4・忘れられた過去

 ジンとの決闘の翌日、いつも通り登校するラウル、因みにドラゴンの事は家族には伝えていない。


「よ、ようロックヴェルト……」


「元気か……?」


 突然ジンの取り巻きだった男子数名が道を遮る、しかし、肝心のジンの姿は見えない。


「……ベルディクトはどうした?」


 ラウルは男子の一人に問いかける。


「あ、あいつ……今日は来てないみたいなんだよ。」


「昨日お……お前に負けたのがショックだったんだろうな。」


「じ……実は俺たちも、前からベルディクトの事が気に入らなくてさ。」


「良かったら、これから仲良く……」


 どうやらベルディクトが居なくなったのでラウルに取り入るつもりらしい、しかし…… 


「……失せろ。」


 ラウルは男子達を睨みつける、今までジンと一緒になって虐めていたのだから当然だろう、男子達は怖気づいたように逃げ出す、しかし、その中で一人だけ残っている者がいた。


「ラウル……」


「アンディ……」


 ラウルの幼馴染、アンディだった。


「俺たち、小さい頃はよく遊んでたよな……今までの事は謝るからさ、良かったら、また前みたいに……」


 しかし、アンディが気付くと、ラウルはすでに歩き去っていた、そのまま廊下を歩くラウル。


「……おっと。」


 ラウルが歩いていると、突然ラウルが召喚したドラゴンが窓から顔を出し、すり寄って来た。


「……なあお前、どうして俺を助けてくれたんだ……?」


 ラウルはドラゴンに問いかける、召喚の際に自身が助けを求めていたからだという事はわかっているが、それになぜドラゴンが応じたかがわからないからだ、ドラゴンは不思議そうに首を傾げる。


「……通じるわけないよなぁ……あっ」


 ラウルはドラゴンの胸に付いている魔法陣を見て思い出した。従魔と自身の魔法陣を重ねる事で自信と従魔の心を同調させ、従魔の記憶を見る事が出来る事を、ただしそれが出来るのはある程度知能が発達した魔物だけである、御伽話ではドラゴンの知能は人語が話せたり凶暴だったりと様々だが、実際の知能がどれ程かはわからない。


「……やってみるか……」


 ラウルは窓から降り、ドラゴンに近付くと、自身の左手をドラゴンの胸の魔法陣に重ね、意識を集中する。すると、頭の中に景色が浮かんだ。


(ここは……森の中か……?)


 恐らくドラゴンの記憶の中だろう、視界の低さから幼い頃だという事がわかる。


(……?)


 突然森の奥から何かが近づいて来た。


(!?)


 ラウルは驚愕した、何故なら、ドラゴンに手を差し伸べてきたその人間は―


(幼い頃の……俺……?)


「お前……まさか……」


 ラウルは思い出した、幼い頃の出来事を……



――――――――――



 10年前の事である、ラウルが森の中を散歩していたら、ボロボロの幼いドラゴンを見つけたのだ。


『セバスチャン! 大変大変!!』


『どうしました? ラウル様……これは……』


 老年の男性、セバスチャンは驚愕した、ラウルが連れてきたのは、最強種族と謡われる伝説の魔物、ドラゴンだったからだ。


『ドラゴン……まさか……何故こんな所に……』


『この子、すごい怪我負ってるんだ、なんとかならない?』


『かなり衰弱している様子……このままでは危険ですな、こちらへ。』


 セバスチャンは部屋へ案内する。


『ひとまず身体を拭いてからポーションをかけましょう。』


『うん。』


 二人は綺麗な布でドラゴンの身体を拭いていく。


『ギャウ! ギャウ!』


 傷口が痛むのか、ドラゴンは喚きながら暴れる。


『おっとっと』


『大丈夫、大丈夫だから。』


 その後、セバスチャンはドラゴンの身体にポーションをかける。


『大丈夫かな、セバスチャン。』


『傷が酷いのでハイポーションでも治るかどうか……ドラゴンの生命力にかけるしかありませんな。』


 しかし、ポーションが効いたのか、ドラゴンは落ち着きを取り戻して来た、二人は安堵の表情を浮かべる。


『一先ずは安心ですな。』


『良かった……』


『ラウル様、少しいいですか?』


 セバスチャンは真剣な面持ちで話す。


『なに?』


『この子の事は2人だけの秘密にしましょう。』


『なんで?』


 ラウルは不思議そうな表情で問いかける。


『ドラゴンに関しては分からない事が多すぎるからです、もしこの子の存在が知られ、学者や魔法使いに連れて行かれればこの子はどうなるかわかりませんぞ、最悪殺されて解剖される事も十分あり得ます。』


 ラウルの表情に恐怖が浮かんだ。


『ですから、この子のためにも、この事は2人だけの秘密にしましょう。』


『わかった、約束する。』


 その後、食事を与えた甲斐もあってドラゴンは順調に回復したが、一番大きな額の傷だけは完治できず、跡が残ってしまったのだ。そして一週間後、ドラゴンを野生へと返す日が来たのでラウルとセバスチャンは魔法で森の中にに転移していた、ラウルはドラゴンを両手で抱き抱えている。


『セバスチャン、どうしても返さなきゃ駄目なの?』


『残念ですが駄目でございます、前も言った通り人間の下で暮らすのはこの子にとってあまりに危険です、いつまでこの子の存在を隠しておけるかわかりませんからな。』


 ラウルは寂しそうな表情でドラゴンを見つめる。


『ギャウ~』


 ドラゴンもどこかしら寂しそうである、ラウルはドラゴンを降ろす。


『さ、ラウル様。』


『うん……さようなら、また会おうね。』


 二人が背を向けたその時、何かが羽ばたく音が聞こえた。


『!?』


 二人が振り向くと、ドラゴンは既に飛び去っていた。


『……別れの時だという事を理解したのでしょうか、ドラゴンは我々が思っているより賢い種族なのかもしれませんな。』


 その後、セバスチャンとの約束通り、誰にも話さず、セバスチャンの前でも滅多に話さなかった。そして、誰にも話さないでいる内に自分でも忘れてしまったのだった。



――――――――――



 そして今、ドラゴンの記憶を覗く事で全てを思い出したのだ。ドラゴンの額にはあの時残った傷跡もある。


「そうか、お前……あの時のお礼に……」


 思い出してくれた事を理解したのか、ドラゴンはラウルにすり寄る、ラウルは笑顔でドラゴンの頭を撫でる。


「ロックヴェルト君、そろそろ授業の時間だが……」


「あ、はい、すみません。」


 教師に呼ばれたので、ドラゴンから離れる。


「ごめんな、少し辛抱してくれ。」


 ドラゴンの寂しい気持ちを感じたので、頭を撫でて窓から戻る。



――――――――――



 ラウルがロックヴェルト邸に帰って来た時だった、突然兄、アラスターが駆け寄って来たのだ。


「ラウル!!」


 アラスターは表情に怒りを浮かべて叫ぶ、身に覚えがないラウルは戸惑っていた。


「俺と決闘しろ!! 今すぐだ!!」


「……え?」

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