9・新たな出会い
「……」
ラウルは困惑していた、自分が寝ている間にボロボロの冒険者パーティーがヘリオスと対峙していたからだ。少し開けた扉のスキマから覗いているので冒険者パーティーはラウルに気付いていないようだ。
「どうすんだよ……とてもドラゴンとやり合う力なんて残ってねえぞ。」
「……万全の状態でも……相手にならないかと……」
身軽な装備の男に修道服の女性が答える。
「確かに……」
斧を持った男性も答えた。
(マズいな、早いとこ止めないと……)
扉を開こうとしたラウル、しかしその時……
「……仕方ねえな。」
膝を付いていた金髪の剣士が立ち上がる。
「ブランドン?」
魔法使いと思わしき赤いセミロングの女性が剣士の名前を呼ぶ。
「俺がドラゴンを引き付ける……お前らはその間に逃げろ。」
(ええーーー!!!)
まさかのブランドンの言葉に驚愕するラウル。
「何を言ってるのです! そんなの駄目……」
修道服の女性がブランドンの腕を掴んで止めようとするが、ブランドンはその腕を振り払う。
「どのみちこのままじゃ全員死ぬだろ……俺が引きつけりゃ……」
(どうしよう……何か止めづらい雰囲気になってきた……)
一方ラウルは冷や汗をかいていた。
「なら俺が……」
「いや、いくらお前でもその状態でドラゴンの攻撃には耐えられない……」
斧を持った男性が囮を引き受けようとするが、ブランドンに拒まれる。
「じゃあ俺だ! 俺の素早さなら……!!」
「その足で躱せると思うか?」
斥候の男も囮を引き受けようとするが拒まれる、よく見ると斥候の男は右足に大きな怪我を負っている。
「今んとこあのデカブツの攻撃を避け続けられるのは……俺だけだろ……」
ブランドンはヘリオスに向かって剣を構える、因みにヘリオスは今だキョトンとしていた。
「……ブランドン!」
目に涙を浮かべながら叫ぶ魔法使いの女性。
「お願い止めて……あなたが好きなの!!」
「!?」
(ええーーーー!!)
突然ブランドンに告白した魔法使いの女性、ラウルも驚愕した。
「あなたを愛してる……あなたを失いたくない……だから犠牲になるなんて止めてよ!」
「カティ……」
修道服の女性が魔法使いの名前を呼ぶ。
「悪いなカティ……」
「え?」
「相思相愛だったってわかったら……尚更死なせる訳にはいかねえな。」
「!?」
自分の想いを打ち明けたブランドン、そしてブランドンはヘリオスに向かって一歩一歩近づいていく。
「さよならだお前ら……幸せになれよ……」
ブランドンはヘリオスに向かって走り出す。
「ブランドン!!」
「ブランドン!!」
「ブランドン!!」
「ブランドン!!」
「うぉぉぉぉーーーー!!!!」
パーティーメンバー全員が叫ぶ、ブランドンは剣を振り上げた、しかし……
「ストーーーーーップ!!!」
「へ? どぉわああ!!」
扉を勢いよく開けて叫ぶラウル、突然の静止の声に体勢を崩したブランドンは勢いよく転んだ。
「ストップ! ストップ! 皆さん、何か勘違いしてるようですが、こいつは敵じゃありませんよ!」
ラウルはヘリオスとブランドンの間に入る。
「……あ……あなたは……?」
パーティー全員が呆気に取られている中、修道服の女性ががラウルに尋ねる。
「俺はラウル・ロックヴェルト、訳あってこの廃墟の教会に住んでる者です、そしてこちらのドラゴンはヘリオス、俺の従魔です。」
「じ……従魔!?」
「嘘つけ! ドラゴンを従魔にしてる奴なんて聞いた事ねえぞ!」
斧を持った男性が驚き、斥候の男が叫ぶ、ラウルはドラゴンの胸と自分の左手の甲にある魔法陣を見せる。
「従魔の証……じゃあ……本当に……?」
魔法使いが唖然としている。
「はい、とりあえず俺たちは野盗でもなんでもないので、皆さんに危害を加えるつもりはありません。」
「そ……そうか……」
グゥゥ~~~
パーティーメンバーが安堵したその時、全員のお腹が鳴った。
「……ヘリオス、悪いけど適当に何か獲物捕ってきてくれない?」
ヘリオスはラウルに対して軽く頷くと、翼を広げてどこかへと飛んで行った。
「本当に従魔なんだな……」
人間の少年に対して従順に従うドラゴンに驚いている様子のブランドン。
――――――――――
その後、ヘリオスが巨大な黒い猪の魔物、ブラッキーボアを捕って来たので、ラウルと冒険者パーティーはその丸焼きを全員で囲んでいた、ラウルも自分が捕ってきた山菜や木の実、キノコをふるまっていた、ヘリオスは傍で寝息を立てている。
「ぷはーー、生き返ったーー!!」
ラウルが確保していた水を飲み干すブランドン。
