く生息しているD級モンスターである、一体一体の実力は低いが、それなりに知能がある為大勢で襲い掛かられるとかなり厄介だ。
「俺達はB級冒険者だぜ、ゴブリンごとき何体も討伐してきたし、楽勝さ。」
シェリーの警告に対して得意げに答えるブランドン。
「よし、もう大丈夫だ。」
なんとか気分を持ち直したバロンが立ち上がる。
「よし、行ってみようぜ。」
ブランドンに続いて入っていくメンバー。
「ヘリオス、悪いけど少しの間だけ待っていてくれ。」
大きさの都合により入れないヘリオス、寂しそうに頷いた、そして一同はシェリーに続いて洞窟へと入っていく。
「結構長い洞窟だな……」
ブランドンは洞窟を見回している。
「だいぶ薄暗くなってきましたね……」
ラウルはバッグから水晶のような光の魔道具を取り出し、辺りを照らす。
「本当に何でも入ってるんだねそのバッグ……」
カティはバッグを見つめている、前方を飛んでるシェリーは訝しげな表情をしていた。
(妙ね……そろそろゴブリンが出てもいい筈だけど……)
「ん?」
ビリーが洞窟内にあった何かに気付いた。
「どうしました、ビリーさん。」
「ラウル、それ貸してくれ。」
「はい。」
ビリーはラウルから光の魔道具を受け取り、見つけた何かに近付いて照らす。
「ゴブリンの死骸だ……」
「なに!?」
全員がビリーの元へ近づく、確かにゴブリンの死骸だった、エラはゴブリンの死骸を調べる。
「体が壊死していますね……恐らく毒死だと思われます。」
そして、エラはゴブリンの首筋に空いている二つの穴に気付く。
「この穴……ここから毒を注入されたようですね。」
「!?」
「どうした、カティ。」
洞窟の奥を見て驚きの表情を浮かべるカティとそれに気付くブランドン。
「見て!」
ビリーはカティが指さす方を照らす、すると……
「これは……」
全員の表情が驚きに包まれた、そこには、無数のゴブリンの死骸が転がっていたのだ、エラは2・3体のゴブリンの死骸を調べる。
「やはり……同じ死因のようです。」
その死骸は、どれも体のどこかに二つの穴が空いており、その部分から体が壊死していた。
(これは……まさか……)
シェリーはその死骸の様子からある魔物を思い出した。
「みんな、急いで洞窟を出ましょう!」
危険を感じたシェリーは急いで洞窟から出るように促す。
「なんで?」
しかし、カティはその理由がわからないようだった。
「恐らくこれはある魔物の仕業よ、私の予想が当たっているならかなりまずい……」
「シェリー。」
突然シェリーを呼ぶバロン、その表情は、何か危険を感じているように強張っていた。
「残念だが……手遅れみたいだな。」
その時、一同を取り囲むように無数の小さな光の点が現れた、そしてその光は、だんだんと一同に近付いて行く。
「お……おい……」
だんだんと顔が強張るビリー、そして、近付いた事によってその光の正体が明らかになった……
「噓でしょ……」
怖気づいた様子のカティ、その光の正体は、魔物の眼だったのだ。
「こんな……まさか……」
その数に驚き、後ずさるエラ。その魔物は、白い甲殻と黒い体毛に覆われた巨大な蜘蛛の大群だった。
「こりゃ……ヤベえな……」
冷や汗を流し、剣を構えるブランドン、そして、ラウルもバッグから愛用の剣を取り出し、構える,
そして、その魔物の名を口に出す。
「スカル・タランチュラ……」
B級モンスター、スカル・タランチュラの大群が、一同を取り囲んでいた。
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