3・救いの時
校庭にいた生徒達は驚愕に包まれていた、教官も腰を抜かしている。当然だろう、目の前に存在するのは全ての生物の頂点と言われている伝説の生物、ドラゴンなのだ、それもそのドラゴンを召喚したのは落ちこぼれの筈のラウル、ドラゴンの胸とラウルの左手の甲には契約の証である魔法陣が現れている
「嘘だろ……」
「そんな筈が……」
「へっ、あいつがドラゴンを呼べる筈があるか! どうせ見てくれだけの木偶の棒だろ! やっちまえ! 俺の従魔!」
一人の男子生徒が自身の従魔であるトロールをドラゴンに差し向ける。
「ちょっと、止めなさい! クリード君!」
女性教官が止めようとするが、トロールは棍棒をドラゴンに向かって振り上げる、しかし、次の瞬間、トロールは尻尾によって吹っ飛ばされた。
「ああ、俺の従魔ーー!」
差し向けた男子生徒がトロールに駆け寄る、しかし、トロールは生きてはいたものの気を失っていた。
「トロールを一撃で……」
「やっぱり、ドラゴンなのか……?」
ドラゴンは吹っ飛ばしたトロールから自身を召喚したラウルへと目を移す。ラウルも自分の目の前の存在が信じられず唖然としていた。
「……!? お、おい、ちょっと……」
ドラゴンは突然ラウルにすり寄る、まるで猫か犬のように。
「ス…ストップ! ストップ!」
ラウルが戸惑っていると、ドラゴンは突然何かに気付いたようにラウルから顔を離す。そして、ラウルの事をまじまじと様々な方向から見つめる。
(どうしたんだ……?)
突然ドラゴンの身体から淡い光が放たれ、ラウルの身体に青白い紋様のような物が浮かび上がった。
「な…何だ!?」
しかし、その紋様はラウルの身体から離れると罅割れ、砕け散った。
「……?」
訳が分からず、茫然としているラウル、しかし、しばらくボーっとしているとある事に気付いた。ラウルは立ち上がると、地面に手を向け、魔法を唱える。
「ファイアボール」
ラウルはファイアボールを放つ、しかし、その大きさは以前とは比較にならない程で、その直径は1mを超えており、地面に巨大なクレーターを作った。
(無くなってる……閊えが……)
ラウルが魔法を使う際に感じていた閊えのような感覚が無くなっていたのだ。
――――――――――
その後、校庭には人だかりが出来ていた、ラウルが召喚したドラゴンが丸くなって寝ているからだ、 ラウルは教室の窓からドラゴンを眺めている。
(あれは一体何だったんだ……?)
先ほど自身の身体に浮かび上がり、砕け散った紋様、それをきっかけに魔法がうまく使えるようになった、その事からあの紋様が自身の魔法を阻害していたと見て間違いない、そしてそれは恐らくあのドラゴンによって消された。
(あれは……まさか……)
ラウルが考え込んでいたその時、教室の扉が開いた。
「みんな、次はBクラスとの合同授業だ、闘技場に移動しなさい。」
教官に従い、Aクラス全員で闘技場に移動する。
「さて、今日の決闘学は実技として事前に決めた二人にを実技を行ってもらう、ロックヴェルト君、
ベルディクト君、前へ。」
ジンとラウルが闘技場の中央へ出る。
「おい、落ちこぼれ、なんかドラゴン呼んで調子に乗ってるらしいがな、別にてめえが強くなった訳じゃねえんだからな、勘違いすんじゃねえぞ。」
ジンがイラついた様子で話すが、ラウルは何も返さない。
「おいこら、無視してんじゃねえぞ。」
ラウルはジンを見つめるだけで何も言わない。
「舐めてんのかこらぁ!!」
「ベルディクト君、落ち着きなさい、ロックヴェルト君、準備は良いかね?」
教官はベルディクトを止め、ラウルに声を掛ける。
「はい。」
ラウルは無表情のまま返事をする。
「では……始め!!」
「舐めやがって……思い知らせてやる、ウィンドブレード!!」
ジンは1m程の風の刃を放つ。
「グランドウォール」
ラウルは魔法で土の壁を作り出す、以前はベニヤ板程の厚さしか作れなかったその壁の厚さは1m半を超えており、その壁は風の刃をたやすく防いだ。
「そ……そんな……」
ジンは驚愕の表情を浮かべている。
「へっ、まぐれで防げただけでいい気になるな!! ファイアキャノン!!」
続いてジンは巨大な炎を放つ。
「タイダルブラスト」
ラウルは魔法で津波を起こし、相殺する。
「馬鹿な……あいつがあんな魔法を使える筈が……」
他の生徒達の表情も驚愕と動揺に包まれている。
「お、おい……あいつ、本当にロックヴェルトか……?」
「別人じゃねえの……?」
ジンは次第に表情を歪める、生徒達の前でラウルを痛めつけて楽しむ筈だったのが思い通りにならずイラついているのだ。
「クソがぁ……ならこいつでどうだ!! ブリザード!!」
ジンは魔法で吹雪を起こす、その吹雪はラウルを包み込んだ。
「ファイアバースト」
ラウルは自身の周りに炎の渦を発生させ、吹雪を相殺する。
「ふざけんじゃねえ、ふざけんじゃねえ……ぶっ殺してやる!」
ジンの身体に魔法陣が現れる、自身の身体を強化する魔法だ。続いてジンは遠方にある物を取り寄せる魔法で剣を取り出す。
「ちょっ、ベ、ベルディクト君?」
明らかに殺す気でかかるジンに戸惑う教官。
「死ねーーー!!」
ラウルに向かって剣を振り下ろす、しかし、その剣はラウルが同じ魔法で取り出した剣により容易く防がれた。
「なっ……クソ、クソ、クソ!」
剣を振り回し続けるジン、しかし、ラウルはセバスチャンから教わった剣術で容易く防いでいく、さらにラウルは剣を降り抜き、ジンの剣を吹き飛ばす。
「……」
啞然としているジン。
「もう止めよう。」
「なに?」
ラウルの言葉に驚くジン。
「お前だって分かってるだろ? もう俺の方が強いって事はさ。」
「ふ…ふざけんな、お前なんかに……」
「俺は大勢の前で一方的に人を痛めつけるような趣味はない、だからこれ以上やるなら……」
ラウルは自身の頭上に巨大な雷の玉を作る。
「一撃で終わらせるぞ。」
「わ…わかった! わかった!」
ジンは両手を着き、頭を下げる。
「参りました……降参します……」
こうして、実技の勝敗はついた。
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