「本当、もうダメかと思いましたわ、ありがとうございますラウルさん。」
修道服の女性がラウルにお礼を言う。
「いえ、こんな時はお互い様ですよ、それで、皆さんは……」
「悪い、遅れちまったな、俺たちは『銀の
「斥候のビリーだ。」
「私はカティ、魔法使いだよ。」
「僧侶のエラです。」
「バロン、重戦士だ。」
「よろしくお願いします、それで、皆さんはどうしてこの森へ?」
「この草を探しに来たんだよ。」
ブランドンが1枚の羊皮紙を取り出す。そこには、三日月のように反りあがった細い花弁を持つ花が描かれていた。
「月光花……?」
「ああ、アルセント王国のギルドからそいつの納品依頼を受けて来たんだ。」
「アルセント王国!?」
ラウルは驚いた、アルセント王国と言えば、海を越えた向こうにある別大陸の国だからだ。
「そんな遠くから……」
「その花は強力な魔法薬の材料になる貴重な物だからね。」
「けどその月光花が捕れるのはこのグランディック大森林だけだ、だから俺らの大陸じゃかなりの価値があるし、その分報酬もデカいってわけだ。」
カティとビリーが自分たちの目的である月光花について説明する。
「それで、意気揚々と海を越えて大森林に来たのは良いんだが……」
「思っていたよりも森林の魔物のレベルが高く、苦戦の連続だった上に、地図を無くして、道に迷ってしまいまして……」
「もう何日彷徨ったかもわからず、水も食料もアイテムも底を突いて数日、この教会を見つけてな、何かあるかもと思って、ここに来たってわけだ。」
バロンとエラ、ブランドンが自分たちの経緯を説明する。
「そ……それは……大変でしたね。」
「まあな……本当死ぬかと思ったよ……」
ラウルの労りの言葉に対し、ブランドンは俯いていた。
「で、ラウルはどうしてこんなところに住んでんだ?」
ビリーがラウルに問いかける。
「俺ですか?」
「そうだな、見たところ割と良い所の坊ちゃんみたいだが……それが何だってこんな危険な森林の廃墟に、しかもドラゴンと一緒に住んでるんだ?」
バロンもラウルとヘリオスをまじまじと眺めながら問いかける。
「あー……色々と、話せば長くなりますが……」
ラウルは銀の流星にこれまでの経緯を話す、学校での事と実家での事、ヘリオスとの出会い、セバスチャンの手紙の事も全て包み隠さず。
「という訳で、しばらくはここで寝泊まりしようかと……」
気が付くと、全員しんみりとした雰囲気になっていた。
「そんな歳で……苦労されましたね……」
「ちょ……エラさん……」
隣に座っていたエラに頭を抱きしめられ、胸が頭に当たっているので赤面するラウル。
「それにしても、後に生まれただけでそんな扱いとはなぁ、貴族ってのも大変だな。」
そう言うとビリーはブラッキーボアの肉を齧る。
「まあ、金持ちってのはそれなりに面倒事もあるもんだ。」
バロンも水を一口含む。
「だけど、まさかドラゴンがそんな昔の恩を覚えてるなんてね。」
カティは丸くなって寝息を立てているヘリオスを眺めている。
「ドラゴンの知能は意外と高いと言いますからね、中には人語も理解出来るという説もあるそうですよ。」
エラは以前本で得た知識を話す。
「けどよ、ヘリオスと会った時はマジで死を覚悟したんだぜ、ラウルも早いとこ止めてくれりゃ良かったのによ。」
ブランドンは笑いながら言った。
「いやー、なんか、皆さん思わぬ事言い出して止め辛くなっちゃって。」
「ふっ……確かにあれじゃ止め辛いかもな。」
苦笑するラウル、バロンも笑みを浮かべている。
「ハッハッハッ、そりゃそうだな、ブランドンは犠牲になるとか言い出すわ、カティは突然告るわ……で……」
「……あっ……」
ビリーが大笑いしながら話していると、ブランドンは先ほどカティが自分に告白し、さらに自分もカティに想いを打ち明けていた事を思い出し、カティに目を向ける。
「……」
カティもその事を思い出したのか、ブランドンと見つめ合って沈黙する、そして……
ボンッ!! プシュー!!
真っ赤になって両耳から湯気を吹き出し、倒れた。
「お、おいカティ!」
ブランドンが駆け寄り、抱き起すと、カティは真っ赤な顔で眼を回していた。
「さっきの告白を思い出したのでしょうね……凄い熱です。」
エラがカティの額に手を添える。
「まあ、お互い想いを打ち明けられて良かったんじゃないか、ハハハ……」
「ア……アハハハ……」
笑い合うラウルとバロンだった。
この後、しばらくの間ラウルとヘリオスは銀の流星と行動を共にするのであった。
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